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SSR看護師天使、地上に放置された結果——世界最強の闇落ちアイドルができました  作者: ふりっぷ
第一章 御使いガールズの誕生

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癒やしの破壊者 ~勝利のダンス、金色の残骸~

――世界が壊れはじめたとき、

救いの力を持つ者が“救いとは限らない”。


彼は天使達の求めた”協力者”なのだろうか。

サハラ砂漠から東に向けて一台の車が疾走していた。


男の名はバルナバーシュ。

大きめの鍔のついた黒い帽子にサングラスをかけ、

煙草を吹かしている。


厚めの唇をぺろりと舐めると、

黒のシトロエン2CVのアクセルをさらに踏みぬいた。


――エンジンが咆哮を上げ、砂煙を巻き上げて加速する。


『大崩壊』――と、

バルナバーシュは勝手に名付けていた。


あの日以降、この男の身に起こった出来事は、

誰にも説明できず、本人すら理解しきれていない。


元々、彼の手には生き物を癒す奇妙な力があった。

怪我をした犬も、折れた枝も、枯れかけた花も、

手をかざすだけで元に戻った。


だが今は、その力は無機物にまで及んでいる。


愛車はとうの昔にガソリンを必要とせず、

ただ“走りたい”という意思だけで走っていた。


時折、エンジンルームの奥から

ばしゅばしゅと何かを咀嚼するような音が響くが、

バルナバーシュは決してそれを確かめようとしない。


――ボンネットが微かに震え、

砂の粒子が車体に吸い込まれるように溶け込む。

燃費が良くなるなら、それでいいのだ。


失敗だったのは、その力を好奇心で自分自身に使ったこと。


あの日から、バルナバーシュの代謝は止まり、

体は日々崩れはじめた。


肌は乾き、ひび割れ、血管はほとんど機能していない。


今、彼の全身は皮のベルトで巻き止められ、

古びたマントで覆われている。なるべく外気に触れないよう、

指先すら晒すことはない。


にもかかわらず、バルナバーシュは笑っていた。


元々、動物に好かれる男だったが、

今は新種の生物たちにも好かれている。


車の後方には、いつからか黒光りする六本脚の獣が三体、

並走していた。


夜光虫のような目が車の排気口をじっと見つめている。


「おまえらも好きだなァ」


シトロエンの背後には7メートル級のラクダが二頭、

その後ろに50センチはあろうかという

大きさのフンコロガシが、黒い絨毯のようについてきていた。


――獣たちの息が熱く、砂を溶かすように車体に絡みつく。


生きる価値など考えてもいなかったが、

首を刎ねられて死ねなかったら最悪だ。


「あーあ、どうせなら綺麗なお姉ちゃんに

 塵にしてもらえたら最高なんだがな」


アクセルをさらに踏み抜く先には、

町の自警団が作り上げた簡易バリケードが見えた。


鐘が鳴り、銃を構えた男たちが慌ただしく走り回る。


だがもう手遅れだ。


――銃声がパンパンと乾いた音を立て、

砂煙が上がるが、獣たちの咆哮にかき消される。


後方からフンコロガシの群れが頭上を越えて跳ね上がり、

バリケードに殺到する。


悲鳴と銃声がこだまする中、

巨躯のラクダたちがゆうゆうとバリケードを踏み潰した。


――木々が砕け、金属がねじ曲がる音が響き、

炎が一気に噴き上がる。


燃え上がる煙の中、

バルナバーシュは吸い殻を車外に放り捨て、

蹂躙される町を眺める。


群青の空を焦がす炎の光。

灰色の壁にぶつかることもなく、

シトロエン2CVはまるで幻のようにすり抜けて進む。


バルナバーシュは無意識に次の煙草を咥え、

煙を吐きながら、乾いた声で呟いた。


「癒やすってのは、

要するに“生き返らせる”って意味じゃない」


指先で帽子の鍔を下げ、車はゆっくりと走り去っていく。


ラクダたちの影がゆっくりと市街の中心に染み込み始める。

大地が蠢き、砂漠の夜が牙を剥いた。


「勝利のダンスってのはな、

誰かが死んで、誰かが生き残って、

誰も幸せにならねえ。そういうもんだ」


――その言葉に、助手席のジュークボックスがノイズを吐き、

オールディーズのメロディが砂に溶け込む。


助手席に転がる古びたジュークボックスのツマミを捻ると、

かすれたラジオ電波が拾ったのか、

ノイズ混じりの古いオールディーズが流れはじめた。


“♪ワン・ナイト・ラブ〜 イエスタデーの残骸〜”

「いいねぇ」口元をゆがめ、目を細める。


ラクダが遠くのモスクを踏み抜き、

フンコロガシたちが炎の中を転がりながら街を這い尽くす。


――新種の咆哮が夜空に響き、金色の粒子がそれを冷たく照らす。


「どぅん、どぅん、どぅぅぅぅぅん」


バルナバーシュの音程違いの鼻歌が夜空に流れ、

金色の粒子がそれを照らし、


かつてここが人の住んでいた街だったことを、

無意味に思い出させる。


――粒子が一瞬、ラクダの影に絡みつき、

新たな「癒やし」の予感を運ぶ。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


バルナバーシュというキャラクターは、

“世界が終わるとき、潔癖ではいられない男”をイメージして書きました。

彼の癒しの能力は救いをもたらす一方で、

世界の境界をゆっくりと曖昧にし、崩していくものでもあります。


もし楽しんでいただけたら、感想やブクマをいただけると励みになります。

これで第一部は終了です。

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