死を望む吸血姫、永遠を生きる鬼神の子
吸血鬼の少女・カーミラとの冒険が始まったシャク。旅の道中、二人は互いの存在に安らぎを感じていた。不老不死という呪いを背負うシャクにとって、同じ境遇を持つカーミラは、唯一心を許せる存在だった。カーミラもまた、千年の孤独から解放され、シャクの隣にいることに希望を見出していた。
しかし、二人の旅は決して平穏なものではなかった。カーミラは、時折、吸血鬼としての本能に抗えず、血を求めてわがままを言った。
「シャク、喉が渇いたわ。ねえ、少しだけ…」
そう言って、カーミラはシャクに甘える。だが、シャクは鬼子母神から授かった信義を曲げることはなかった。
「ダメだ。俺は、お前を人殺しにはさせない」
シャクの言葉に、カーミラは唇を尖らせ、悪態をついた。
「意地悪! それに、人魚の肉を食べたあなたの血なんて、おいしくないわ!」
そんな憎まれ口を叩きながらも、カーミラはシャクの言葉に従い、人を襲うことはなかった。二人は、そうやって互いの存在を確かめ合いながら、旅を続けていった。
ある時、二人は西の都で、盗賊の一味と戦うことになった。シャクは鬼切丸を抜き、圧倒的な力で盗賊たちを蹴散らしていく。その最中、突如として空気が凍り付いた。圧倒的な存在感、背筋が凍るような殺気。吸血鬼の真祖、ロアが現れたのだ。
「久しぶりだな、カーミラ。随分と楽しんでいるようじゃないか」
ロアは、嘲笑うかのようにカーミラに語りかける。カーミラは、ロアの出現に恐怖を覚える。
「ロア…!」
ロアは、シャクを睨みつけ、鋭い爪を伸ばし、襲いかかってきた。シャクは鬼切丸で応戦する。二人の戦いは、互角。シャクの鬼神の力と、ロアの吸血鬼の力。拮抗する二つの力に、周囲の建物は次々と破壊されていく。
「見事な剣さばきだ、人間。だが、お前の力では、私を倒すことはできない」
ロアは、シャクの攻撃をかわしながら、そう告げる。そして、ロアはシャクに囁いた。
「お前は、この私を殺せば、彼女は不老不死の呪いから解放される。だが…」
ロアは、不気味な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「お前が私を殺せば、カーミラは人間だった頃の寿命を迎えることになる。彼女は、老いて、死を迎えるだろう」
その言葉は、シャクの心臓を鷲掴みにする。カーミラが死ぬ。永遠を生きると思っていたカーミラが、寿命を迎えてしまう。その事実に、シャクは絶望した。
ロアは、シャクの動揺を見抜き、嘲笑うかのように言った。
「さあ、選ぶがいい。呪いを解いて、愛しい女の命を奪うか」
そう言い残し、ロアは闇の中に消えていった。
カーミラは、ロアの言葉を聞いていなかった。だが、シャクの顔色が変わったことに気づき、心配そうにシャクの顔を覗き込む。
「シャク、どうしたの? 顔色が悪いわ」
シャクは、カーミラの言葉に何も答えられなかった。
ロアの言葉は、シャクの心に深い傷を残した。カーミラの願いを叶えれば、カーミラは死ぬ。この事実を知ってしまったシャクは、苦悩を心の奥に秘めながら、カーミラとの冒険を続けることになる。
シャクは、カーミラの笑顔を見るたびに、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。永遠を生きる孤独よりも、愛する者の死を見送る孤独の方が、何倍も辛いことを知ったからだ。シャクの旅は、真祖ロアを倒すという目的から、愛する者の命を奪ってでも呪いを解いてやるかという、究極の判断へと変わっていった。




