悔恨の跪きと、慈悲の光
ロアをどう攻略するか、三人で話し合うシャク、アレス、カーミラ。シャクは、中央の都で出会った姉、吉祥天の言葉を思い出していた。
「……須弥山に行こう」
シャクの言葉に、アレスとカーミラは顔を見合わせる。
「須弥山……? 確か、北の都の奥地にあるって、吉祥天様が言ってた場所よね?」
カーミラの問いかけに、シャクは頷く。
「ああ。吉祥天姉さんは、僕たちの悩みを解決してくれる、良い道が見つかるかもしれないって、言っていたんだ」
アレスも、シャクの提案に同意した。
「そうだな。ロアの呪縛を解く方法が、そこにあるのかもしれない」
須弥山へ向かうには、吸血鬼を嫌う教会が多い街を通過しなければならない。カーミラは、修道女の衣装を身につけ、北の都の教会を目指していると嘘をつきながら旅をすることになった。修道女の格好をしたカーミラは、どこか居心地が悪そうだが、その姿は、吸血鬼としての自分を隠すための、必死の偽装だった。
教会の街を抜け、北の都に向かう途中のとある街で、三人は一軒の教会に立ち寄った。そこで、眼鏡をかけた初老の牧師に出会う。牧師は、三人を暖かく迎え入れてくれるが、カーミラの姿を見て、どこか訝しげな表情を浮かべる。
「あなた、修道女にしては、どこか……覇気がないようですな」
牧師の言葉に、カーミラは冷や汗を流す。
「は、はい……。旅に疲れてしまって……」
カーミラは、必死に嘘をつくが、牧師の視線は、カーミラの首筋に注がれていた。
「……ほう、そうですか……。しかし、あなたの首筋には、魔物の証が……」
牧師の言葉に、カーミラは顔を青くする。
牧師は、聖水を手に取り、カーミラに近づいていく。
「吸血鬼め……! 聖水で、その邪悪な魂を清めてやろう!」
牧師の声に、カーミラは身を震わせる。
「やめてください!」
シャクとアレスが、牧師を止めようとするが、牧師は聞く耳を持たない。
「元吸血姫のカーミラは、危険な存在だと聞いている! 貴様らは、彼女に騙されているのだ!」
牧師は、そう叫びながら、聖水をカーミラに浴びせようとする。
カーミラは、絶望的な状況の中、一つの決意を固めた。
「……やめてください……!」
カーミラは、シャクとアレスをかばうように、牧師の前に進み出た。
「カーミラ!」
シャクが叫ぶが、カーミラは静かに、しかし力強く、牧師の前に跪く。
「……私の罪は、私自身のものです……。この方たちには、何の関係もありません……」
カーミラは、かつてお姫様として生きていた誇りを捨て、牧師の前に頭を下げた。
「お願いです……! この方たちだけは、見逃してください……!」
カーミラの瞳からは、涙が溢れ出していた。
元お姫様であったカーミラが、膝をつき、頭を下げる姿に、牧師は驚きを隠せない。
「……き、貴様……!」
牧師は、カーミラの姿に、言葉を失う。
「……私……、吸血鬼になってから、たくさんの罪を犯しました……。でも、この方たちに出会って、人の温かさを知ることができた……。だから……、お願いです……!」
カーミラは、涙声で訴え続ける。
牧師は、カーミラの涙を見て、心を打たれた。
「……勘違いであった……」
牧師は、そう呟くと、聖水を地面に落とす。
「……私は、人の心を見誤っていた……。この娘は、邪悪な魔物などではない。ただ、罪を背負い、それでも前に進もうとしている、一人の人間だ……」
牧師は、カーミラの正体に気づきながらも、見逃してくれることを決めた。
「……行きなさい。そして、その罪を、慈悲の心で償うのだ」
牧師の言葉に、カーミラは涙を流しながら、深く頭を下げる。
シャクとアレスも、牧師の慈悲に感謝し、深く頭を下げた。
こうして、三人は、教会の街を抜けることができた。
街を抜け、三人は静かに歩き続ける。カーミラは、まだ涙が止まらなかった。
「カーミラ……」
シャクが優しく声をかけると、カーミラはシャクの胸に飛び込み、泣きじゃくる。
「……シャク……。私、ずっと……、吸血鬼になったことを、後悔してた……。でも……、牧師様が……、許してくれた……」
カーミラは、シャクの温かさに触れ、ようやく、心の奥底に秘めていた悔恨を吐き出した。
アレスは、二人の姿を微笑ましく見つめていた。
「……よかったな、カーミラ。お前は、もう、一人じゃない」
アレスの言葉に、カーミラは頷く。
三人は、再び心を一つにし、北の都、そして、須弥山を目指して歩き始めた。
カーミラの心に、ようやく、安堵の光が差し込んだのだった。




