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闇に潜む姫

 シャクが人間界に降り立ってから、季節は何度か巡った。鬼神の血と人魚の肉、そして鬼切丸の力を自在に操る彼は、たちまち街の冒険者ギルドで名を馳せるようになった。彼の剣は鬼神の殺気を帯びており、いかなる魔物も一刀両断する。だが、その強さとは裏腹に、シャクはいつもどこか満たされない思いを抱えていた。


 不老不死という呪いを背負い、いつか来る愛しい家族との別れに怯える自分に、果たして本当の居場所などあるのだろうか。鬼神と人間の狭間で揺れる魂は、行くあてもなく彷徨い続ける。


 そんなある日、シャクはギルドで、ある依頼を請け負うことになる。「吸血鬼カーミラの討伐」。依頼書には、討伐対象である吸血鬼が、ブロンドの髪と青い瞳を持つ美しい姫であり、夜な夜な街の人間を襲っていると書かれていた。


 しかし、シャクは依頼書に書かれている情報とは異なる、不穏な噂を耳にする。カーミラが襲うのは、盗賊や悪人ばかりだというのだ。街の悪事を働く者だけが被害に遭っているという噂は、カーミラが悪意をもって人々を襲っているというよりも、何か別の目的があるのではないかとシャクに思わせた。


 その噂を聞いたシャクは、カーミラが自分と同じ不老不死の存在であるという点にも興味を惹かれた。不老不死の孤独を知るシャクは、カーミラが人間を襲っている本当の理由を知りたいと思った。ひょっとすると、彼女もまた、永遠の命という呪いに苦しんでいるのかもしれない。そう思うと、シャクはカーミラをただ討伐するだけの存在とは思えなくなった。


「この依頼、俺が引き受ける」


 シャクは依頼を引き受け、カーミラが住むという古城へと向かった。その道中、シャクの心の中には、複雑な感情が渦巻いていた。もしカーミラが自分と同じように永遠の孤独に苦しんでいるのなら、彼女を討伐するのではなく、救わなければならないのではないか。母である鬼子母神から教えられた「弱きを助け、信義を貫く」という信念が、シャクの心を揺さぶった。


 カーミラの住む古城へと続く山道。シャクは、鬼切丸の柄に手を置きながら、自問自答を繰り返していた。鬼神の殺気を帯びた剣は、もはや迷いなく魔物を斬り裂くことができる。だが、人間と鬼神の狭間で育ったシャクは、無益な殺生を嫌った。もし、カーミラが本当に悪人しか襲っていないのなら、彼女は正義のために戦っているのかもしれない。シャクは、カーミラの真意を確かめるため、歩みを速めた。


 古城の門をくぐり、薄暗い回廊を進む。シャクの足音だけが、静寂に包まれた城内に響き渡る。その先には、何が待ち受けているのだろうか。同じ境遇を持つ者との出会いか、あるいは、避けられぬ死闘か。


 シャクは、かすかに胸の高鳴りを感じながら、古城の奥へと進んでいった。彼の永遠の旅は、新たな章を迎えようとしていた。カーミラとの出会いが、彼の人生にどのような変化をもたらすのか。シャクは、不老不死という呪いに立ち向かうため、そして、真の居場所を見つけるため、迷いなく歩き続ける。

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