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SSR看護師天使、地上に放置された結果——世界最強の闇落ちアイドルができました  作者: ふりっぷ
第二章 マクタン島 カジノ神殿ラピス・レクイエム編

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14/24

桃源郷の粒子 ~ドリップの記憶、潮の香りに~

今回は、力を受け継いだラウルと

今後の舞台となるマクタン島に

舞台が移ります。

フィリピン沖合の遥か上空。


成層圏に近い所。


――そこは、触れれば人が

“概念ごと変質する”空域に変じていた。


ラウルも半ば雷の精霊と化しながら

全容が把握できないほど巨大化した砂時計に

腕を突っ込んだ。


「約束通り、あんたの力を貰い受ける」


砂の奔流が手首を駆け巡り、

何かを蝕むような疼きが

骨の奥に残る。


――皮膚が裂け、

黒い砂粒が血のように滴り落ちる。


力の吸収を図っていたラウルは、

同化しかけていた腕を

無理やり引き抜いた。



バンザイするような形となり、

勢い余って後ろに倒れ込む。


虚空で体が回転し、

成層圏の冷気が頰を叩く。


「これは罠か…これ以上力を引き継ごうとすると、

俺がドリップになっちまう」


ラウルの脳裏に、

かつて力を譲ろうとした

ドリップの、困ったようで、

どこか寂しげな笑顔が浮かぶ。


あの時もそうだった。


すべてを託そうとした

あいつの微笑みに、

わずかに胸を締め付けられるのが

悔しかった。


「くそっ」


叫んでも、

溢れ出る記憶は止まらない。


ドリップの記憶。

感覚。

焦燥。

迷い。

慈悲。


――幼い者なら、

そのまま自我を塗り潰されていただろう。


だが、ラウルは違った。


体は成長を止めても、

時を経た分のしぶとさがある。


最悪の事態は――

今は避けられた。


終わってみると、不思議なことに、

ユキとドリップを争う気持ちも、

すっかり消えていた。


まるで人形のように整った青年が、

吹き荒れる嵐と塵で全身を切り裂かれ


揉みくちゃにされながらも笑みを浮かべている。


「壊れたお人形さんみたい」


ユキがからかうように言い、

柔らかい手を差し伸べる。


ラウルは握った手に「飛び込んで」衝撃を吸収

してくれた霊体のユキを見上げ、


何とも言えない居心地の

悪さを覚える。


昔から苦手だった。


俺より遥かに年下のくせに、

妙にお姉さんぶって、

人を手のひらで転がすような

物言いをするところ。


ふと見上げれば、

金色の粒子が薄く空に舞い、

マゼラン航路を守るように

漂っていた。


「……マクタン島を桃源郷としよう。

マゼランの終着地だ」


(それでいいだろ。ドリップ。

あんたも――文句はないだろ?)


「砂時計の奥で、喜んでるんじゃない」


いつの間にか起き上がったユキが、

小さくつぶやいた。


どこか優しい声音だった。


「……お前の為じゃねぇ」


ラウルはうんざりしたように応えたが、

それでも手を上げることはなかった。


――代わりに、

ユキの差し出した手に、

自分の塵まみれの指を絡める。


二人の間に淡い粒子が舞い、

静かに溶けていく。


かすかに、風が匂った。


誰のものでもない、

遠い潮の香り。


――それは、新種の息吹のように、

甘く、未知の予感を運んでいた。


この時、ラウルはまだ気づいていなかった。


自我を保つために押し出した

ドリップの記憶が、

すべて――

懐に忍ばせていた

光の精霊へと流れ込んでいたことに。


微かな光の波紋が、精霊の胸元でさざめく。


――小さな体が震え、

無垢な瞳にドリップの影がよぎる。


その小さな存在は無垢なまま、

だが確かにドリップの記憶を宿し始めていた。


マゼラン最後の地は、

今やかつての姿を忘れさせる高級リゾート地へと変貌していた。


五つ星ホテルが海沿いに並び、

人工ビーチの白砂が、陽の光にきらめく。


――波打ち際で、子供たちが粒子を追いかけ、

笑い声が響く。


塵に覆われたこの世界にあって、

ここだけは例外だった。


濃密な金色の粒子が厚い塵を押しのけ、

青空を維持し、

海面さえも昔のように澄み渡っている。


カラマンシージュースを片手に寝そべる旅行客。


大型のクルーズ船から降りた観光客は、

異常なまでの美しさに歓声を上げ、

ここがエルドラドだ、桃源郷だと口々に叫ぶ。


――だが、その笑顔の奥に、

かすかな違和感が、粒子のように舞う。


市場には花が溢れ、

塵の気配など微塵も感じさせない。


輸入もままならぬこの時代に、

なぜこれほどの資材が運び込まれ、

ホテルが次々と建造されていくのか、

疑問を抱く者は誰もいない。


――楽園はただ、笑顔の客で満ちていた。


「ばきゅーん」


光の弾が魔物の核を貫き、

爆ぜるような音がビーチに響く。


たまに粒子の隙間を縫って現れる魔物を、

ユキは片手の指鉄砲で軽々と撃ち抜いた。


それはまるで、日常の風景のひとつであるかのようだった。


淡い光が弾け、魔物の影は金色の粒子に溶けて消える。


周囲の客はそれを演出の一部と笑い、拍手すら送る。


――「天使のショー!」

と叫ぶ声が、波音に混じって広がる。


「平和ねぇ」


ユキは小さく息をつき、

金色の航路を眺めた。


「政府の認可は取れたの?」


ユキが気だるげに

金の粒子を見上げながら尋ねた。


――波打ち際で、

クルーズ船の汽笛が低く響き、

砂を震わせる。


 


「元々、大崩壊で観光客が激減して、

住民もほとんど逃げちまった土地だ。

文句言う奴なんかいないさ」


ラウルは肩を竦め、

冷えたカラマンシージュースの

グラスを傾けた。


――グラスに映る金色の粒子が、

揺れて彼の瞳を照らす。


 


「生態調査はどうするの?」


「俺たちがやるこっちゃないが……

まあ、驚異的新種くらいは出てるだろうな」



「東京湾に怪獣が出たって

ニュースでやってたわよ」


ユキがスマホをチラ見し、

にこりと笑う。



「怪獣退治したのは

看護師天使たちだ。

急な出現で軍隊じゃ間に合わないからな」


ユキは水際で砂を蹴り上げ、

金色の粒子を散らせる。


――粒子が渦を巻き、

砂に埋もれた貝殻を

浮かび上がらせる。


 

「合流する?」


「いや。お互い情報収集は必要だろう」


少しの間、波の音と

急ピッチで進められているリゾートホテルの建築音が響く。


――その合間に、


ビーチで水着インフルエンサーの

シャッター音が、止めどなく響く。


「こんな形になっちゃったけど、

ゲームは終わったんだし……

仲良くできるかな」


ユキはふわりと笑いながら、

再び侵入してきた

小型の魔物を

指でっぽうで弾き飛ばす。


――「ばーん!」

光の弾が魔物の核を貫き、

粒子に溶け、爆ぜる音が波に響く。


「俺は信仰なんざ無くても、

残るべき人間が残ればいいと思ってる。


ただ――

奴らがそれを受け入れるかどうかだ」



ユキは軽く息をついた。


「大天使が去った世界で、

魔王もまだ3柱残ってる。


私なら、

休戦を提案するけどな」


「奴ら次第だって言ってるだろ」


ラウルは手をばたばたと振り、

背後に流れる陽光に

目を細めた。


――その手から、

砂の残滓が落ち、

金色の粒子に吸い込まれる。

崩壊した世界でマクタン島は

安全で、平和で、眩しい場所となりました。


急速にリゾート化し人々の桃源郷として

機能し始めます。


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