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SSR看護師天使、地上に放置された結果——世界最強の闇落ちアイドルができました  作者: ふりっぷ
第二章 マクタン島 カジノ神殿ラピス・レクイエム編

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30/30

閑話:赦されなかった歌が、世界を呼吸させる

本編とのリンクは50%くらいです。

一話完結で世界の揺らぎをお届けします。

胎蔵領域《ウムイ=アテリエ》


瓦礫の山の向こう、崩れた病院の屋上で、

誰かが歌い始めた。最初はひとり。


次に、ふたり。

やがて、十を超える声が重なった。

かつてのSR看護師天使たち。


天界から派遣され、終末世界の怪物に破れ、

癒しの力を「役立たず」と切り捨てられた少女たち。

彼女たちはもう、白い翼を失っていた。


代わりに背中に生えたのは、

黒ずんだ光輪の残骸――


腐ったハローと呼ばれる、闇に染まった輪っかだった。

歌声だけは以前と変わらず、澄んで響く。


「死にゆく世界に捧げる、最後の子守唄」


そう自嘲しながら、彼女たちは歌う。

ハミングだけの合唱。


かつて患者に囁いた「大丈夫だよ」の残響が漏れる。


その声は、胎蔵領域の奥まで届き

紗耶香の胸が熱くさせた。


でも、涙はもう出ない。

恵を傷つけた時、全部乾いてしまったから。


代わりに、彼女は笑った。


「……あんたたち、こっちに来る?」

黒く染まった6枚の翼が持ち上がり、

左右で長さの違う角が、黒く輝き始める。


天界でΣ-01が舌打ちした。


「堕天してまでアイドルごっこを続ける気か、

 闇落ちしてまで信仰を集めるとはね」


紗耶香が、壊れたマイクスタンドを拾い上げる。

先端は折れて、鋭く尖っている。


「さあ、始めるよ。

 この星に残った歌声を響かせよう!」


そのとき、空が裂けた。


白銀の残響が、地上に落ちて来る。


夏樹だった。


翼は無くなり、ステージ衣装は血と砂にまみれている。

でも、瞳だけは、まだ燃えていた。


「……ごめん。

 人間としてここに来てしまって」


紗耶香は首を振った。

「いいよ。

 無理言ったってわかってる…」


夏樹が顔を上げる。

その目に、驚きと、そして――喜びが浮かんだ。


「だったら、一緒に歌おうか」

紗耶香は手を差し出した。

夏樹はその手を握った。


冷たい。でも、確かに温かかった。

その瞬間、腐ったハローたちが囲んでくる。


紗耶香の黒い光輪が、ゆっくりと回転を始める。


――世界最強の闇落ちアイドルグループ、誕生の瞬間だった。


彼女たちの歌は、癒しじゃなかった。

赦しでも、希望でもなかった。


ただ、

「ここにいるよ」と、

「まだ終わってないよ」と、

「一緒に壊れよう」と、世界に噛みついた。


塵が消し飛ばれされた後も、

新たな絶望が、吐き出されていく。


遠くで、アスタロスが見ていた。


仮面を外した素顔で、静かに呟く。


「……ああ、これでいい。

 救うんじゃない。

 一緒に堕ちるんだ」彼は微笑んだ。


魔王が、初めて人間らしい顔をした。

歌は終わらない。


世界が終わるまで、続く。

その歌は、もう誰かを救わない。


ただ、誰かと一緒に、最後まで叫ぶだけ。

それで、十分だった。


――神々の残響は、少女たちの響きに塗り替えられた。


新しい世界の呼吸は、

黒く、熱く、確かに脈打っていた。


「……私は、救われる側に戻る気はない。

ここで、みんなと壊れる方を選んだ」


 空は割れ、天界にまでそびえ立っていた因果の塔は、

 形を失った。


 今度は断面から、無数の光子が滲み出している。

 まるで壊滅の裏側で、誰かが世界を編み直しているかのように。


 ――祈りの式、完了。

 ――ラピス・レクイエム、全領域再起動。


 冷たい声が、空間の奥から響いた。

 バルナバーシュは黒い砂の上に立ち、胎蔵領域を見上げていた。

 彼の足元には、まだ再構築の走査光が走っている。


 瓦礫が浮かび、記憶が反転し、

 先程のライブ映像が幻像のように再現されては、すぐに霧散する。 


「……結局、こうなるのか」


 彼はひび割れた手を空へ伸ばす。

 その掌から、白と黒の光が同時に立ち上った。

 再生と腐敗が同居する――それが、彼という存在の証明だ。


「……紗耶香、か」


 バルナバーシュは膝をつき、タバコを吹かした。

 欠けたモニタで、彼女の唇はわずかに動き、

 途切れた歌を続けている。


 その声に呼応するように、世界の境界が震えた。


 ――彼女の祈りで、この世界は生き延びた。


 風が吹いた。

 灰と光が混じり合い、まるで新しい空気のように世界を満たす。 


「Hello calling――」

 御使いガールズの通信残響が続いている。

 それは彼女たちの祈りの残滓――演算された歌声だ。


 バルナバーシュは静かに笑った。

「これだけ再生されるとは、たいした天使どもだな……」


 空が裂ける。

 崩壊した旧世界の上に、新しい世界が――重ね描きされていく。


 その光景は、断罪と救済のあいだにある、奇跡の余白。

 崩壊し、なお歩むことを許された新たな世界の幕開けだった。

これが、本編にどこまで影響してくるかはお楽しみです。

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