神々の残響と、少女たちの再生譚
崩壊した世界で、癒しの力を持つ少女たちは何を選ぶのか。
神々の残響と人の温もりが交差する、静かな再生の物語。
世界が崩れた――
そう、夏樹は思った。
街も、人々の記憶すらも。
ドリップが崩れ、
神核が砂時計に還った瞬間から、
世界は“記録される側”になった。
いま、地上は記録され続けることにさえ疲れ果て、
咳き込むたび、肺から砂が零れ落ちる。
息をするだけで、絶望が染み込む。
陽が昇らないわけではない。
しかし、その光すら塵に濁って届く。
昼は仄暗く、
夜は塵の律に満ちる――
そんな世界で、夏樹は割れた祈りの柱に寄りかかっていた。
胸元の角を強く握りしめる。
あの力は、まだ宿っている。
だが、使う相手すら見失いかけていた。
夏樹は瓦礫の上で天を仰ぎ、
わずかに微笑んだ。
「この期待されてない感じ……
まあ、私たちには似合ってるのかもね」
恵が指先で光の粒をくるくると回す。
わざとらしく肩をすくめ、皮肉っぽく付け加える。
「でもさあ、天界にも戻れないでしょう?
どうせ、壊された聖域の修復で手一杯。
地上は二の次だよ」
「私たちの“癒しの力”なんて、今じゃ砂遊びにも使えないか」
紗耶香も息を整えながら足元の塵をかき混ぜた。
かつて戦火を縫って走った記憶は、
ただの夢のようだった。
「あはは…でも、佐和子さんなら、きっと何か残してくれたよね?
私たち、諦めないよ!」
夏樹は苦笑し、心の内で静かに呟く。
(佐和子さんがいなければ、私は――)
その瞬間、成層圏の高みで、
白銀の残響が揺らいだ。
――それは、届かぬ絆の呼び声のようだった。
ふわりと宙に浮いたガウは、
剝がれた仮面の跡をなぞる様に、誰にも届かぬ声で独白する。
「我々は勝利した。
だが、この惑星は救えなかった。」
遠ざかる大地。
刻まれた幾多の傷。
なおも漂う砂の帳。
ドリップはもう、ただの時の器ではない。
地獄の機械となり、
ゆるやかな絶望を撒き散らすだろう――
彼の視線は、戦場の果てに注がれる。
なおかすかに灯る、小さな光に。
「あの娘たちはこの星の出身だ。
それぞれが癒しの力を持っている。」
その口調は淡々としていた。
命令でも、宣告でもない。
――残響の中に放たれた、
ひとつの希望の欠片だった。
「ならば、私も残ります。」
佐和子の声が応じる。
その声音には、迷いも怒りもない。
ただ静かな決意が宿っていた。
彼女の瞳には、戦いの炎がまだくすぶっていた。
「そう言うと思った。だが、今は駄目だ。」
ガウの声が震えた。
仮面のない素顔に、隠しきれない渇望が滲む。
――神の孤独が、初めて人の温もりに逡巡した瞬間だった。
「何故です?」
佐和子が、やわらかく問い返す。
「私の傍にいて欲しい。」
その言葉は、神ですら容易に口にできぬ、
弱さの告白だった。
ガウの手が、虚空を掴むように伸びる。
佐和子は目を伏せ、否定もせず、
にじむような微笑みを浮かべた。
「……今だけですよ。でも、約束は守ります。
あの娘たちに、力を貸して。」
それは同情でも慈悲でもない。
戦いを越えた者同士だけが交わせる、
無言の誓いのようだった。
――
その頃、戦場の隅で夏樹は、
ふと背後の空を振り仰ぐ。
まだ降り続ける砂の向こうに、
目に見えぬ気配があった。
それはこの星の鼓動であり、
失われた者たちの記憶であり、
やがて誰かが再び手を伸ばす“余白”だった。
「光じゃない……でも、怖くもない。」
夏樹の角が微かに共鳴する。
砂粒の間に流れる
**“新しい世界の呼吸”**を確かに感じ取っていた。
――それは、砂の下から這い上がる影のようなもの。
だが、確かなのは、
静寂が終わるということ。
誰も知らない未来と、
終わったはずの物語の続きを。
夏樹は拳を握り、瓦礫を蹴った。
――次なる一歩が、始まる。
“塵の下にある希望”を感じていただけたなら嬉しいです。
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