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どうして泣く

作者: 大橋 秀人

瞬くと、眼を見開いた薄茶色い光彩が瞬間的に収縮して見えた。

教室の開け放たれた窓から春の風がカーテンを打ち払い、長い黒髪をなびかせる。

同窓生は驚きながらも正面から告白を受け止めてくれた。

「ごめんなさい」

返答を拒絶の意志と捉えることがぼくにはできなかった。

なぜならそれが目まぐるしい表情の変化の後に口から漏れ出たものだったから。


ぼくは言葉を探した。

なぜ?

わかった

ありがとう

でも、どれも口を動かさない。


いまだに何かを語りそうな気配を彼女は感じさせていた。

にわかに眉間に皺がよる。

かすかに瞼が潤う。

唇が歯噛みされる。

そして再び口許を緩め、彼女は何かを僕に訴えようとするかのような強い眼差しを送るーーー。

が、同窓生は力なく口をつぐみ、振り返り、うつむいた。


かける言葉を見つけらないまま、ひとしきり強風が教室の中を暴れまわる。

はためくカーテンが何かを急かすように窓を叩いた。

言葉を持たぬまま、想いのまま肩に手をかけようとすると同時に彼女は歩き出した。


スカートの裾を握り、おもむろな歩調から、やがて確固たる足取りに。


引き留めたい気持ちを、もうすでに結果が出てしまっている事実が歯止めをかける。


そうだ、ぼくはフラられたのだ。


ようやく伸ばした手を下ろすと、教室を出ようとする足取りが弱まっているのに気づいた。


揺れる黒髪の隙間から見える横顔は、食い縛るように見えた。

同窓生は教室を出る直前に天をあおぐ。

まるで涙が流れるのを拒むように。


どうして泣く?


ぼくは混乱した。

泣きたいのはこっちなのに。


同窓生はドア枠に手を沿わせ、立ち止まる素振りを見せる。


溢れる疑問を抑えられず、背中を追いかける。

ーーーと同時に、彼女は弾かれるように教室をあとにしたのだった。



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