御使いガールズと十の未来 ~青の粒子、揺らぐ運命~
崩れゆく世界でも、
笑って騒いで生き残ろうとする娘たちと、
静かに未来を選ぼうとする佐和子の物語です。
「閲覧者が、この部屋の惨状で見ると笑っちゃうよね」
恵が鼻を鳴らす。
翔はその様子に頭を抱えながらも、どこか呆れたように言った。
「なぁ、いい加減に俺の部屋から出てってくんねぇ?
オレもう心がもたない」
――ゴミの山に埋もれたソファで、
半泣きの翔がスマホを握りしめる。
「え、でも今ここが“世界の拠点”って感じじゃない?」
夏樹がカチューシャを揺らしながらキョトンとする。
ねずみの耳がピョコンと跳ね、部屋の空気を少し和らげた。
「さっきから警察も来たし、ニュースも取り上げてんだぞ。
俺、このままじゃやべぇって!」
翔の声はすでに半泣きだ。
「まぁまぁ、いいじゃん。私たち救世主なんで」
紗耶香が悪戯っぽくウィンクする。
スマホ画面に映る「御使いガールズ」
ハッシュタグが、通知音を鳴らした。
「私、救世主って言われるの初めてだ」
恵がほんの少し誇らしげに言うと、夏樹もふっと笑った。
――その笑顔の向こうで、空の塵が窓辺に薄く積もり始める。
◇ ◇
ガウは地球が塵に覆われていく姿を見ながら、佐和子に話し掛けた。
「この惑星の未来を、大まかに十通りに分けた」
佐和子はその言葉を静かに聞いていた。
視界の先では、塵に飲まれていく青い星が、
まだゆっくりと自転を続けている。
――その隙間から、かすかな金色の粒子が混じり、
星の息吹のように揺らめいた。
「――どの未来も、これまでの人類の延長ではない」
佐和子は呟くように繰り返す。
「お前たちが選んだ過去の積み重ねが、この終末を導いた。
その先をどうするかは、
この星の者に委ねるべきだと私は考える」
ガウの声は酷く冷静だったが、
わずかに揺らぎが混じっていた。
――彼の影が、虚空で一瞬、
佐和子のシルエットを映すように歪む。
「なら、なぜ“私に選べ”と言うのです」
佐和子は一歩踏み出し、ガウの影にその足を踏み入れた。
――その瞬間、二人の間に微かな熱気が生まれる。
「私は……滅びの未来を受け入れることなど出来ません」
静かに、それでも確かな声だった。
ガウはほんのわずか、唇の端を歪めた。
「その言葉もまた、未来のひとつを確定させる」
大気圏の外、塵と光の奔流に包まれた宙で、影が揺らめく。
「だが、勘違いするなよ。
私は今も“受肉”などしていない。
ただ、この星の未来を十通りに分岐させ、
その内のひとつに確定の種を撒くに過ぎん」
佐和子は視線を上げ、ガウの瞳を探る。
黙してそれを受け、やがて自らの胸元に触れ、囁く。
「ならば私は――“この星の娘たち”を信じてみます」
その瞬間、佐和子の周囲の空間が微かに歪んだ。
塵の中で青の粒子が舞い、十の分岐の一部がかすかに揺らぐ。
――それは、地上の天使たちの笑顔を映すかのように、優しく輝いた。
「いいだろう。それもひとつの答えだ」
ガウは最後にひとつ、言い残した。
「覚えておけ、佐和子。
この星の魂の総量は変わらん。
誰かを救えば、その分どこかが沈む。
それが“運命”というものだ」
――その言葉に、ガウの影が佐和子の手に優しく触れ、
ゆっくりと虚空に溶けていく。
残された佐和子は、その場で目を閉じ、
そっと手を胸の前で組んだ。
「……私は、それでもいい」
青の粒子が彼女の周りを包み、静かな決意を照らす。
佐和子は分かれた分岐のひとつ、
「ダンジョンが世界に溢れ、滅亡する未来」に目を向けた。
彼女の体から、ちび佐和子が飛び出してくる。
――小さな翼をパタパタさせ、
無表情ながらもキラキラした瞳で主を見つめる。
「ひとつでも多くの世界を救うのよ」
佐和子がちび佐和子に語り掛ける。
ちび佐和子は無表情で敬礼をした。
その小さな手が、未来の鍵のように輝く。
佐和子は微笑んでそれを返す。
「私はここで、すべての惑星が滅亡するまで
ガウを待つことになりそうだから」
――虚空に残る青の粒子が、
地上の娘たちへ向かって、そっと降り注ぎ始めた。
部屋の笑い声も、
虚空で揺れる分岐の影も、
すべては彼女たちの“選ぶ未来”につながっています。




