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荒法師

 城に戻ると、シャクの心には深い後悔の念が刻まれていた。自らの内に秘められた力が暴走し、あわや仲間を傷つけるところだったという事実に、彼は自らの存在の危険性を痛感していた。城塞の一室に籠もり、瞑想を続けるシャクのもとに、アレスとカーミラが訪れる。


「シャク、大丈夫か?  まだ、あの時のことを引きずっているのか?」

 アレスの言葉に、シャクは重い口を開いた。


「アレス、カーミラ……。俺は、自分の力を制御できていなかった。ただ、魔導王の眷属への怒りに任せて、力を使っただけだ。その結果、母から受け継いだ鬼神の力が暴走してしまった……」


 シャクの言葉に、二人は驚きを隠せない。


「つまり、力を使えば使うほど、シャクは鬼化してしまうってこと……?」

 カーミラの問いかけに、シャクは静かに頷く。


「おそらく……。このままでは、俺はいつか、理性を失った鬼神になってしまうだろう……」


 その時、一人の高僧が部屋の扉を開けた。東の都から訪れたというその高僧は、朗印と名乗った。**筋骨隆々とした体躯は鎧を纏った戦士のようで、日に焼けた顔には修行の厳しさを物語るような険しい皺が刻まれている。頭に巻いた手ぬぐいも相まって、およそ僧侶とは思えない荒法師のような外見だった。**しかし、その眼差しは穏やかで、澄んだ瞳を持つ朗印は、シャクの言葉を静かに聞いていた。


「……貴殿の力は、確かに強大だ。しかし、その力は、怒りや憎しみに任せて使うものではない。慈悲の心を持って使うべきもの」

 朗印は、シャクに優しく語りかける。


「貴殿の心の内に宿る鬼神の力は、決して悪しきものではない。ただ、その力を制御する方法を知らないだけだ。私が、その方法を教えてあげよう」

 朗印の言葉に、シャクは驚き、希望を見出す。


 朗印は、シャクを連れて、南の都の郊外にある険しい山へと向かった。


「この山は、かつて、多くの修行僧たちが修行を積んだ場所。ここで、己の心と向き合い、内なる鬼神の力を制御する方法を学ぶのだ」

 朗印の言葉に、シャクは静かに頷く。


 修行は、想像を絶する厳しさだった。

 滝に打たれる滝行。冷たい滝水が、シャクの体を容赦なく打ちつける。

 読経三昧。何時間も経文を読み続け、己の心を無にする。

 座禅。無心で座り続け、己の心を深く見つめる。


 シャクは、幾度となく心が折れそうになった。しかし、そのたびに、アレスやカーミラの顔、そして、南の都の民の笑顔を思い出し、修行を続けた。

そして、数ヶ月後、シャクは、修行を終えた。


 シャクの雰囲気は、以前とは全く違っていた。以前のシャクには、どこか危うさがあったが、今のシャクは、穏やかで、静かで、しかし、その内には、巨大な力が秘められていることを感じさせる。


「シャク……。なんだか、別人みたい……」

 カーミラは、シャクの変わりように驚きを隠せない。


「ああ。だが、以前よりも、ずっと強くなったように感じる」

 アレスも、シャクの成長を感じていた。


 朗印は、静かにシャクに語りかける。

「貴殿は、己の心の内に宿る鬼神の力を、慈悲の心で包み込むことに成功した。もはや、鬼神の力に、心を蝕まれることはないだろう」


 朗印の言葉に、シャクは深く頭を下げる。


「朗印様……。感謝しても、しきれません……」

「礼には及ばぬ。これも、貴殿の心の強さが成し遂げたこと」


 朗印は、シャクの修行を見届けた後、魔導王討伐に力を貸すことを申し出た。

「魔導王の魔力は、この世の理を歪めるほどに強力。しかし、貴殿の力と、我の法力があれば、対抗できるかもしれぬ」


 朗印の申し出に、シャク、アレス、カーミラは、心強く思う。


 再び、魔導王との決戦の時が迫っていた。しかし、シャクは、もう以前のシャクではない。鬼神の力を制御し、慈悲の心を手に入れたシャクは、魔導王に勝利することができるのか。


 三人の、そして朗印を加えた新たな冒険が、今、始まろうとしていた。

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