魔導王の出家
魔導王の過去を聞いたシャクは、言葉を失っていた。最愛の娘を南の悪政王に殺されたという、あまりにも悲痛な過去。その深い悲しみと憎しみが、魔導王を闇へと堕とし、魔導王の強大な魔力となったのだと知った。
「……なんと、哀れな……」
朗印は、大柄な体躯を震わせながら、静かに魔導王に語りかける。
「貴殿の悲しみは、理解できる。しかし、憎しみは、何も生み出さぬ。ただ、貴殿の心を蝕み、その魂を穢すだけだ」
魔導王は、朗印の言葉に反発する。
「黙れ! 貴様のような、何も知らぬ人間に、私の何がわかるというのだ! 娘を殺され、全てを奪われた私の絶望を!」
朗印は、静かに魔導王の前に進み出た。そして、優しく、しかし力強く、魔導王の肩に手を置く。
「……貴殿の憎しみは、決して消えることはないだろう。しかし、その憎しみを、慈悲の心で包み込むことはできる」
朗印は、魔導王に、仏弟子となり、朗印とともに東の都で仏門に帰依することを提案した。
「仏門に帰依し、娘の菩提を弔うのだ。そうすれば、貴殿の心も、いつか救われるはず」
魔導王は、朗印の言葉に、戸惑いを隠せない。しかし、朗印の温かい手に触れ、その眼差しに宿る慈悲の心を感じた魔導王は、次第に心が揺らいでいく。
「……私の……娘の、菩提を……」
魔導王は、震える声で呟くと、朗印の言葉を受け入れた。
「……分かった。貴様の言う通りにしよう。私の憎しみが消えることはないだろう。だが、せめて、娘の魂を安らかに眠らせてやりたい……」
しかし、その様子を冷めた目で見ていた者がいた。悪魔のデーロクだ。
「ちっ、ご主人様も、すっかり腑抜けになってしまったな」
デーロクは、魔導王の変わりように苛立ちを募らせる。
「情など、愚かな人間の持つもの。私は、ただ、この世の全てを破壊し尽くしたいだけだ!」
デーロクは、シャクに向かって襲い掛かる。
「デーロク……! これ以上、罪を重ねるな!」
シャクは、デーロクの攻撃をかわすと、修行で得た新たな力で、鬼切丸を構える。
「貴様の罪は、この一刀で、断ち切る!」
シャクは、一閃。デーロクは、シャクの鬼切丸によって、一刀両断にされ、塵となって消えた。
戦いは終わり、シャクたちは、南の都へと戻る。
魔導王は、朗印の法力と自身の魔力で、豪傑な僧侶の姿に認識阻害魔法をかけ、朗印とともに東の都へと旅立つ準備をしていた。
「シャク殿。世話になったな」
朗印は、シャクに頭を下げると、笑みを浮かべる。
「朗印様……。俺を鍛えていただき、ありがとうございました」
シャクは、朗印に深く頭を下げる。
「いつか、東の都に行ったら、また弟子にしてくださいますか?」
シャクの言葉に、朗印は、嬉しそうな表情を浮かべながらも、笑い飛ばす。
「鬼神の息子など、弟子にはしないわい! しかし、東の都に来たのなら、いつでも顔を出すがよい」
朗印と魔導王は、東の都へと旅立っていった。
残されたシャク、アレス、カーミラの三人は、互いの顔を見合わせる。
「シャク、強くなったわね。なんだか、頼もしいわ」
カーミラは、シャクを見つめ、微笑む。
「ああ。シャクのやつ、すっかりたくましくなりやがって」
アレスも、シャクの成長に、嬉しそうな表情を浮かべる。
シャクは、二人の言葉に、照れくさそうに笑う。
「……二人とも、ありがとう。俺は、二人のおかげで、強くなれた」
三人は、再び旅に出ることを決意する。新たな目的地は、北の都だ。
北の都には、どんな冒険が待っているのか。そして、シャク、アレス、カーミラの三人は、どのような成長を遂げるのか。
三人の旅は、まだまだ続いていく。




