因果応報
修業を終え、一回りも二回りも大きく成長したシャクは、朗印を加え、再び魔導王の城を目指した。王都に残る南の都の兵士たちと冒険者たちも、シャクたちの後を追う。誰もが、今度こそ魔導王を討ち倒すのだという、強い決意を胸に秘めていた。
魔導王の城にたどり着いたシャクたちは、朗印を中心に陣を組む。
「魔導王の魔力は、この世の理を歪めるほどに強力。私が法力で抑え込む。その間に、シャク殿はデーロクを、アレス殿とカーミラ殿は、魔物たちを討ち果たしてください」
朗印は、大柄な体躯に見合わぬ、繊細な法力で魔導王の魔力を抑え込んでいく。朗印の法力と魔導王の魔力がぶつかり合い、あたり一帯の空気が震える。
「さぁ、シャク殿。行くがよい!」
朗印の言葉に、シャクは力強く頷き、城へと向かう。
城の入り口には、執事のデーロクが立ちはだかっていた。
「おや、あなた方。また懲りずにやってきましたか。しかし、以前とは違うようですね。その穏やかな気配、いったいどうされましたか?」
デーロクは、シャクの変わりように驚きながらも、不敵な笑みを浮かべる。
「朗印様のもとで、修行を積んだ。もう、怒りに任せて、力を使うことはない」
シャクは、静かにそう答えると、デーロクに向かって歩き出す。
デーロクは、シャクの言葉に鼻で笑う。
「ふっ、修行したところで、所詮は人間。我が魔力に敵うわけが……」
デーロクが言葉を言い切る前に、シャクの姿が消えた。
「なっ!?」
デーロクが驚く暇もなく、シャクはデーロクの懐に入り込み、掌底を放つ。
「ぐっ……!?」
デーロクは、シャクの攻撃に吹き飛ばされ、壁に激突する。
「まさか……! 以前とは、まるで違う強さ……!」
デーロクは、信じられないといった表情でシャクを見つめる。
シャクは、以前のように怒りに任せて力を使うのではなく、慈悲の心でその力を制御していた。その力は、以前よりも遥かに強力で、そして、精巧だった。
その頃、城外では、アレスとカーミラが、南の都の兵士や冒険者たちと協力し、魔物たちと戦っていた。
「みんな、怯むな! シャクも朗印様も、城の中で戦っているんだ! 俺たちが、ここで負けるわけにはいかない!」
アレスが叫び、魔物たちに突っ込んでいく。
「そうよ! 私の爪は、以前よりも研ぎ澄まされているわ!」
カーミラも、鋭い爪でラミアたちを切り裂いていく。
南の都の兵士や冒険者たちも、シャクたちの活躍に勇気づけられ、奮戦する。
城の最深部では、朗印と魔導王の魔力、そして、シャクとデーロクの戦いが繰り広げられていた。
朗印は、法力で魔導王の魔力を抑え込み、シャクは、圧倒的な強さでデーロクを追い詰めていく。
「なぜだ……! なぜ、貴様ごとき人間に、我が魔力が……!」
魔導王は、朗印の法力に苦戦し、苛立ちを募らせる。
「貴様の魔力は、憎しみと絶望から生まれたもの。しかし、我の法力は、慈悲と希望から生まれたもの。憎しみは、慈悲には勝てぬ」
朗印の言葉に、魔導王は激昂する。
そして、シャクは、デーロクにとどめを刺そうとする。
「デーロク……! これ以上、魔導王の眷属として、悪行を続けることは許さん!」
シャクの言葉に、デーロクは悔しそうな表情を浮かべる。
「くそっ……! 貴様ごときに、負けるなど……!」
デーロクが、最後の力を振り絞ろうとしたその時、魔導王が叫ぶ。
「デーロク、下がれ!」
魔導王の言葉に、デーロクは歯噛みしながらも、シャクから距離を取る。
シャクは、魔導王に顔を向ける。
「魔導王……! 貴様も、デーロクと同じだ! なぜ、こんなにも多くの魔物を従え、人間を襲うのだ!」
シャクの問いかけに、魔導王は、哀しそうな、そして、憎しみに満ちた瞳でシャクを見つめる。
「……人間、お前たちに、何がわかるというのだ……」
魔導王は、静かに、そして、重い口を開いた。
「かつて、私も人間だった……。魔導の力を手に入れたことで、人間たちから恐れられ、迫害された……。だが、それでも、私には愛する娘がいた。魔導の力を使う私を、唯一、恐れなかった……」
魔導王は、悲しみを込めて語る。
「しかし、南の悪政王は、私を捕らえるために、私の娘を人質に取った。私は、娘を助けようと、悪政王のもとへ向かったが、間に合わなかった……。目の前で、娘は悪政王に斬首されたのだ……!」
魔導王の言葉に、シャクは息をのむ。
「悪政王は、私の魔導の力を恐れ、私を陥れるために、無抵抗な娘を殺したのだ……! 私は、娘の亡骸を抱きしめ、復讐を誓った……! 人間を、この世から、全て消し去ることを!」
魔導王は、過去の辛い記憶を語りながら、涙を流す。その涙は、魔導王の心を蝕む憎しみと、娘を失った悲しみが混じり合った、禍々しいものだった。
「人間は、自分たちと違うものを、決して認めようとしない。ただ、恐れ、そして、排除しようとする……! だから、私は決意したのだ……! 人間を、この世から、全て消し去ることを!」
魔導王の言葉に、シャク、そして、朗印も言葉を失う。
魔導王の憎しみは、人間への復讐心から生まれていた。しかも、その原因は、シャクたちがかつて倒した悪政王にある。その過去を知ったシャクたちは、どうするべきか、迷いを抱く。
魔導王との戦いは、新たな局面を迎えていた。




