表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

古城の邂逅

 月明かりの下、シャクは古城の扉をくぐった。城内は不気味な静寂に包まれており、シャクは鬼切丸を構え、警戒しながら進んでいく。最深部へと辿り着いたシャクを待ち構えていたのは、依頼書通りの、ブロンドの髪と青い瞳を持つ美しい姫、吸血鬼カーミラだった。


「カーミラ、討伐依頼だ」


 シャクが告げると、カーミラは冷たい表情でシャクを見据えた。だが、その瞳の奥には、どこか諦めにも似た虚ろな光が宿っているように見えた。


「無駄なことはやめておけ。お前のような若造に、私を討伐できるとでも?」


 カーミラの圧倒的な威圧感に、シャクは一瞬たじろいだ。しかし、シャクも鬼神の血を引く者。鬼切丸に鬼神の殺気を込め、カーミラに襲いかかった。カーミラもまた、吸血鬼としての本能と力を解放し、シャクに応戦する。二人の戦いは激しさを増し、城内は破壊されていく。


 だが、戦いの中で、カーミラはシャクに違和感を覚える。シャクの剣筋には、殺意が見られない。ただ、彼女の力を試すかのように、または、どこか別の意図があるかのように、鬼切丸を振るっている。そして、何よりも、シャクの姿が、カーミラの心を捉えて離さなかった。永遠の時を生きるカーミラは、数多の人間を見てきたが、シャクのような儚げな美しさを持つ男は、初めてだった。鬼神の力を持つ荒々しさと、その根底にある繊細な感受性が、シャクの存在を唯一無二のものにしていた。


「なぜ、本気を出さない? お前のような強者なら、私を討伐することなど容易いだろう」


 カーミラがそう問いかけると、シャクは一瞬、剣を止めた。


「俺は、お前を討伐するためにここへ来たんじゃない。話をするために来た」


 シャクの言葉に、カーミラの表情が驚きに変わる。


「話、だと?」

「そうだ。お前が不老不死であること、そして、悪人しか襲わないという噂。俺は、お前と同じ境遇を持つ者として、お前がなぜそんなことをしているのか、知りたいんだ」


 シャクは、鬼切丸の切っ先をカーミラに向けたまま、静かに語り続けた。


「俺は、永遠の命を手に入れてしまった。愛する家族と、いつか別れる日が来る。その孤独に怯えている。お前も、同じように孤独に苦しんでいるんじゃないのか?」


 シャクの言葉は、カーミラの心の奥底に眠っていた感情を揺さぶった。カーミラは、不老不死という呪いを背負い、孤独な時を生き続けてきた。永遠の孤独。それは、カーミラにとって、何よりも深い苦しみだった。


 カーミラは、シャクの言葉に心を動かされ、攻撃の手を止めた。そして、冷たい瞳の奥に、ほんの少しだけ、感情の光が灯った。


「面白い男だ。お前のような男は初めてだ。いいだろう、話を聞いてやろう」


 カーミラは、シャクに剣を収めるように促すと、静かに自らの玉座へと戻っていく。シャクもまた、鬼切丸を鞘に収め、カーミラの前に立つ。


「お前は、孤独に苦しんでいると言ったな。私も同じだ。永遠の命は、祝福ではなく、呪い。愛する者との別れを、何度経験しなければならないのだろうか…」


 カーミラは、遠い昔の記憶を思い出すかのように、遠くを見つめた。シャクは、カーミラの言葉に共感し、静かに耳を傾ける。二人の不老不死は、互いの孤独を分かち合うかのように、語り合った。それは、戦いでは決して得ることのできない、魂の交流だった。そして、この出会いが、二人の運命を大きく変えていくことになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ