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トカゲに見えますが、実はドラゴンの生き残りで、人間にもなれます。  作者: 四馬㋟


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閑話 とあるエルフが語ります。



 エルフであるということを除けば、私はどこにでもいるような平々凡々の男である。

 これといった才能もなく、野望もない。


 そんな私が玉座に座り、重責を負わされ、権力を振りかざすようになったのは、ひとえに優秀過ぎる弟のせいである。



 私の名はアルフレッド・ヴァンタ。

 

 

 緑豊かな美しい森で、優しい両親のもと、私と弟は何不自由なくすくすくと育った。打てば響くタイプの弟とは違い、子どもの頃の私はいつもぼうっとしていて、空を見あげたり、美しい景色に見とれては絵を描いてばかりいた。


 同年代の子どもたちの中には、たくさん勉強して魔術師や神官になりたい、身体を鍛えて冒険者や騎士になりたいという者もいたが、私はそのどちらでもなかった。ただ最低限の暮らしができて、絵さえ描ければそれで満足だった。


 両親も私にはなんの期待もしていなかった。


 幸い弟が優秀だったので、両親の関心は全て弟に向けられていた。

 弟は魔術師になるべく、部屋にこもって勉強ばかりしていた。


 まだ小さかった頃は私の後ろを雛のようについて回っていたのに。


 

「兄さん、どうせ描くならドラゴンを描いて下さい」

「……お前は本当にドラゴンが好きなんだな、アーネスト」

「はい、僕はいつか、ドラゴンの背中に乗って、世界を旅してまわるのが夢なんです」


 

 最年少で魔術師学校に合格した弟は、両親の期待を一身に背負い、家を出て行った。

 弟がいなくなると、両親はようやく私の存在を思い出したらしい。

 

 十六歳になった年、弟が魔術師ならお前は神官になれと言われて、厳格な宗教学校に入れられた。規律の厳しい生活は苦痛以外の何ものでもなかったが、幸い、その学校では絵を描くことも教えていて、私は夢中になって宗教画の勉強をした。


 私は毎日のようにドラゴンを描いた。

 私の里では空を飛ぶドラゴンの姿を見かけない日はなかったし、より身近な存在として感じられたからだ。


 宗教的にもドラゴンの存在は重要な意味をなす。

 ドラゴンを邪悪な存在とみなす宗教もあれば、大地の化身、財宝の守り神として信仰する宗教もある。


 それを善ととらえるか、悪ととらえるかは、いつの世も人間しだいだ。


 私は四大元素をつかさどる精霊として、ドラゴンを描いた。火を吹くドラゴン、風をおこすドラゴン、水を操るドラゴン、岩となって地面と一体化するドラゴンたちを。


 自然は時として人間に牙を剥く。

 それはドラゴンも同じだ。


 学校を卒業すると、私は両親の期待通り神官になった。

 とある田舎村に派遣された私は、そこで村人たちの病や傷を癒し、豊作を願って大地の神に祈りをささげた。


 神官としての仕事をするかたわら、私は相変わらず下手な絵を描き続けた。

 私の描いたドラゴンの絵を、魔除けとして買いたいと言うもの好きもいたが、欲しければただでくれてやった。



 穏やかで退屈な日々だった。


 まもなく戦争が始まり、平和な時代は突如として終わりを告げる。



 村の若者たちは次々と姿を消した。神官である私も戦地に駆り出され、多くのケガ人や病人の治療にあたった。けれど私は無力だった。救った命よりも救えなかった命のほうが遥かに多く、痛みに泣き叫ぶ兵士たちの声――死にたくないと助けを求める声が、私の心をじわじわと蝕んでいった。治療中に、捕虜だった敵兵に殺されかけたこともある。


 何より耐え難かったのは、敵兵に故郷を焼かれ、美しかった森を焼け野原に変えられたことだ。金目になるものは全て盗まれ、女子どもたちは攫われて、男たちは見るも無残な姿で殺されていた。

  

 あの地獄を生き抜いてこられたのは、近くに弟の存在があったからだろう。


 魔術師となった弟は着実に功績を上げ、軍師にまで上り詰めたものの、長引く戦いに疲弊しきっていた。



「兄さん、この国はまもなく滅びます。その前に手を打たないと……」



 弟は国主より与えられた広大な領地を持っていた。そこへ生き残った民衆を避難させると、自衛軍を組織し、籠城戦にもちこんだのだ。自国が滅びたあとも戦乱に乗じて他国の保護下に入り、長い年月を費やして独立を果たすと、



「今から兄さんがこの国の王です。私には他にやるべきことがありますから、あとはお願いします」



 弟は私に国王という名の重責を押し付けると、いっそう魔術の研究に没頭した。

 戦争はまだ終結しておらず、私たちは常に死と隣り合わせだった。


 魔獣と呼ばれる人工モンスターを生み出したのも弟だ。


 防衛用の兵器を開発しようとした途中で、なぜか生命体が誕生してしまったらしい。

 偶然の産物だった。

 


 魔獣は高い殺傷能力を持ち、恐ろしく狂暴で、研究者の一人に襲い掛かり、食べてしまったそうだ。あまりにも危険すぎると、すぐに殺処分しようとした弟に、私は待ったをかけた。



「殺さずに生かすべきだ。戦えない兵士の身代わりになる」

「ですが、この魔獣には知性がありません。敵味方関係なく襲いかかります」

「だったら魔獣だけで構成した軍隊を作ればいい」



 なおも渋るアーネストを、私は必死に説得しようとした。

 最終的には王としての権力を振りかざし、有無を言わせず彼に命令した。



「敵地に魔獣を送り込め、アーネスト。人間同士の殺し合いは、もううんざりだ」



 戦争が終わったのはそれから十年後のことだった。

 各国に送られた魔獣が繁殖を繰り返し、大量発生したため、国主たちはその対応に追われて、戦争どころではなくなってしまったからだ。 


 

 あれから千年以上が経った今でも、アーネストは自分を責め続けている。

 今この瞬間も、魔獣が人間を食い殺しているからだ。


 だが私は、あの時の判断を少しも後悔していない。


 戦争によって荒れ果てた大地は、皮肉にも魔獣が住み着いたことで草木が生い茂り、元の肥沃な大地へと回復を遂げた。私の故郷にある美しい森も復活し、植物系魔獣の住処になっている。もう二度と、人間に踏み荒されることはないだろう。


 人は時として、荒れた自然を動植物に返し、回復を図ろうとする。


 私はそれを実行したに過ぎない。

 今もなお、人間が汚し、破壊尽くした自然を、魔獣たちが浄化してくれているのだと考えて、私は密かに神に感謝するのだった。



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