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トカゲに見えますが、実はドラゴンの生き残りで、人間にもなれます。  作者: 四馬㋟


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第十八話


 前世で、夢中になって見ていたテレビ番組がありました。

 当時は人気だった恋愛リアリティ番組で、司会者が女性ゲストにいつも決まってある質問をします。


 貴女が男性に求めるものはなんですか? と。


「地位や名誉ですか?」

「いいえ」

「では、財力ですか?」

「いいえ」

「だったら男らしさ?」

「いいえいいえ」


 女性は神妙な顔をして答えました。


「たった一つだけです。私を傷つけないこと」


 この言葉に強く共感したのを覚えています。

 一度でも恋愛に失敗した経験がある人なら、誰もが共感するはずです。



 傷つくことを恐れていたら何もできない。

 傷つくことで人は大人になる、強くなる。


 

 ですが、誰も望んで傷つけられたいとは思わないでしょう。

 マゾヒストではないのですから。

 

 ヨルンは私のことを大切に育ててくれました。

 これからも大切にしてくれるでしょう。


 たとえ傷つけられることがあっても、彼なら許せる気がします。

 私も、ヨルンのことが大好きですから。

 

 けれど三日経っても、一週間経っても、私はそのことを彼に伝えられずにいました。

 

 

 何度も言うように、私はドラゴンです。

 人間ではありません。


 

 この世界にも精霊信仰、動物信仰なるものがあり、ドラゴンは大地の化身、精霊、神の使いとして神聖視されることもありますが、私に言わせればただの大きな空飛ぶトカゲ――化け物です。そんな私とツガイになんてなったら、ヨルンが陰で何を言われるか……確実に変人扱いされてしまうでしょう。ワイスさんは別ですが。



 間違いなく周囲の人たちは反対するでしょう。我が子に甘い公爵ですら呆れるに違いありません。

 ですがヨルンの意思は固く、実行に移せる行動力もあります。


 彼のためを思うなら潔く身を引くべき――求婚をきっぱり断るべきでしょう。


 と思ったのですが、それもできません。

 そんなことをすれば次の発情期にワイスさんに一服盛られ、朝起きたら隣にザイオンが眠っていた……なんて事態になりかねませんから。


 

 私は悩みに悩んで、悩み続けて……結局いつまで経っても答えを出せずにいました。


 答えを出せない罪悪感からか、ついヨルンのことも避けてしまって、一人で悶々と考え込んでしまいます。

 私が以前ほど「魔法で人間にして」と頼まなくなったせいか、ヨルンは最初、不思議そうにしていましたが、



「しばらく一人になりたいんだね、分かったよ」



 寂しそうに言いつつも、私を放っておいてくれました。


 どうやら最近、ワイスさんと一緒に魔法開発研究所に入り浸っているらしく、ヨルンも忙しくしています。

 家に帰らない日もあるので心配ですが、今は彼と距離を置いているので何も言えません。


 

 それから瞬く間に数か月が経ち、夏になりました。



 冬場は散歩以外、家の中にこもりきりだった私ですが、暑くなると外へ出て、思う存分身体を動かします。

 走って、空を飛んで、また走って、空を飛ぶ。


 勢いあまって川や湖に飛び込み、泳ぐこともあります。


 寒さに弱いドラゴンですが、夏場は快適に過ごせるので、自然と外にいる時間が長くなります。

 ドラゴンの皮膚は固い鱗で守られていますから、虫に噛まれても平気です。


 たくさんの蚊に刺されても、痒さのあまりのたうち回ることもありません。

 誤って巣を壊してしまい、蜂の大群に襲われた時も無傷でした。


 前世では虫に刺されるのが嫌でアウトドア関連には一切手を出さなかった私ですが、死にそうに暑い夏の時期だけは、屈強なドラゴンの身体で良かったと思えます。大きくなった今では熊に遭遇しても怖くありません。それどころか、狩猟の森で堂々と昼寝だってできます。体長十二メートルのとぐろを巻いた巨体には、誰も手出しできませんから。



 その日も、私は狩猟の森で昼寝をするつもりでした。


 人間だったら猛暑の中での昼寝なんて自殺行為ですが、ドラゴンとなった今では、母ドラゴンのお腹の中にいるような、居心地の良さを覚えます。


 私のお気に入りの場所は、森の端っこにある岩場です。

 太陽の光で熱々に温められた岩の上で、身体を伸ばしてダラダラと寝そべるつもりでしたが、今日は珍しく先客がいました。


 黄金色に輝くドラゴンです。


 大きさはザイオンと同じくらいでしょうか、私よりも一回り大きく、どっしりとしています。間違いなく雄でしょう。

 けれど私は逃げませんでしたし、逃げようとも思いませんでした。


 匂いを嗅いで、そのドラゴンの正体が誰か、早くから気づいていたからです。


 私の気配を察して、黄金色のドラゴンがこちらに顔を向けました。

 晴れ渡った空のような瞳に私の姿が映し出されています。


 彼は大きく翼を広げると、羽ばたき、助走することなく飛翔しました。

 まるで私について来いと言わんばかりに高く高く飛んでいきます。

 

 その姿を見た瞬間、私は生まれて初めて、ドラゴンを美しいと思いました。


 多少の恐怖心もありましたが、好奇心が勝りました。

 光に引き寄せられる羽虫のように、反射的に彼を追いかけてしまいます。


 いつしか、私は彼と並んで空を飛んでいました。


 近づきすぎてバランスを崩すと、すぐさま彼が大きな身体で支えてくれます。

 時に巨体をぶつけ合い、時に尻尾を絡ませ、じゃれ合いながら私たちは飛んでいました。


 そして遊び疲れて地面に降り立つと、互いの匂いを交換するように身体をこすり合せ、寄り添って眠りました。



 社会性のある生き物ほど、孤立することにストレスを感じると言われています。


 ドラゴンに生まれ変わったせいなのか、私の場合は特に親や仲間を求める気持ちはなく、これまで孤独を感じたことはありませんでした。

 それは私の心が人間で、人間に囲まれて生活しているからだと思っていたのですが、違いました。


 彼の――ヨルンのおかげです。


 私が孤独を感じる暇もないくらい、一緒にいて、たくさんの愛情を注いでくれたから。

 今もドラゴンの姿で、私のそばにいてくれます。


 もしかしたら、私が本当は寂しがり屋で、臆病者だということに気づいているのかもしれません。


 ヨルンは子どもの頃、愛する人に……母親に捨てられた過去があります。

 私も前世で、似たような経験をしました。


 私たちの関係を、傷の舐め合いだと言う人もいるでしょう。

 

 ですがそれでも構いません。

 私はヨルンのことが好きです。心から彼のことを愛しています。


 そのことを今、痛いくらい実感しました。

 

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