御徒町樹里の冒険 本当の敵
僕は勇者。
我らがアイドルの御徒町樹里ちゃんが、魔王コンラの妹だと知り、僕はとても驚いた。
そんな中、大魔導士カジューが再び現れた。
樹里ちゃんはカジューとの対決のため、どこかに行ってしまった。
一人取り残された僕は、延々と続く魔術師達の死体の山を歩き、仲間達を探した。
「カオリーン! リクーッ! ノーナーッ!」
あらん限りの声で叫ぶ。しかし、返事はない。
僕は絶望しかけていた。
その頃、御徒町樹里とカジューは、城の最下層にある魔術の間にいた。
そこは異空間と言うのが相応しく、他の階と隔絶していた。
「ここなら、誰にも危害が及ばないでしょう。樹里様、もうお遊びは終わりです」
カジューは真剣な表情で言った。
「はい、魔導士さん。今度は私も本気で行きます」
樹里は相変わらずの笑顔で答えた。
「どこまでも強がりを! 貴女など、私の敵ではない!」
カジューの周囲の空間が、一気に歪んだ。
「私は気象魔法だけではなく、重力系魔法も使えるのです!」
彼は杖を振るった。
「超重力地獄!」
歪んだ空間が、樹里に襲いかかった。
「効きませんよ、魔導士さん」
しかし、その空間は樹里の前で消滅してしまった。
「バカな! ならば!」
また杖を振るうカジュー。
「今度は召喚魔法です! 海竜爆渦!」
巨大な渦潮と共に、海竜が出現し、樹里に迫る。
「無駄です、魔導士さん」
海竜は樹里の前で霧のように消えてしまった。
「何故だ? 何故通じぬ?」
カジューは髪を掻きむしって叫んだ。樹里は微笑んで、
「貴方のどんな魔法も、それが私の姉コンラから授けられたものである限り、決して私には通じませんよ、魔導士さん」
「そ、そんな……」
カジューは呆然としていた。
「私と姉コンラは対の存在です。姉の力は私には通じません。そして、私の力は姉には通じない」
「……」
カジューは樹里に決して勝つ事ができない事を悟った。
「私は……」
カジューの顔が元に戻った。その時だった。
「何をしているか、カジューよ。早くしないか! 早くしないと、コンラは……」
どこからともなく、この世の終わりを予感させるようなおぞましい声が聞こえた。
「やはり貴女でしたか」
樹里は冷静に言った。
「我は悪魔コツリ。汝らの母なるぞ、樹里よ」
カジューは驚愕していた。
「そ、そんな……。あの声は、コンラ様ではなかったというのか……。私は騙されていたのか?」
「今頃気づいても遅いわ、カジューよ。お前が集めてくれた魔術師達の魔力で、我は千年ぶりにこの世に甦る事ができる。大義であったぞ」
「な、何だと!?」
カジューは怒りに震えた。
「おのれーっ! この私をよくも騙してくれたな!」
「後もう少しじゃ。もう少しで、我は甦れるのじゃ。お前らの魔力、我に寄越せ!」
「くっ!」
カジューが倒れかけたのを、樹里が助けた。
「樹里様……」
「さっ、早く!」
樹里はカジューの手を引き、走った。
「私はカジューです、樹里様! いい加減、覚えて下さい!」
「はい、魔導士さん」
「……」
二人は必死になって走った。
「この部屋の結界で、転移魔法が封じられています。とにかく、この部屋から脱出しましょう!」
樹里はカジューを励ましながら走り続けた。
「逃さぬぞ、二人共。我が糧となれ!」
後方で悪魔コツリの声がした。
僕はようやく死体の山を通り抜け、広い部屋に出た。
「うん?」
そこには、大きなガラスの筒が建てられていた。
中は何かの溶液で満たされており、下からブクブクと泡が吹き上がっている。
「わわっ!」
筒の中に、女性が浮かんでいた。
「樹里ちゃん?」
最初はそう思った。しかし、違う。髪は金髪。しかも全裸。
でも、まるで指示されたかのように、バストトップと股間は、光と泡で見えなくなっている。
そうしないと、十八禁になってしまうらしい。
それにしても、何て美しいんだ。樹里ちゃんも綺麗だけど、この女性は妖艶さがある。
まさか? もしかして、これは?
魔王コンラ? 樹里ちゃんのお姉さん?
でも何故コンラが溶液の中に?
どういう事なんだ?
これが、探し求めて来た敵? 何かおかしい。
僕はその女性をジッと見つめた。
オラは戦士リク。
怪しい自称妖精のテックに騙されたフリをして、勇者様を探している。
「ホッホウ、この先さ。この先に勇者と御徒町樹里がいるよ」
ある扉の前で、虫は言っただ。
見るからに怪しい扉だ。
中に絶対何か罠がありそうだ。
「ささ、どうぞ」
何故か虫は中に入ろうとしないだ。
「おめえが先に入れ」
オラは警戒して言った。すると虫は、
「じゃあ、レディーファーストで、ノーナさんからどうぞ」
ととんでもない事を言い出した。何がレディーファーストだ、バカモンが!
「ありがとう、妖精さん」
素直なノーナしゃんは、そのまま中に入ってしまっただ!
「ああ、待って、ノーナしゃん」
ガコーン! 何かが動き出す音がしただ。絶対まずい展開だあよ。
ガシャーンと扉が閉じた。
「しまっただ!」
「リクさん!」
ノーナしゃんとオラは、しっかりと抱き合っただよ。
「ホッホウ。何度も同じ手に引っかかるなんて、とつてもおバカさんなんだね、君達は」
虫は、前回と同じく、扉の上の小窓から顔を出しただ。
「今度こそ、ぺしゃんこさ、リクさん、ノーナさん。残念だったね、勇者がいなくて」
天井がズンズンと下がって来ているだ。
「うううっ!」
オラは歯ぎしりして悔しがっただ。
その時だよ。
「だったらあんたも、その中でぺしゃんこになればいいわん」
と声がした。
「えっ?」
虫が振り返るより早く、誰かが虫を突き飛ばした。
「わわわっ!」
虫はそのまま部屋の中に落下し、床に顔を打ち付けた。
「潰れればいいのよん」
どこかで聞いた口癖で、そいつは言っただ。
「ホッホウ。そんな事もあろうかと、秘密の抜け道を用意していたのさ。僕は抜け目がないんだよ」
バカな虫は、全部解説しながら隠し扉を出した。
「ご苦労さん」
オラは虫の首根っこを掴んで放り投げた。
「あれーっ!」
虫は部屋の反対側まで飛び、壁にぶつかった。
「この前のノーナしゃんの仇だ」
オラはそう言うと、ノーナしゃんと共に隠し扉から外に逃げただ。
「ぎょえーっ!」
虫は天井の下敷きになっただ。
享年何歳か知らねえだが。
「あ、貴女は?」
ノーナしゃんが救いの神を見て言った。
オラもその子を見た。
やっぱり、その子はユーマだった。
「なして助けてくれただ?」
オラは不思議に思って訊いただ。
「樹里様の仲間は、私の仲間よん」
ユーマはピースサイン出して言っただ。ええ子や……。
「早く、樹里様を助けに行くのよん」
「そ、そうだな」
オラ達は、ユーマの案内で先に進んだだ。
私は武闘家カオリン。
愛しいカジュー様をお助けするために、ヤギーの案内で、城内を走っています。
「まだですの、ヤギーさん?」
私は息を切らせて言いました。
「へい、この部屋の中でやんすよ」
ヤギーはようやく立ち止まり、扉を指し示しました。
「カジュー様!」
私は慌てて扉を開こうとしました。
「ダメですわ、カオリン。その扉を開いてはいけませんわ」
「この声は……」
私は怒りに震えましたわ。
「ユカリン、貴女まだ私の邪魔をしますの!?」
振り返ると、廊下の向こうにユカリンが立っていました。
「ええ、しますわ」
「どこまでも憎らしい妹ですこと!」
「どこまでもお間抜けな姉ですこと!」
私達は同時に走り始めました。
「互いに傷つけ合って、ついでに死んじまって下せえ、おバカな姉妹さん」
ヤギーの狡猾な笑みが見えました。
「バカはあんたよ、ヤギー!」
私達はターゲットを変更し、ヤギーに向かいました。
「えっ?」
気がついた時はもう手遅れですわ。
「食らいなさい!」
「ダブルラリアート!」
私とユカリンの嘗ての必殺技が、ヤギーの首に炸裂しました。
「グゲゲーッ!」
ヤギーはまさしく殺される山羊のような悲鳴をあげて、倒れました。
「カオリン」
「ユカリン」
私達は、何十年かぶりにガッチリと握手をしました。
「仲間を助けに行かないとね」
「そうですわね」
そして、勇者様の元へと走ります。
僕は誰かが近づいて来るのを感じた。
「勇者様ー!」
リクとノーナだ。それに何故かあの怪力娘、ユーマもいる。
「樹里様は?」
リクが尋ねた。
「樹里ちゃんはカジューと一緒だよ。今頃戦っているよ」
僕がそう言った時、リクはコンラに気づいて見とれていた。
「おおっ! 別嬪さんだなや」
「リクさん!」
ノーナが怒ってリクの目を塞いだ。
「勇者様もエッチねん。こんなところにいるなんて」
ユーマが顔を赤らめて言った。僕は慌てて、
「ち、違うって!」
と否定した。
「勇者様!」
カオリンと、何とユカリンも現れた。
「ここに来て、仲間が増えたな」
「はい」
僕は一人一人を見て、
「みんなで、樹里ちゃんを助けに行くぞ」
「おーっ!」
意気軒昂だ。ところが、
「でも、樹里様はどこにいらっしゃいますの?」
カオリンのその言葉に、アッとなる僕だった。