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吠えろ! 壁をぶっ壊せ!

作者: 中川 篤



 雨は降りそうで降らなかった。よどんだ天気同様、どうでもいい言葉ばかりが頭の中には去来してきた。というか真っ白だった。何も考えていない。頭の中には何もないのにそれを修辞的に彩ることばかり考えていた。きょう一日だって本当はひどいものだった。職場に向かって、いつも通りのルーティンをこなす。大した仕事じゃない。工夫も改善もない。今日も先週と同じ。決まり切った仕事。それでいて頭の中は、真っ黒だ。人間のように見えるが、実際はbotが仕事をしているようなものだった。


 目の前にくすんだ煙がかかり、壁を形づくる。その薄い膜のような壁が、うっとおしい。自分はその内側にいて、常に外側に出たがっていた……筈だった。


 この壁が何重もの構造になっていることは知っている。何百何千もの構造だ。壁の向こうにはまた壁があり、ドッキリ番組の一コーナーのように壁に体当りすると、また新しい壁が向こうに姿を見せる。


 それでも壁をぶち破った瞬間だけは、まるで自分が無敵のように、壁などないように錯覚するのだ。そう、オレはとにかくムカついていた。誰にも見えていない、けど、自分たちの住む世界には壁があって、そのどうしようもない閉塞感がオレは嫌だった。どこにも行けなかった。暮らしは小さな世界だけで完結していて、それもまた閉塞感だった。


 それは皆似たようなものだった。ガラスを割ったり、意味もなく大声を出したりするのは、壁をぶち壊したいからだ。ガラスを割っても手がいたくなるだけだ。ケガして、保健室に運ばれて、泣いて、親に連れられて家に帰って、とにかくダサいだけだ。大声を出すことはうまくいけば、頭の中にカチッとはまったような音がして、それが壁を一つぶち壊した合図だった。皆は驚いたり、オレから離れたりしたが、どうでもよかった。最悪なのは面白がって、オレに壁を壊させようとする人間がいたことだ。


 そういう期待が一番嫌だった。壁を壊すというのは、世界のどこかを傷つけることだってことをオレは知っていたから、たぶん、必要でもないのに面白半分でそれをやらせようとするやつらの態度が、オレは気に食わなかったんだろう。君も知っておいたほうがいい、世の中はそういう手合いばかりだ。

2024/10/28

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