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SSR看護師天使、地上に放置された結果——世界最強の闇落ちアイドルができました  作者: ふりっぷ
第二章 マクタン島 カジノ神殿ラピス・レクイエム編

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神殿が眠らない島

《観測記録:Σ-01 秘匿等級:Ω》

――降臨を確認。


対象名:テレノア。

分類:現存最高位神格。

脅威指数:測定不能。


存在するだけで、天界の座標が僅かに歪んだ。

雲ではない。空間そのものが、重さを持ったかのように沈む。


(生まれたてとは言え、SSR神獣を歯牙にもかけなかった……)


私は、観測層の最深部から地上を見下ろす。


マクタン島。

光粒子の沈殿量は、すでに許容量を超えている。


《ラピス・レクイエム》。

鎮魂装置としては、完成度が高すぎる。


――ドリップ。


砂時計に封じられたはずの自我が、

意図せず、世界へ滲み出している。


テレノアは破壊ではなく、介入を選択した。


それは、最も危険な兆候だった。


背後で、SSR神獣たちが低く唸る。

彼らも感じ取っている。


「ミリアム様は、私の創造主だ」


私は静かに告げる。


「絶対の判断を、下していただかねばならない」


だが彼女は、判断そのものを預けた。


それでも。


私には、従う以外の選択肢がない。


《仮説更新》


テレノアは、居心地を探している。


終末世界における、

もっとも甘美な場所を。


男神テレノアの背が、雲の向こうへ消えていく。


私はその光景を、

危険事象として認識していた。


――あり得ない。


「居心地が悪いから地上へ行く」

そんな理由で離脱する存在がいるとは。


現存する最高神格位が、

統治を放棄し、地上へ降りる。


それは退避でも、撤退でもない。

意志ある離脱。

天界というシステムそのものへの、不信表明だ。


――理解できない。


SSR神獣たちが、無言で応答する。


「お前たちは地上で引き続き《終末世界の怪物》を取り込み

固有ネームを手に入れなさい。


《ユルカト級ガルガンチュア》に

匹敵することを最低条件とします。


私の言葉に同調し、

SSR神獣たちが半歩、前へ出る。


「ヒカリ、ノゾミ。命じます」


美しいが表情のない二人のSR人造天使が、音もなく膝をつく。


彼女たちに、

命令を疑うという概念は存在しなかった。


「テレノアの配下に潜り込み、

動向を探りなさい」


「仰せのままに」


彼女たちは振り返ることなく、

テレノアを追って地上へと降りていった。


もし《ラピス・レクイエム》が、

我々を差し置いて世界を救済した場合。


世界の均衡そのものを揺るがす存在になるのなら。


その時は――

神であっても、排除対象とする。


私は、静かに記録を閉じた。


《次回観測まで、沈黙を維持する》


――願わくば。


この判断が、

遅すぎるものにならないことを。


◇    ◇


夜のマクタン島は、昼よりも明るい。


その事実が、志津香にはどうしても不健康に思えた。


ビーチ沿いの照明はすべて落とされ、

クルーズ船も航行灯だけを残して静止している。


それなのに、島全体が淡い金色に照らされていた。


空から降る粒子――

天界由来の光が、砂浜や建物に薄く積もり、

月明かりの代わりになっている。


「綺麗だねえ……」


隣で恵が、スマホを構えたまま感嘆の声を漏らす。

配信はすでに始まっており、

コメント欄は流れるように動いていた。


「#桃源郷マクタン、もうトレンド入りしてるわよ」


紗耶香が楽しそうに笑う。


昼間の喧騒が嘘のように、

夜風は穏やかで、波音もやけに優しい。


――だからこそだ。


志津香は、胸の奥に引っかかる違和感を拭えずにいた。


「……静かすぎない?」


「終末世界だもん。

これくらい平和な夜があってもいいじゃない」


恵は気にした様子もなく、

カメラに向かって手を振る。


その背後で、巨大ホテル《エルドラド》の外壁が、

金粒子を反射して柔らかく輝いていた。


志津香の視線は、さらに奥――

建設中のカジノ神殿ラピス・レクイエムへ向かう。


人影は少ない。

それでも内部からは、低い音楽と、

チップが触れ合う乾いた音が微かに漏れていた。


「入ってみるか」


ラウルが短く言う。

誰も反対しなかった。


内部は、想像以上に落ち着いていた。

豪奢だが派手すぎず、客層もばらばらだ。


「いらっしゃいませ。

本日は“軽め”でよろしいですか?」


ディーラー役の青年が、にこやかに尋ねる。

その瞳が、ほんの一瞬だけ空洞に変わる。


「軽めって?」


恵が首を傾げた。


「魂はお預かりのみです。

返却は――保証いたします」


その言い方は、

約束というより規則に聞こえた。


チップは温かく、

指に吸い付くような感触がある。


数分後。


「勝ちました」


若い男が立ち上がる。

だが顔色は青白く、額には脂汗が浮かんでいた。


「……気分が悪いだけだ。問題ない」


そう言って去っていく背中を、誰も追わない。


代わりに、別の卓で笑い声が上がった。


負けたはずの客が、

妙に満足そうに笑っていたからだ。


志津香は、胸の奥が冷えるのを感じた。


――これは、

神殿が扱っていい“救済”なのだろうか。


その疑問を、

この場にいる誰も、まだ言葉にしなかった。


◇    ◇


マクタン島に降り立ったテレノアは、

真っ先に建設中のカジノ神殿へと向かった。


《ラピス・レクイエム》の気配に眉を顰めつつ、

併設された通常のカジノに足を踏み入れる。


「これが、バカラか!」


その声には、

神が世界を理解しようとしている響きがあった。


気づけばテレノアは、

周囲の白い視線をものともせず、

カジノに入り浸るようになっていた。


リズは給仕を命じられ、

呆れたようにワインを運ぶ。


テレノアはグラスを傾け、満足げに頷いた。


「《ラピス・レクイエム》には、

相応しい管理者が必要だな」


そして、穏やかに言った。


「私が、御使いを連れて来よう」

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