カーミラの嫉妬と、シャクの優しさ
南の都での魔導王との激闘を終え、シャク、アレス、カーミラの三人は、しばしの休息を経て北の都を目指して旅立った。途中、大陸の中央に位置する大都会に立ち寄る。様々な種族が行き交い、活気に満ちた中央の都で、彼らは北の都への準備を整えることにした。
都の喧騒の中、カーミラと二人で買い物を楽しんでいたシャクは、ふと、その存在に目を奪われた。黒く艶やかな髪が陽光を浴びて輝き、雪のように白い肌と、吸い込まれるような美しい瞳を持つ女性が、彼らの方に微笑みかけている。その美しさは、まるでこの世のものとは思えないほどだった。
女性は、シャクたちに近づくと、優雅な仕草で頭を下げた。
「シャク、カーミラさん。お初にお目にかかります」
その声は、鈴の音のように透き通っており、シャクは思わず聞き入ってしまう。
「あの……あなたは?」
シャクが尋ねると、女性は優しく微笑んで答えた。
「私は、あなたの姉、吉祥天です」
吉祥天の言葉に、シャクは驚きを隠せない。十羅刹女たちとはまた違う、慈愛に満ちたオーラを放つ吉祥天に、シャクは改めて自分の出生の特異さを思い知らされる。
カーミラは、吉祥天のあまりの美しさに嫉妬の念を抱きながらも、畏敬の念を抱いていた。
「吉祥天……様……」
カーミラの言葉に、吉祥天は優しく微笑む。
「カーミラさん。シャクのことを、いつもありがとうございます」
吉祥天の言葉に、カーミラは顔を赤くする。
吉祥天は、シャクに語りかけた。
「私は、北の都の奥地にある須弥山に、主人の毘沙門天様と住んでおります」
そして、シャクに、北の都へ向かうことの危険性を説く。
「北の都は、魔導王を凌ぐほどの魔物たちが跋扈する、危険な場所。シャクが、向かうのであれば、ぜひ、須弥山にお立ち寄りください」
シャクが頷くと、吉祥天は、カーミラに聞こえないように、そっとシャクの耳元に囁いた。
「カーミラさんのこと、悩んでいらっしゃるのでしょう? 須弥山においでになれば、きっと、良い道が見つかるはずですよ」
その言葉に、シャクは驚き、吉祥天を見つめる。
「姉さん……」
吉祥天は、それ以上何も言わず、ただ優しく微笑んだ。
吉祥天は、シャクとカーミラに別れを告げると、姿を消した。
「まさか、吉祥天様まで、シャク様のお姉さんだったなんて……」
カーミラは、呆然とした表情で呟く。
「僕も、正直驚いている。でも、これで、北の都に向かう心構えができた」
シャクは、吉祥天との出会いを胸に、北の都への旅路を再開する。
再び、アレスと合流したシャクたちは、北の都を目指して旅立つのだった。
道中、カーミラは、吉祥天のあまりの美しさに、嫉妬心を募らせていた。
「ねえ、シャク。吉祥天様って、本当に綺麗だったわよね……」
カーミラは、不機嫌そうな顔でシャクに話しかける。
「ああ。本当に、美しい方だった」
シャクが素直に答えると、カーミラはさらに不機嫌になる。
「もう! シャクったら、そんなに褒めなくてもいいじゃない!」
カーミラの拗ねた様子に、シャクは苦笑する。
「カーミラ。君も、とても美しいよ」
シャクの言葉に、カーミラは顔を赤くする。
「もう、シャクったら……」
カーミラは、そう言いながらも、満更でもない様子だった。
宿屋に帰ると、二人の様子を見たアレスは、微笑ましく見つめていた。
「お前たち、本当に仲がいいな」
アレスの言葉に、シャクとカーミラは、顔を赤くして、そっぽを向く。
三人の旅は、これからも、様々な出会いを経験しながら、続いていくのだった。




