天使たちのテーマパーク大暴走 ~塵の金色パーティー~
世界が崩れても、天使たちは笑う。
テーマパークで繰り広げられる、塵まみれの青春と暴走。
これは、終末の中の“金色のパーティー”。
「もう、いいじゃん。自由にやれってことでしょ」
紗耶香がぼそりと言った。
ガウの指示が途切れ、彼女たちは半ば地上に放棄されたのだ。
「でも、世界が大変なことになるって言ってたし……」
恵はドリンクのストローをいじりながら、不安げに呟く。
――頭上では、黒い塵がパラパラと降り注いでいた。
「全部あの男が勝手にやったことじゃん。私たちも被害者だよ」
「でも……」
「じゃあ、志津香と合流するまでさ、私たちもフリーで動こうよ」
紗耶香が笑えば、恵もつられて肩をすくめる。
「コンビニでお菓子買って、カラオケ行こう!」
「私、テーマパーク行きたい!」
夏樹が目を輝かせ、
買ったばかりのねずみ耳カチューシャをピョコンと揺らした。
「あ、それいい」「行こ行こ」
街中だと、光輪や翼が見える人が出る。
だがテーマパークなら――“演出”で押し通せるかもしれない。
「天使の翼、アトラクションのエフェクトみたいに見えるかも!」
恵が笑いながら言った。
その日の空気は、“平和”というより“忘却の風”のようにぬるかった。
冷たいドリンクを片手に歩く三人は、人類の未来よりも、
次のプリクラ機の空きを気にするような気楽さだった。
* * *
「ちょっと! なんでビッグサンダーもスプラッシュも止まってんの!」
紗耶香がしびれを切らすと、
恵がスマホをちらっと見て肩をすくめる。
「塵のせいで安全点検できないって。まぁ、そりゃそうだよね」
「でも屋内施設まで全部停止はやりすぎじゃない?」
「全部じゃないよ。ダンスとかはやってるみたい」
「ほら、あれ」
恵が指差した先では、パレード用の広場でパフォーマーたちが踊っていた。
降りしきる塵をものともせず笑うその姿は、美しく、どこか痛々しい。
――空がかすかに明滅し、黒い塵に金色の粒子が混じり始めていた。
「あれ……希望の欠片? ただの光の反射?」
夏樹が小声で呟く。
「今さ、こうやって普通っぽくしてる方が安心なんだよ。たぶん」
紗耶香がストローを噛みながら言う。
「パフォーマー見てよ。
『塵なんか関係ねー!』って感じでカッコいいじゃん」
「私たちも、行けるうちに楽しも」
「明日どうなるかもわかんないしね」
恵は塵の隙間から青い空を見上げた。
金色の粒子が、かすかにきらめく。
巨大な砂時計は、いまも淡々と砂を落としている。
「ほんと……どうでもよくなるよね、いろいろ」
「でもさ」
夏樹がふわっと笑う。
「こうやってお菓子食べて歩いてると、やっぱ楽しいじゃん」
三人は顔を見合わせ、くだらない理由で笑い合った。
天使の翼が陽光に透けて虹色に光る。
夏樹は大きなねずみの耳のカチューシャを付け、
恵は赤いリボンのついたサングラスをかけている。
紗耶香は人魚のロゴが入ったつば付きの帽子をかぶり、
ねずみの肩掛けバッグにぬいぐるみを沢山詰め込んでいた。
「私、ここに来たの始めて!」
夏樹が笑いながら耳を揺らす。
「あっ、そこテレビ局来てるよ」
「暇だねー。他にやることいっぱいあるでしょ」
テレビ中継に気を取られていると、
正面から歩いてきた男に恵が胸を鷲掴みにされた。
「いって」
恵が手を振り払って睨みつける。
サングラスがずり落ち、鋭い視線が男を射抜く。
「このっ!」
紗耶香が即座に回し蹴り。
男は派手に吹き飛ばされた。
地面に転がり、塵を巻き上げて咳き込む。
「いいじゃねぇか。どうせもうお終いなんだ。
最後にちょっとくらいいい思いさせてくれよ」
男は顔を腫らしながらも呟いた。
「何であなたの『いい思い』に私が付き合わなくちゃいけないのよ」
恵が吐き捨てるように。
その瞬間、紗耶香の顔つきが変わる。
どこか、戦場で悪魔を捻じ伏せる時の顔だった。
「ああ、そうだ」
唇の端を吊り上げて、紗耶香は悪い顔をした。
瞳に悪戯の炎が灯る。
「私達も『いい思い』したいから、あなたのお財布ちょうだいよ」
「ふざけんな」
紗耶香は男の胸倉を掴んだ。
「私達は優しいからそれで許してやろうって言ってんの」
ぎりぎりと締め上げると、男のポケットから財布がでてきた。
周囲の人々は見て見ぬふりをする者もいれば、
スマートフォンでこそこそ撮る者も――たくさんいた。
「なんか、すごいなぁ(憧れはしない)」
夏樹は微笑ましく眺めていた。
「夏樹は変なとこ真面目だよね。普段ぶっ飛んでるくせに」
「ねぇ、スマホにもお金入れてるんじゃん?」
「鬼だな」
「天使だよ」
「ほら、ID送りな」
「こんな可愛い娘とID交換できるなんて、ラッキーじゃん」
「あとで家も教えてね」
「もうお終いだったら私達が有効利用してあげるから」
「私こういうお金貢いでくれる優しい男、好きなンだわ」
「無駄に行動力だけある男は使いやすい」
「言いたい放題だな!」
男が首元を押さえてせき込みながら、思わず突っ込む。
その瞬間、テーマパークのスピーカーから
再び明るい音楽が流れだした。
どこか空虚なそれは、まるで既にいない
客のために鳴らしているような響きだった。
先程のテレビ局が騒ぎを聞きつけ、
カメラを回しながらこちらに向かってくる。
「ヤバ、カメラ来た」
恵が苦笑いしてサングラスをかけ直す。
その隙をついて、男は紗耶香の肩を突き飛ばし、
よろめいた隙に身を翻して駆け出した。
――財布を握りしめ、塵の渦を掻き分けて逃げる影。
「あっ、逃げた」
「一旦放し飼いだね」
「……ま、いいや」
紗耶香は笑って帽子を深くかぶる。
金色の粒子が、彼女の肩に優しく舞い落ちる
――まるで、今日の小さな勝利を祝福するように。
天使たちの“どうでもよさ”と“楽しさ”が、
新たな物語を生み出していきます。




