天界ガチャ~成功率0.03%で世界を救え
世界が壊れる時、
誰かが必ず選択を迫られる。
天界と地上、
それぞれの場所で始まる“歪み”が始まります。
天界は、すでに崩壊寸前だった。
権天使の半数以上が戦闘不能に陥り、
地上の混乱へ介入する余力は残っていない。
それでも
――天界代行者ミリアムは、眠らなかった。
崩れ落ちた神殿。
黒く焦げた石柱の間で、神域の座標点が歪み、
空間そのものが悲鳴を上げ続けている。
雷撃に焼かれた天界門は、もはや門ですらなかった。
巨大な“傷痕”として、空に口を開けている。
そして――
《大崩壊》の余波。
大量の死者の魂が、
白い流星の群れのように天界へ流れ込み、空を渦巻いていた。
「まず、SR天使二千体を地上の医療機関と各教会へ振り分けて!」
ミリアムの号令と同時に、
天使たちが一斉に飛び立つ。羽音が嵐のように響いた。
「座標点の修復はアバを中心に。神殿の再建はケイト、お願い」
天界には膨大な死者の魂が刻々と溢れていく。
「死者の魂は私が仕分ける」
次々と指示が飛ぶ。しかし――
「浄化が、追いつきません
……看護師天使を呼び戻すべきかと」
「だめよ」
ミリアムは即座に首を振った。
「彼女たちは今、地上で信仰を集めている。
ここへ戻せば、救える命を減らすことになる」
沈黙が落ちる。
その空気を破るように、別の天使が震える声で告げた。
「……《終末世界の怪物》には、SR天使では歯が立ちません」
ミリアムは言葉を失った。
押し寄せる死魂の冷たい風が、膝を震わせるほど重い。
「……この数の魂を輪廻へ回すことも不可能です」
親衛隊権天使が、覚悟を決めたように言う。
「天界ガチャを解放し、新たな神獣を創造すべきかと」
ざわめきが広がる。
「しかし……神獣ジェラス様の乱心以降、
新たな神獣は創らないと――」
「その人は、もうここにはいない」
ミリアムは静かに言った。
拳を握りしめる。その手は、わずかに震えている。
「誰も助けてはくれない。
だから――私たちで、何とかするしかないのよ」
彼女は下界を見下ろした。
塵に覆われ、光を失いつつある世界。
その中心に、巨大な砂時計が屹立し、静かに命を削っている。
「現状、あの砂時計を消す術はありません」
「……崩壊を止めるのは困難を極めますな」
「ええ。でも、立ち止まるわけにはいかない」
ミリアムは玉座から立ち上がった。
「――まずは、出来ることから始めましょう」
回転するガチャ装置の内部で、
白い光粒に混じり、黒い影が蠢いていた。
それは、本来、奈落行きの魂。
天使の浄化が追いつかず、禁忌の機構へと侵入する。
荘厳な光と、不気味なざわめきが同居する。
成功か。
それとも、堕落の始まりか。
黄金の光が天界全体を覆い尽くす。
崩れた大聖堂の天井が割れ、無数の光粒が降り注いだ。
ミリアムは玉座に座したまま、右手を翳す。
「――天界ガチャ、解放」
ゴオオオオオオオオオオッ!!
空が裂けた。
虚空から、純白の巨大なガチャ装置が実体化する。
高さは数百メートル。
【警告:禁忌等級ガチャ起動】
【成功率:0.03%】
【失敗時ペナルティ:天界階級対象者一段階降格】
それを見た瞬間、天使の一人が膝から崩れ落ちた。
「ミリアム様……最下級の天使に、後がありません……」
「ガウ様も、
こうして当たりを引いたわ。
大丈夫、10連ガチャを1000回引く。
当たりが出ないわけない」
装置の内部で、何かが回り始める。
カラン……カラン……。
やがて、狂ったように高速回転。
表面に、無数の“目”が浮かび上がった。
すべてが、ミリアムを見ている。
【ピックアップ対象確認】
【唯一の適格者――天界代行者ミリアムを認識】
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓のような振動が、天界全体を揺らした。
そして――
キィィィィィン!!
装置が真っ二つに割れる。
中から現れたのは、純白の羽を持つ人造天使。
六枚の光翼。黄金の瞳。
額には「Σ-01」の刻印。
半透明の虹色の卵に覆われ
瞬きもしない。
呼吸も、鼓動もない。
それなのに――確かに「生きている」と、誰もが理解した。
「……ガウ様も創り得なかった、最高傑作」
誰かが、そう呟いた。
同時にSSR神獣がΣ-01を取り囲むようにして産声を上げる。
ようやく差した希望の光に
天使達の歓声が上がった。
◇ ◇
「大分で、ネズミの新種が出たみたいです」
突然の言葉に、看護師天使達の空気が緩む。
「大きなネズミって、カピバラさんじゃないの?」
恵が笑う。
「ネズミはネズミでしょ。きしょいよ」
沙耶香が顔をしかめた。
「私が行ってきます」
志津香が静かに立ち上がる。
「「お願いしまーす」」
恵と紗耶香。二人の声が、妙に重なった。
――敵対新種の討伐。
その時、志津香だけが、
理由もなく胸騒ぎを覚えていた。
現地では、すでに戦闘が始まっていた。
巨大な鋼鉄のネズミ。
それを、翼の生えた猫が鋭い爪で切り裂いている。
残酷に、五つに。
「……貴方は?」
「私は、天界から遣わされた神獣です」
感情の読めない声。
「看護師天使とは事を構えぬよう、
厳命されておりますので。――失礼します」
「待ちなさい」
志津香は目を細めた。
「神獣にしては……淀んだ魂ね」
浄化の檻が展開される。
「何をするつもりだ」
「魂を、浄化します」
ギャギャギャギャ。
翼の生えた猫。《ストレイキャット》は
悲鳴を上げながらも檻を食い破り
看護師天使を一瞥すると、天界に飛び去って行った。
志津香は小さく呟いた。
「……こんな状態の神獣を、地上に派遣するなんて」
空を見上げる。
「ミリアム様も……辛いのか」
天界の決断は、
いつも地上に少し遅れて届きます。
次回はラウルと砂時計のその後です。




