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継がれる罪と、誓われる優しさ

 三人の旅路は、ひっそりとした田舎の村へと辿り着いた。元社畜のシャク、吸血鬼の姫カーミラ、そしてロマンスグレーの騎士アレス。彼らの風変わりな一行は、旅人を泊める宿もない小さな村で、一人の優しい老婆と出会った。


「旅の人かね? もし宿が見つからないのなら、わしの家に泊まっていきなさい」


 老婆は三人を温かく迎え入れ、まるで家族のように接してくれた。手作りの温かな料理、他愛のない世間話。久しく忘れていた人の温もりに、彼らの旅の疲れは静かに溶けていった。アレスは穏やかな笑顔で老婆と語らい、カーミラはどこか不思議そうに、しかし心地よさそうにその光景を眺めていた。シャクは、老婆の優しさに触れるたび、遠い昔に感じた母の温かさを思い出し、胸の奥がきゅうと締め付けられるのを感じていた。


 ある日、シャクが老婆の畑仕事を手伝っていると、老婆はふと、遠い過去の出来事を語り始めた。


「わしがまだ若かったころの話だよ……。生まれたばかりの、かわいいわが子を、鬼にさらわれてね……。気がついたら、喰われてしまっていたんだ……」


 老婆の目に、今も癒えることのない悲しみが浮かぶ。シャクは、その言葉を聞いて、心臓が凍りつくような感覚に襲われた。その鬼が誰なのか、シャクにはすぐに分かってしまった。それは、彼を生んだ後、鬼へと変貌した、彼の母親だったからだ。シャクの母親は、釈迦に諭される前の鬼子母神だった。


「鬼……ですか?」

 シャクが震える声で尋ねると、老婆はゆっくりと頷いた。


「ああ……。それは、それは、恐ろしい鬼だった……。わしは、未だに、その鬼の姿が忘れられない……」

 老婆の言葉が、シャクの心に深く突き刺さる。シャクは、何も言えずにその場に立ち尽くす。老婆は、シャクの様子を不審に思いながらも、話を続ける。


「まあ、昔の話だよ……。でも、今でも、時々、夢に出てくるんだ……」


 シャクは、老婆の言葉に耐えきれなくなり、畑の土の上に、静かに膝をついた。そして、老婆に向かって、深々と頭を下げた。


「おばあさん……。俺の母親が……。その鬼なんです……」

 シャクの告白に、老婆は驚きを隠せない。カーミラとアレスも、シャクの様子を見て、畑に駆けつける。


「シャク、何を言っているの……?」

 カーミラが戸惑うように尋ねると、シャクは顔を上げ、老婆に土下座したまま、再び頭を下げた。


「本当に……申し訳ありませんでした……」

 シャクの言葉に、老婆は言葉を失う。カーミラは、シャクを助け起こそうとするが、シャクはそれを拒む。


「……シャク殿、顔を上げなさい」

 アレスが、穏やかな声でシャクに語りかける。しかし、シャクは、顔を上げない。


「俺は……、償わなければならないんです……。俺の母親が、奪ってしまった命を……」

 シャクの懺悔に、老婆は静かに涙を流す。そして、シャクに優しく語りかける。


「顔を上げておくれ、シャクさん……。あんたは、悪くないんだよ……」

 老婆の言葉に、シャクはゆっくりと顔を上げる。老婆は、シャクの顔に手を伸ばし、優しく頬を撫でた。


「あんたは、あの鬼とは違う……。優しい目をしてる……」

 老婆の言葉に、シャクは再び、涙を流す。カーミラとアレスも、その光景を静かに見守っていた。


 老婆は、複雑な心境を抱きながらも、静かにシャクに語りかけた。


「わしも、憎まなかったわけじゃない。でも、あんたが、鬼子母神の息子だからって、罪を背負う必要はないんだよ。ただ、この世の悪から弱きを守り、わしのような被害者が増えないように、償えばそれでいいんだ」


 シャクは、老婆の言葉に深く心を打たれる。そして、改めて、この世の悪から弱者を守ることを誓う。


「おばあさん、俺、約束します。必ず、この世から、悪をなくします。そして、あなたのような悲しい思いをする人がいなくなるように、俺の命に代えても守り抜きます」


 シャクは、固い決意を瞳に宿し、老婆に誓いを立てた。老婆は、そんなシャクの姿を見て、静かに微笑む。


 旅は、まだ終わらない。シャクは、母親の罪と向き合うために、再び歩き出す。隣には、シャクの決意を見届けたカーミラとアレスがいる。


「行こう、シャク。私たちの旅は、まだ始まったばかりよ」

 カーミラが、力強くシャクに語りかける。


「ああ、そうだな。行こう……」


 三人は、老婆に別れを告げ、再び旅に出る。彼らの旅は、母親の罪を背負ったシャクの贖罪の旅、そしてロアを倒し、カーミラを救うための旅へと、新たな意味を帯びていく。老婆の温かい眼差しに見送られ、三人は、希望の光を胸に、旅路へと歩みを進めるのだった。

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