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愚者の末路

分かってるって、本番はここからよ。


「さあ、行こう、我が愛しき······」


アルワデーラがセレスティーヌへ手を伸ばし、きらめく王子様の笑顔を浮かべた、その瞬間だった。


シャンデリアの光を遮り、ホールの天井を突き破って、『それ』は現れた。


魔法によって練り上げられた、鈍色に光る巨大な鉄の塊。

直径3メートルはあろうかという、無骨で、ただ「重さ」だけを追求した円錐形の『分銅』。


――ゴォォォォォン!!


鼓膜を震わせる重低音と共に、分銅がアルワデーラを直撃した。


悲鳴を上げる暇すらなかった。

漆黒の黒髪も、着飾った服も、帝国の皇子としてのプライドも。

すべてが、磨き抜かれた大理石の床と、数トンの鉄塊の間に挟まれた。


グチャリ。


木の実が弾けるような、嫌に生々しい音がホールに響き渡る。

分銅の隙間から、ドクドクと赤黒い液体が溢れ出し、白い大理石を汚していく。



遅れてやってきた衝撃波が、料理の並んだテーブルをなぎ倒し、令嬢たちの悲鳴がパーティー会場を地獄へと変えた。


セレスティーヌの頬に、熱い液体が飛び散る。

それが、つい先刻まで自分に愛を囁いていた男のの一部だと理解した瞬間、彼女は声もなく崩れ落ちた。


「なんと言う事を!」

「終わりだ······帝国の皇子を殺したなんて······宣戦布告の様なものだ······!」


騒然とする教師や生徒たちを前に、リーシャは返り血を浴びた手でスコーンを摘み、パクリと口に入れた。


「だって、ムカつく顔してたから······」


そう言いながら彼女は、まだピクピクと動いている分銅の下の何かを指差す。


「ほら、見てよ。帝国の皇子も潰れたら、ただの肉団子じゃん」


咀嚼音と共に放たれるその言葉に、誰もが背筋に氷を流し込まれたような恐怖を感じた。


セレスティーヌは腰が抜けて動けないようだ。永遠の愛を誓い合った白馬の王子様が、唐突に肉塊と化したのだから当たり前だ。


「ところで、王子?」

「どうした?リーシャよ?」

「コイツら、さっさと国を出ようとしてたけど良いの?」

「良くないな。まだ正式な婚約の解消が行われていないのだ。仮に皇子と婚姻を結び直すとしても暫くは、王国に居なければならぬ」


自分でやっておいてコイツら······と呆れ返るギャラリー達だが、確かに帝国の皇子と言えども、他国の婚約が解消されていない令嬢を連れて帰るのは誘拐と同じなのだと気付く。


「ちなみに、帝国では、床で潰れてるコイツの歳まで婚約者がいないなんて有り得るの?」

「いや。有り得ないな、帝国の皇子など幼少期から婚約が······まてよ?」


ノクタスは気付く。自分達と同年代である大帝国の皇子が、婚約者がいない事など有り得ないのだと。


「婚約者が本国に居れば、コイツも同じ穴の狢。居なければ周辺国の王族どころか、国内の貴族にすら相手にされない地雷物件」


会場がざわつく。自分達では計り知れない、天の上の存在だと思っていた皇子が、ただの俗物かも知れない可能性が出てきたからだ。


「あとこの女。あれだけ貴族の義務だの血筋だの高尚なことを言っておいて、どこの馬の骨とも知れない男にホイホイ付いていくんだ? 呆れた。今のお前、ただの国家転覆罪の共犯者だよ」


震えるセレスティーヌにリーシャは、追い撃ちをかける。

ノクタスは勿論、あれだけ祝福していた会場のギャラリー達は、蔑んだ目で彼女を睨む。


「国賊を捕らえよ!」


ノクタスの声を聞いた兵士達が、セレスティーヌを拘束する。


「離しなさい!私は何も······!嫌ぁああ!」


「取り敢えず、一区切りか·····」

「お肉、美味しい」



────


大荒れの卒業パーティーは、公爵令嬢セレスティーヌが乱心のために投獄と言う形で幕を下ろした。



流石に婚約破棄直後に颯爽と出国は印象が良くないね!

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