融合の裸再会 ~カジノ神殿と残留思念~
再会は、いつも理想通りとはいかない。
融合、残留思念、不完全な復活――
それでも「戻ってきた」ことに意味はある。
「おおい、ここから出してくれぇ」
ラウルのポケットから声が聞こえた。
(リズ、どうした。声を上げるな)
ポケットの口を開くと、
金髪の美女がするりと飛び出してきた。
ポケットの内側を抜け、陽光に晒されたその姿は、
思わず目を細めるほど眩しい。
「最高だ、ラウル。よくやった!」
両手でがしっと手を握られ、ラウルは思わず口を開く。
「はぁ!?」
だが、相手は意に介さず満面の笑みだった。
金色の髪が肩先で揺れ、まるで現実感のない存在感を放っている。
「ちょっと待て。リズをどこにやった?」
「お前がドリップの意思を拒絶したおかげでな。
残留思念がこっちに流れ込んできた。
今の俺は……ほとんど一体化してる」
その言葉を遮るように、ユキが勢いよくリズに抱きついた。
「ドリップ……もう二度と会えないと思ってた」
「すまんな」
リズはユキの頭を軽く撫でる。
その仕草は、確かに“懐かしい誰か”のものだった。
だが、ユキの腕に込められた力に、リズが小さく呻く。
「あと、公衆の面前で裸は駄目」
「最初は誰しも裸で生まれるものだろ」
「そんな理屈はいらない」
ユキは一層力を込める。
「い、いてぇ……今の俺はほとんど力が残ってないんだぞ」
「心配させた罰。買い物に付き合ってもらうから覚悟して」
「……わかった。だから腕を外せ」
ユキはため息をつき、自分の上着をリズの肩にかけた。
金色の髪が布の隙間から覗き、そこだけ妙に神々しい光を帯びる。
その光に引かれるように、金色の粒子が周囲を漂った。
「このリゾートに足りないもの、分かるか?」
「魔物避けの結界だ。強化しないとユキが動けない」
ラウルが即答する。
「違う違う。カジノと神殿だ!」
リズが両手を広げると、
肩にかかった上着がはだける。
ユキが素早く立ち上がり、前のボタンを留める。
テーブルのカップがかたんと音を立てた。
「両方一緒に建てよう。カジノの神殿!」
「また言葉が乱れてる!」
ユキは軽く脛を蹴る。
「いてて……巫女が踊るのは古代の正統だぞ」
「そこだけ史実を持ち出さない!」
一瞬、場の空気が緩む。
だが、遠くでは異形の咆哮が響き、
金色の粒子がわずかに震えた。
――それは、再会というには歪で、
融合というには、あまりに切実な瞬間だった。
金髪の美女は、確かにリズの面影を持っている。
だが、声色や視線の奥には、別の意志が混ざっている。
この場に立つのは――
リズでも、ドリップでもない。
その両方だった。
ユキの抱擁に応えるその手には、
かつて戦場で触れた体温の記憶が宿っている。
それを見つめるラウルの背に、冷たい汗がにじんだ。
――俺の選択は正しかったのか?
だが、残留思念でもドリップはここにいる。
金色の粒子が揺れ、
リズの瞳の奥で、微かな影が静かに瞬いた。
ラウルは首を振り、小さな疑念を追い払った。
「で、そのヴィトンのバッグってどこで買う気だよ」
ラウルが呆れたように尋ねると、
リズはふふんと鼻で笑った。
「決まってるだろ、日本だよ。
前に預けたクレカがまだ新宿の喫茶店にあるんだ」
「まだ残ってんのかよ」
「聞いて驚くな、店主はあの武雄だ。
きっと律儀に店を守り続けているに違いない」
「日本か…少し遠いな」
「ちょっと試したいことがあるんだ。
カメの精霊を使う」
ユキが目を輝かせ、即聞き返す。
「カメの精霊?」
「ああ、マクタン島の海辺に呼べば来るぜ。
『カメ、カメ、カメェェェェェ!!』ってな」
ラウルが肩をすくめた。
「そんな子供騙しみたいな……」
ユキが半信半疑でリズを睨むが、
リズはニヤリと笑って海岸へ引っ張る。
「本当に来るからな。
崩壊後の世界でデカくなってんぞ。
世界中で唯一、先の大戦をボイコットした伝説のカメだ」
「いや、伝説のカメって何だよ」
ラウルがつぶやくが、二人は構わず海岸で叫んだ。
「カメェェェェェ!!」
「カメカメカメェェェェ!!」
叫び声が波に響き、海面が泡立つ。
巨大な影が、ゆっくり浮上した。
「本当に出たぁ!」
ユキがぴょんぴょん跳ねる。
「よし、ユキ乗り込むぞ!」
「カメさん、空間魔術を使えるんだ」
「こう見えて移動も早い。
明日には日本に着くだろう」
甲羅の隙間が歪み、空間の渦が二人を飲み込むように――。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
重たい設定のはずなのに、なぜか騒がしい三人(+カメ)。
次回は舞台を一気に日本へ。




