永遠を生きる者
話し合いをしたシャクとカーミラ、しかし、カーミラの心には「この男も信用できない、最後は騙し討ちをするだろう」という疑念があり、二人は再び交戦状態に入る。
激しい攻防の末、シャクはカーミラを追い詰める。鬼切丸の切っ先がカーミラの喉元に突きつけられた。だが、シャクは止めを刺すことをためらった。カーミラの瞳の奥に、シャクは深い悲しみと絶望を感じたのだ。それは、不老不死の呪いを背負い、永遠を生きる自分自身の姿と重なった。
「なぜ、止めを刺さないの? 私を討伐するのがあなたの目的ではないの?」
カーミラの問いに、シャクは静かに答えた。
「あんたは、本当に人間を襲いたいのか? あんたの瞳の奥には、悲しみと絶望しかない。俺と同じだ」
シャクの言葉に、カーミラは驚きを隠せない。千年の時を経て、初めて自分の心の奥底を見透かされたのだ。シャクは、鬼子母神に愛され、大切に育てられた過去をカーミラに語った。そして、人魚の肉を食べてしまい、永遠を生きる呪いを背負ったことも。
シャクの告白を聞き終えたカーミラは、目を伏せ、遠い昔の記憶を呼び起こすように語り始めた。
「そう…私は、あなたと同じく、ただの人間だったの…」
カーミラの脳裏に蘇るのは、かつてお姫様として生きていた頃の光景だった。広大な庭園には、色とりどりの花が咲き誇り、太陽の光が降り注いでいた。優しい両親、忠実な使用人たち。すべてが暖かな光に包まれていた。
『カーミラ、今日はどんなお話を聞かせてくれるんだい?』
父である国王は、カーミラを膝に乗せ、優しく微笑んだ。カーミラは、幼い頃から物語を紡ぐのが好きだった。
『パパ、今日はね…』
カーミラは、目を輝かせながら、物語を語り始める。父は、慈愛に満ちた眼差しで、その話を最後まで聞いてくれた。
『カーミラは、今日も美しいわね』
母である王妃は、カーミラの髪を優しく梳かしながら微笑んだ。カーミラの美しさは、隣国の王族からも称賛されるほどだった。
『ありがとう、お母様。でも、私は…』
カーミラは、自分の美しさよりも、人々の笑顔を大切にしたいと語った。母は、そんなカーミラの優しさに、静かに涙を流した。
『カーミラ様、今日も美味しそうなお菓子を作ってきましたよ』
使用人たちは、カーミラの喜ぶ顔が見たくて、いつも手作りの菓子を届けてくれた。カーミラは、皆の優しさに触れ、この平和な日々が永遠に続けばいいと願っていた。
しかし、その願いは、残酷な形で打ち砕かれる。吸血鬼の真祖ロアが城を襲い、カーミラは血を吸われ、吸血鬼にされてしまった。愛する両親も、優しい使用人たちも、すべてロアによって奪われた。カーミラは、永遠の命と引き換えに、すべてを失ったのだ。
「私は、ただ…人間として、いつか死んでいきたかった…」
カーミラの悲痛な叫びに、シャクは共感を覚えた。同じように永遠を生きる者として、カーミラの孤独と苦しみが痛いほど分かったのだ。
「あんたの呪いを解く手伝いをさせてくれ。そして、俺と一緒に真祖ロアを倒そう」
シャクの言葉に、カーミラは驚きと同時に、希望を見出した。圧倒的な強さを持つシャクになら、もしかしたら真祖ロアを倒せるかもしれない。そして、同じように永遠を生きるシャクの優しさに、カーミラは心を許した。
「わかったわ。あなたに力を貸すわ」
カーミラは、真祖ロアを倒すという条件と共に、シャクの申し出を受け入れた。
シャクは、鬼切丸を鞘に納め、カーミラに手を差し伸べる。
「これから、俺たちの旅が始まる。一緒に、ロアを倒そう」
カーミラは、シャクの手を握り返し、微笑んだ。それは、千年の時を超え、再び人間としての感情を取り戻したかのような、美しい笑顔だった。こうして、永遠を生きる二人の冒険が、今、始まった。二人の魂の旅路は、真祖ロアとの対決、そして、それぞれの呪いを解くための旅へと続いていく。




