魂の等価 ~御使いガールズ、誕生!~
魔核が揺らすのは運命か、それとも心か。
希望と諦念の境界で揺れる彼女たちの選択を、
そっと見届けてください。
志津香は一瞬、言葉を飲み込んだ。
「……本気ですか?」
「本気もなにも、私ってさ、ずるい女だから。
たとえ“死んでた”って言われたって、
こうして遊園地でソフトクリーム食べてさ、
最後までふざけて生き残るってのが私の流儀なの」
紗耶香は軽く肩を竦め、魔核を弄ぶように回す。
空気が変わった。
夏樹も恵も、何も言えずにその場に立ち尽くした。
「運命に抗うのも、誰かの代わりになるのも、
結局さ、最後に笑ったもん勝ちでしょ?」
その目は冗談めいて笑っていたが、
どこか張り詰めたものを宿していた。
――瞳の奥に、戦場の残像がちらつく。
「いいの? それ、本当に等価交換だよ」
志津香の声は低かった。
「知ってるよ。だからちょうどいいじゃん。
私、もう一回くらい誰かのために
死んでみるのも悪くないって思ってる」
恵が慌てて手を伸ばすが、紗耶香は軽くかわした。
「だめだよ! そんなの、そんなの誰も望んでない!」
紗耶香が魔核を手にしたまま、
場の空気が静まりかえった時だった。
志津香はふと呟くように話し始めた。
「例えば、藁人形で人を呪い殺せるという逸話があったりしますが、
いくら髪の毛を入れたって、たかが人形で人は死にません。
強い暗示がかかることはありますが、とても不安定なものです」
恵が小さく息を呑む。
「じゃあ、等価交換って本当に効くの?」
志津香は視線を外さず、さらに続けた。
「仮に呪い殺せたとしても、
その結果は等価交換で自分に返ってきます。
――人を呪わば穴二つ、ということですね」
「それ、怖すぎ…」
夏樹が呟き、皆の視線が魔核に集中した。
誰も口を挟めず、ただ志津香の声が響く。
「ただ、そこで注意すべきは
――魂の価値は同じではないということです」
夏樹が眉をひそめる。
「え、どういうこと?」
「赤子と老人であれば、
寿命の長い赤子が価値が高いとは限りません。
同じように、一般人と犯罪者でも、
どちらが価値が高いかは一概に言えない」
志津香は手を静かに上げ、指先で虚空をなぞる。
「赤子は生まれつき無の状態で生まれてきます。
そこから様々な穢れを受け、淀みます。
そこで淀みを祓うことが出来るかが、
魂の行方を左右するのです」
恵が小さく尋ねる。
「祓うって、どうやって?」
「穢れを祓えない魂は、その重みで沈んでいき、
祓えた魂は、光を見つけることが出来る」
志津香の手の軌跡に、淡い光の残像が浮かんだ。
しんとした空気が流れる。
「だから紗耶香さん」
志津香はそのまま、真正面から彼女を見つめた。
「あなたが持っているその魔核は、
魂を汚しもすれば、祓うこともできる。
使い方次第です。
そのことだけは、どうか忘れないでください」
紗耶香は黙って志津香を見つめ、ふっと口角を上げると、
胸元の魔核をそっと撫でた。
――塊が微かに震え、赤い光が一瞬漏れる。
その時、翔スマホの通知が鳴り響いた。
夏樹が画面を覗き込み、
「あ、なに勝手にSNS立ち上げてるの?
フォロワー13万超えてるし」と呟く。
「“御使いガールズ”って名前勝手につけられてんだけど」
恵が吹き出した。
「え、ダサくない? でも悪くないかも」
紗耶香がインスタント焼きそばを
フォークでつつきながら、画面を覗く。
「まあ、あんたたち映えすぎたからね。あの粒子の中でさ」
画面には
「テーマパークに救世主降臨」
「御使いたちの奇跡」
「世界の希望」などのテロップ。
塵の降る空の下、
ソフトクリーム片手に笑っている自分たちの姿まで映っていた。
――コメント欄は
「天使コスプレ神!」
「塵の世界で元気もらった」
「でもあの黒い影、何?」で大盛り上がり。
「これで私たち、インフルエンサーだね。
次は魔核でスポンサー取ろうか」
紗耶香が冗談めかして笑う。
その瞬間、魔核の脈動が部屋に低く響いた。
音はまるで、遠い心臓の鼓動のように
――重く、深く。
紗耶香の冗談と覚悟、志津香の静かな戒め。
彼女たちの一言一言が、世界をつなぎとめる灯となります。
翔はちゃっかりSNS立ち上げてました。




