ドスグロ山を知り尽くした男
時刻は夜九時。
懸命な作業により土砂が取り除かれドスグロ山への道が開く。
これにより通行止めは解除された。
あれから一日が経った。
本来なら今日中にドスグロ山に辿り着けていたはずなのに。
いくら先生の指示とは言え訳が分からない。
「どう思います? 」
「俺に聞かれてもなあ…… 事件が解決するんじゃないか」
いい加減なことを言う。
「それはないですよ。大事件を一度も解決したことのない明後日探偵ですから」
断言する。先生たちの手に掛ればどんな事件も迷宮入りさせられる。
真犯人にとって頼りになる存在。
「そこまで言わなくてもいい。信じてないのか? 」
「ですから信じる信じないではなく今までの実績から不可能だと言ってるんです。
今回のドスグロ山事件は難事件だと聞きましたが」
丁度いい具合に昨夜の男に出会えた。今回のバス旅行の運転手。
「探偵なんだろ? 凄いじゃないか」
彼は探偵について誤解してる。特に先生がどう言う人間か分かってない。
一度だってまともに依頼人の元に辿り着いたことがない稀有な人物。
これが一人なら百歩譲って許せるが相棒と二人で辿り着けないのだ。
これではどうしようもない。笑えると言うか呆れ果てると言うか。
「僕だって最初の頃はそう思っていました。
ですが依頼人の元に辿り着けない者に難事件が解決出来る訳がない。
先生はそのせいで依頼料を棒に振るし逆に損害賠償を請求されることも度々。
その時は我々の力ではどうにもなりませんから大家さんの財力でカバーします」
「大家さん? 」
「はい。我々のような者を受け入れてくれる探偵ビルの大家さん」
「言ってることは分からないけどまあいいや」
「いいですか明後日探偵に幻想を抱くのは危険です」
酔いが回って来た。
「はあ…… それで? 」
合いの手を入れる運転手。
「いいですか? 明後日探偵の目標は依頼人の元に辿り着くことなんですよ?
『探偵はいつか依頼人のいる現場に辿り着くことが出来るか』
こんなふざけた探偵どこにもいませんって」
「それは難儀な。俺には関係ないけどね」
「ああ済みません。僕だけ話す形になってしまって」
「いや強烈なエピソードを聞いてると飽きないから。続けて続けて」
「聞いてる分にはいいですよ。でも実際関わると地獄」
またしても余計なことを。あまり自分のことを話したがらないものだから。
ついつい愚痴をこぼしてしまう。
「そうだ。あなたも迷ったりやられたりしたことは? 」
「うーん。俺はないけど息子だったら女に騙されたな」
「綺麗な人? 」
「ああ俺もつい先日実際に会ったからよく分かる。あれは騙されちまうわ」
「それで泣きついてきた? 」
「いや自分で後始末を着けたよ。今どこにいるやら」
そう言うと寂しそうに上を見上げる。
「女は怖いですね」
「ははは…… そうだな。俺もそう思う」
「ああ事件事件! 情けない先生の為にもご協力ください」
「被害者は確か四人。誰かまではちょっと…… 」
さすがに詳しい情報がなければ無理か。
「お客について気になることは? 」
「うーん。別によくいる観光客さ。俺も立場があるから悪く言えない」
「何でもいいのでお願いします。この通り」
頭を下げ必死に粘る。
「分かったよ。言える範囲でな。目つきの悪いのが何人かいたな。
それからこの旅には珍しい若くて綺麗な姉ちゃんがいたな。彼女はたぶん…… 」
「もうそればっかり! 」
「いや気になって気になって仕方がない。あれは男が放っておかないよ。
君なんかイチコロ。尻の毛までむしり取られるさ。気をつけな」
「それはもういいですって! 」
「だったらうちのガイドはどうだい? 若くて可愛くて俺にも優しい」
「だからそうじゃなくて。事件に関係することを教えてください」
「と言っても詳細が分からないとどうにも」
「誰も覚えてないんですか? 頼りないなあ」
「待てよ! ちゃんと十人は把握してる。お客様だぜ」
「では一人ずつ特徴を」
「まず一人目はせっかちな爺さん…… 」
男から情報を得る。
「そうだ。オーナを知りませんか? 」
「オーナーってあのドスグロ山ホテルの? さあな見かけないな。
一度も会ったことがないよ俺は」
「そうですか…… まずい明日早いんだった! 」
早朝にドスグロ山へ行くことに。
「ああもうこんな時間か。よし俺も寝るわ。寝坊するなよ」
こうして男と別れることに。
翌朝。男の運転するバスでドスグロ山を突破する。
目的地はドスグロ山ホテル。
続く




