天使たちのソフトクリーム防衛戦 ~金色の閃光、降臨!~
降り注ぐ塵にゆっくりと侵されていく世界。
地上に取り残された三人の看護師天使は、今日もいつも通りで――
いや、ちょっとだけ終末っぽいトラブルが混ざっていた。
「こんにちわー。ちょっといいですか?」
女性のリポーターがマイクを向けてくる。
「ずいぶん綺麗にされていてー、何か対策されてるんですか?」
「ああ、朝からスプレーして、ビニ傘さしてました」
紗耶香がニヤリと笑い、送風機をチラ見せ。
「あと、携帯送風機で塵をブイーンって」
「えーっ、効果あるんですか?」
「もちろん、防塵性だよ。試してみる?」
紗耶香が送風機をアナウンサーに向けた。
「あっ、大丈夫かな。ありがとうございましたー」
リポーターはぎこちない笑顔で離れていく。
その足元には、ほんのりと砂の粒子が積もり始めていた。
――空の奥で、かすかな振動音が響き始める。
カメラマンがレンズを拭いながら、ため息混じりに呟く。
「こりゃ明日あたり番組飛ぶな……」
「もう、ソフトクリームが溶けてきちゃったじゃん」
「あっ、こっちからも流れてるよ」
恵が反対側をちろちろと舐めた。
「なんかエロい。ちょっとこっち向いてもらっていい?」
夏樹がスマホを構える。
それはたしかに――
終末に咲いた一枚の花のような瞬間。
周囲のざわめきも、テーマパークの空虚なBGMも、
すべて遠のいて見えるような、静かな一瞬。
「夏樹元気ないじゃん。こんな時、もっと仕切りたがるし」
紗耶香がソフトクリームを一口分けながら。
「あっ、もしかして佐和子さんと離れて寂しいんじゃない?」
恵がそう言うと、
夏樹の目にぶわっと涙が浮かんだ。
「私、元気で声がでかいって言われるけど、
あんまり人から声かけられることはなくて」
「あー」
「何となくわかるわ」
二人が同時に頷き、肩を寄せる。
「それが、天使になってからみんなとも仲良くできて、
すごく上手くいってる気がして」
「もしかして、それって全部佐和子さんが
フォローしてくれてたからかも知れなくて」
「もしかしてだけどーー」
「気づいちゃった?」
一瞬の静寂。
空の奥で、再び遠雷のような振動音が鳴った気がした。
――だが三人はそれを聞き流す。
代わりに、夏樹の頰を伝う涙を、
そっと拭う手があった。
「まあ、一回何か食べて落ち着こっか」
「お金も手に入ったし」
「ここのハンバーガー食べたがってたでしょ」
「大好き」
ささいな願いのような声が、
降り注ぐ塵の中に、ふっと消えていった。
ナヴァォオオオオ――
黒い塊が、大気を裂いて上がってくる。
まさしく、終末の予兆だった。
横幅十五メートルを超える巨体。
二つの触覚から青白い燐光がスパークし、
全身の鱗が不気味に発光を始める。
しかし、地上に残された天使たちの反応は早かった。
「夏樹」
「わかってる」
すばやく正面に盾を構えると、
二本の触覚の間から放電が始まった。
紫電がビリビリと絡み合い、空気を焦がす臭いが広がる。
テーマパークの鉄骨が軋む音が響く。
「長いっ。このままじゃ蓄電された電気が
テーマパークに拡散してしまう」
「上に逸らす!」
恵が鞭で体表を叩く。
だが、粘体性の鱗ではじき返される。
恵は悟る。
この外皮は、ただの肉体ではない。
塵に含まれる“終末の因子”をまとう異常進化体。
それでも、恵の鞭の先端には
“インパクト瞬間硬化”の神力が走る。
「通せる――行ける!」
鞭の先が鱗の隙間を抉り、黒い体液を噴出させる。
「ふんっ!」
夏樹が構えたハンマーで吹き飛ばす。
鱗は割れない。
だが、その質量と神力で――
巨体は空を裂き、轟音を立てて海に落下。
「内攻・閃!」
空から一直線に、志津香が現れた。
拳が鱗を貫き、
内部で爆発するように振動を伝える。
黒い塊が痙攣しながら再び海面に落ちていく。
水飛沫が弾け、金の粒子が夕光に紛れて浮かぶ。
――粒子はゆっくりと天使たちの周囲に集まり、
淡い光のヴェールのように輝いた。
その瞬間、テーマパークの人々が歓声を上げた。
何も知らず、ただ花火の演出だと信じて。
「……行こうか。まだ片付け残ってるしね」
志津香が拳を握ったまま、静かに言う。
その表情は――
誰よりも静かで、誰よりも熱かった。
金の粒子が、彼女の翼に優しく舞う。
――第二の息吹を予感させながら。
読んでくださりありがとうございます!
天使たちの軽妙な掛け合いと、
迫り来る“終末の影”の対比を楽しんでもらえれば嬉しいです。
ここから2日に一度の投稿とさせていただきます。




