御使いガールズの派手ステージ準備 ~火柱と光の翼で世界へ!~
御使いガールズが、
世界へ羽ばたくための準備回です。
「お前、御使いガールズってグループの一員らしいな?」
不意に背後から声を掛けられ、
紗耶香はビクリと肩を震わせた。
振り向かず、静かに返す。
「さあ、何のことかしら?」
「フォロワー数、もう五百万超えてるんだろ。
生で見たいってコメントも殺到してるぜ?」
「……あんたに関係ないでしょ」
くるりと振り返った紗耶香は、
開き直ったように顎を上げた。
目の前には、豪奢なスーツに身を包んだ男──
マクタン島カジノのオーナー、バルナバーシュ。
軽い。
だが、わずかに引きずるような歩き方。
「ステージ、解放してやってもいいぜ?」
銀のチップを指で弾き、
カチン、と音が響いた。
光が反射して、紗耶香の瞳を刺す。
「マクタン島神殿カジノ。
世界同時接続、千万超えだ。
出れば、一気にトップアイドルだぜ?」
紗耶香が口を開くより先に──
「ありがとうございますっ!!」
翔が食い気味に割り込んだ。
「今期バズ枠No.1って言われてるラピス・レクイエムで
リアルタイム世界配信、全言語字幕付き
夢の舞台です!」
翔の目はギラギラと光り、
ノートを握りしめて肩を震わせる。
「ちょっと、翔くん。浮かれすぎ」
「いや、だって……!
これ、出られたら御使いガールズが伝説になりますよ!」
「伝説とかいいから……こいつに借りを作りたくないのよ」
「借りなんて思わねぇよ。ビジネスだ」
その声は軽い。
だが、目だけは冷えている。
「壊れた商品は使えねぇ。
俺は無茶はしない主義でな」
その言葉に、
場の空気が一段落ちた。
「紗耶香さん、世界で色んなツアーが中止になって
本当に特別なことなんです!」
翔は必死だ。
「告知もあるから、準備しておけよ」
「はい、丁度カメラ撮影終えたところで、宣材提供も出来ます」
瞬く間にライブ告知とチケット販売が行われ、
応募者が殺到する。
一番説得に時間がかかりそうな志津香も
資料を一瞥しただけで頷いた。
「これ、途轍もない信仰が集まりますよ。
今まで近づけなかった砂時計の本体に迫れるチャンスです」
「そうか、最終的にテレノア様に信仰が集まるもんね!」
夏樹が握りこぶしを作る。
「ねぇ、爆破とか火柱とか、入れないでよね」
リハーサルで髪の毛が焦げた紗耶香が演出に注文を付ける。
「バルバナーシュさん……ちょっとだけ火柱、いけます?」
「翔!!」
「俺、派手が好きなんだ!」
翔が両手で、想像の火柱を描く。
バルナバーシュは歯を剥いて笑った。
「派手にやろうぜ。
どうせやるなら、地響きと爆音で観客の魂ごとぶち上げろ!」
その瞬間、場の空気が変わった。
「ショー準備班、動けッ!!」
号令と同時にスタッフが一斉に走り出す。
足音がドドドと響き、機材が床を軋ませる。
銀と紫に彩られた巨大ステージが、
足元からゆっくりとせり上がる。
「マジで始まった……!」
翔は喉を押さえながら、感動を噛みしめていた。
「照明、聖光色に!
スモークマシン倍量!
火柱の高さ、紗耶香の頭超えないギリで!」
「了解ッ!」
スモークがふわりと立ちのぼり、
ステージを幻想的な霧で包む。
「バトルエフェクト班、準備急げ!
天使降臨パターンB、即使用可能に!」
光のケーブルが蛇のように這い、
火柱のテスト炎がぱっと上がる。
熱気が場を震わせ、空気が揺れる。
ステージ袖で見ていた紗耶香は、
小さく息を吐いた。
「……あのバカ、本気だ」
「ええ。
あの人、チャラいですけど、計算は外しません」
翔はプロデューサーノートを高速でスクロールする。
「で、紗耶香さん──開幕、空中登場いけます?」
「飛ぶの? 私が?」
「はい、飛びます!
神殿の扉が開いて、光の中から登場!
観客、絶対叫びます!」
翔がノートを広げ、想像の扉を開く仕草。
「……本物の天使ってバレてもいいの?」
「僕が全責任持ちます!」
翔の声が熱く響く。
「翔くんの責任範囲って、靴ずれくらいでしょ」
「信じてください!
今回は本気なんです!
御使いガールズ、世界に飛び立つチャンスなんですから!」
紗耶香はふっと笑い、
霧のステージを見つめた。
スモークの粒子が翼を包み、
金色の光が舞い上がる。
目の前で輝きを増していく巨大な光輪。
──それは、天使の名を冠した彼女たちの新たな戦場。
塵で覆われた世界が、このままでいいわけ無い。
――この光の中心に立つ覚悟だけは、
もう決めていた。
扉の隙間からこぼれる光が、
紗耶香の瞳に未来の叫びを映した。




