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SSR看護師天使、地上に放置された結果——世界最強の闇落ちアイドルができました  作者: ふりっぷ
第二章 マクタン島 カジノ神殿ラピス・レクイエム編

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ラクダ儀式とリーダーのもやもや ~くだらない友情の背中で~

戦いの合間、天界に訪れた小さな息抜き回。

リーダーである夏樹の“もやもや”と、

くだらないけれど大切な友情の時間を描きました。

天界の回廊──


白銀の雲に編まれた聖光の浮遊廊下を、

夏樹はひとり歩いていた。


ミリアムへの《ラピス・レクイエム》報告を終え、

緊張がほどけた途端、足が止まる。


「……あれ? どっちから来たんだっけ?」


見渡す限り、同じような回廊。

合理的だが、訪問者に優しい造りとは言えない。


雲の霧が足元をくすぐり、翼がわずかに震えた。


そのとき、視界の端で袖が揺れる。

角を曲がった先に、長い黒髪を片側に流した天使

――アバが立っていた。


「迷ったの?」


にこりと笑い、手招きする。


「案内してあげる。

ついでに、ちょっと寄り道もしましょ」


「あ、はい……助かります」


近づいたアバが、冗談めかして耳元で囁く。

息がかかり、夏樹の頰が思わず熱を帯びた。


* * *


薄く日が差す雲の向こう、

復興を終えた東地区の離宮。


天蓋のような霧の庭園に、天使たちの笑い声が広がる。

円卓を囲み、三人はグラスを傾けていた。


クレタ島で失った翼は短めに再生され

先輩たちの朗らかな雰囲気に、

少しずつ心が和らいでいく。


「で、どうなの夏樹ちゃん。

気になる人の一人や二人、いるでしょ?」


ケイトが悪戯っぽく口角を上げて言う。

金の巻き髪がきらきらと揺れ、

その眼差しに微妙な圧を感じる。


「い、いませんって……!」


否定しながらも、声は裏返る。


「恵の結婚宣言とか、紗耶香の近況とかさ。

 聞いてると、ちょっと焦るよね」


「……急に、私だけ置いてかれてる感じして」


「おーおー、お酒が欲しくなってきちゃったかな」


「にょほほほ。気分転換大事よ」


アバがグラスを夏樹に押しやり、

泡が彼女の指を濡らす。


「あたしがリーダーなんだよ。

皆、ちょっとぐらい気を使ってくれてもよくない?」


夏樹は二杯目の梅サワーをぐびぐび煽りながら言った。


「きゃはっ、リーダーだって〜」


「リーダー、彼から告白されました〜」


「リーダー、今日やっちゃいました〜

 いやマジで、そういうの受けるんだけど!」


ケイトが夏樹の肩を軽く叩き、

アバが息を切らして笑う。


「お話はそれだけですか?」

 夏樹は二人を睨んだ。


グラスにヒビが入るのを見て、

二人はぎょっと顔を見合わせる。


「今日はね、地上に七メートルのラクダが出たって聞いて、

観光名所になってるんでしょ。


それで――あたし達も乗れないかな?って思ったりして、

ちょっと聞いてみたかっただけ!」


ケイトが脇に回り込んで、ヒビの入ったグラスを取り換える。


「あっ、紗耶香がなんかやってた。

 聞いてみる!」


夏樹の目が輝き、

梅サワーを再び流し込む。


「おお、いい飲みっぷり

 私たちもリーダーって呼んでいいっすか?

 ラクダ乗りた〜い!」


「頼みますよ、リーダー!」


「……勝手に乗ったら怒られるよ……」


「ええーっ、リーダー、リーダーじゃないんですかぁ?」


「うーん……私が頼めば大丈夫か」


「やったぁ!」


べろべろになった夏樹を見て、

ミリアムが二人にお説教を始める。


「あんたたちぃ、どうやったらこんな大惨事になるのよ!」


「勧めたのは最初だけだよね」


「思ったより強引だったよ」


霧の庭園に、

笑いと光が静かに満ちていく。


――天界の午後は、束の間の平和だった。


* * *


夕陽の残光がカジノの階段を赤く染め、

夏樹の影が長く伸びる。


「えっ、だめに決まってるでしょ」


紗耶香はにべもなく断った。


「えええええぇーー!?」


「あなたね、このカジノに

 一日どれだけ観光客が来てると思ってるの?」


「SNSでもバズりっぱなしなのに、

 ラクダは二頭しかいないの。

 許可証出さなきゃ、しょうがないでしょ?」


「でも、約束しちゃったし……」


「アバとケイトでしょ?

あんた、おだてられてうっかり約束させられただけじゃないの?

私が言ってあげるよ、そんなの」


――本当は新世界生物のラクダが大人しいのは、

バルナバーシュが面倒を見ているからだ。


が、なぜか現場では紗耶香が

すべてを管理していることになっていた。


* * *


――少し後。


霧の庭園のベンチに座り、

グラスを握りしめ、肩を落とす夏樹。


中身はリンゴジュースだ。


「夏樹ちゃん、ごめんね……」


ケイトが手を合わせてぺこりとする。


「私たち、調子に乗っちゃって。

ほら、お酒も入ってたし……」


「ラクダも無理しなくていいからね……」


――だが、夏樹の瞳に火が灯る。


「まだ、夜間に侵入する方法が残ってる!」


「リーダー……」


夜の霧が庭園を包み、

四人の影がそっと動き出す。


* * *


月光に照らされたカジノ裏手。

ラクダ厩舎の金網が銀色に光る。


「こっち……カメラの死角」


小声で指示し、忍び足で進む。


巨大なラクダ二頭が、静かに草を噛んでいた。


「……でか……」


息の温もりと、ゆったりした背の揺れ。


「乗るつもり?」


闇から声がした。


「……紗耶香!?」


「いるに決まってるでしょ。

まさか本当に来るとは思わなかったけど」


しどろもどろになる夏樹を見て、紗耶香は小さく息を吐く。


「……最近、寂しかったんでしょ」


「……うん」


「だったら、乗ればいいじゃない。

ちゃんと見張るから」


数分後。


前言を翻して紗耶香もラクダの背に乗りながら

歓声をあげる。


「……うおおおおお、めっちゃ高い!」


「世界が違って見えるーっ!」


ラクダの背がゆったり揺れ、

星空が四人を包む。


* * *


――月光が彼女の金色の目を優しく照らし、

友情の温もりが夜風に溶けていく。


(物陰に立つバルナバーシュ)


「……まったく、ガキどもは手がかかる」


「だが……こういうくだらなさが、

世界を回してんのかもな」


煙草の煙がラクダの背に上がり、

金色の粒子がそれを優しく包み込む。


――天界の夜に、静かな笑いが残った。


ラクダに乗るだけで、ここまで話が転がるとは。

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