御使いガールズ撮影NG祭~推しが責任になった日~
御使いガールズとカメラマン翔の、
少し騒がしくて、少し甘い撮影日の一幕です。
「はい、紗弥香さん、恵さん、
そのまま頬をくっつけてください。
手はこう、絡ませて、頭の上に――はい、いいです」
翔はファインダー越しに三人を見つめ、
満足そうにシャッターを切った。
「御使いガール感、ちゃんと出てます。
この一枚、かなりいいですよ」
「……ちょっと待って。
私、センターなんだけど?」
夏樹がむくれた声を上げ、
頬を膨らませながら翼をぴくりと震わせた。
「いや、すいません。
必要不可欠なメンバーなのは間違いないんですけど」
「けど?」
「俺の推し枠とは違うんで」
「はっきり言ったな!」
「でも宣材写真は、
バランスが命ですから」
翔は悪びれた様子もなく、
次のカットの指示を出す。
その横顔を見ながら、
彼は心のどこかで思っていた。
――軽い気持ちで引き受けた仕事だったはずなのに。
――いつの間にか、失敗できない気がしている。
「じゃあ、いきますよ。
3、2――」
「待って、恵。
髪が口に入って……もがっ、ごほっ」
「ご、ごめん!風で飛んだ!」
──撮影中断。
スタッフが慌ててティッシュを差し出し、
恵が咳き込みながら何度も頭を下げる。
「紗弥香さん、ちょっと表情かたいです」
「笑顔、笑顔……って、
夏樹が変な顔してるー!」
「してないっ!」
──撮影中断。
夏樹が鏡を覗き込み、
舌を出して真剣にチェックする。
「もう一度、
頬を寄せてもらえますか」
「……鼻が当たってくすぐったい……ぷふっ」
「こら、動かないで。
笑いがうつるってば!」
──撮影中断。
カメラマン本人も笑ってNG。
三人が揃って肩を震わせ、
翔は無言でリセットボタンを連打した。
「はい、次はジャンプカットです。
タイミング合わせて――せーのっ!」
「……ぬ、抜けない!」
「スカート引っかかってるよ!」
──ジャンプ失敗。
衣装スタッフが慌てて駆け寄る。
スカートを押さえる夏樹と、
とっさにポーズを決める恵。
「翔くん、
これ……何に使うつもりなの?」
「特典ブックレットの裏ページです」
「即答しないでぇー!」
紗弥香が指鉄砲でカメラを狙い、
翔は笑いながら身をかわした。
撮影の合間。
控室の長テーブルで、夏樹がぽつりと尋ねる。
「……本当に、
御使いガールズってバズってるの?」
翔は資料をめくり、
一度だけ深く息を吐いた。
「はい。
もう、世間では定着してます」
「今さら変えたら、
公式が迷走してるって言われます」
「でもさ……
もっとカッコいい名前とか、ない?」
「聖光フロントラインとか」
「ダサ……
いえ、すいません。今のは忘れてください」
「あーあ、やる気なくなっちゃうなぁ」
翔は一息ついて立ち上がり、
ホワイトボードに一行を書いた。
御使いガール──世界に、光が舞い戻る。
ペンの音が控室に響き、
粒子のような光が文字に反射する。
「……これが、
キャッチコピーです」
一瞬の沈黙。
最初に拍手したのは、恵だった。
「なんか……いいね。
希望って感じがする」
「語感もいいし」
紗弥香も、柔らかく微笑んだ。
「そっか。
じゃあ、御使いガールズで」
「私たちの名前だね」
夏樹が少し照れたように言い、
翼を軽く広げて光を浴びる。
(機嫌なおったぜ)
翔は小さくガッツポーズをしてから、
再びカメラを構えた。
「じゃあ、
次のカット、いきましょう」
レンズが光の粒子を捉え、
三人の笑顔をフレームに収める。
──夕陽が控室に差し込み、
翔の影を長く伸ばした。
「テーマパークで襲ってきた時と、
ずいぶん変わったわね、
その話し方、慣れてないんじゃない?」
紗弥香が、少しだけ茶化す。
「……あの時は、どうかしてました」
「一発もらって、目が覚めましたから」
「まだ、恵が好きなの?」
不意の問いに、翔は言葉を失う。
目を泳がせ、それでも――
正直に答えた。
「……いえ。
今は、紗弥香さんの方がって、
俺、何言って……!」
夕陽が沈みきる、その直前。
翔は、シャッターを切ることを忘れていた。
紗弥香が一歩近づき、
静かに息を吸う。
「……さっきの撮影、
ちゃんと向き合ってくれてたから」
それだけを残し、
彼女は少し距離を取った。
胸の奥に残ったのは、
触れたかどうかも分からない余韻だけだった。
翔は深く頭を下げる。
「期待されるって、
こういうことなんですね」
光の中で笑う彼女を見て、
彼はようやく理解した。
これは、
軽い憧れでは済まされない仕事なのだと。
本作はフィクションです。
「推す側」と「支える側」の距離感を、
少しだけ真面目に描いてみました。
御使いガールズは、今日も元気です。




