手の傷
続けて龍牙を呼ぶとなぜか奈良まで着いて来る。
もう二人の関係は公認とは言えくっつき過ぎだろう。
龍牙が情けないのか? 奈良が過保護なのか?
この際二人からまとめて話を聞くのも悪くない。
「それでは二人とも手を見せて頂けませんか? 」
素直に従う。いいコンビだ。
「龍牙さんこれは? 」
「爪が割れてしまいまして。もう年ですかね」
人差し指に絆創膏があった。
「何だよお前もか。俺もつい切り過ぎちまった」
奈良さんも同様に絆創膏。
二人ともお揃いで似た者同士。
取り敢えず龍牙を追及する。
「実は慣れない運動をしまして。サッカーを少々」
どう言うことだ? サッカーで爪が割れる?
「いえキーパーではなくスローインの時に」
「それでいつ頃? 」
「そうですね一週間前に。ははは…… 」
次は奈良の番。
「切り過ぎた? どう言うことですか? 」
爪が割れるのはよく聞くが切り過ぎは珍しい。
「いや…… 気になってつい深爪になるんだよ」
「爪はいつ頃? 」
「昨日。ほら連続殺人で気分が滅入っていたんで気分転換に」
そう言えば全体的に深爪になっている。
「もういいだろ? 」
まあいいか。深爪は嘘みたいではないし。犯人なら隠そうとするだろう。
二人にも怪しい人物を聞く。
「黒木だろ。仲間割れに決まってる」
奈良が主張する。龍牙は頷くのみ。
彼らは犯罪被害者の会のメンバーで繋がりがある。
今回の事件はメンバーの誰かの可能性が高い。
確かに黒木犯人説も捨てがたいがやはり無理がある。
第一にこのバス旅行で決行する意味がない。
大揉めに揉めての突発的な犯行ならこうまで舞台が整ってるのはおかしい。
あまりに出来過ぎ。だがそれさえも黒木の計算だとすればかなりの知能犯。
ただそんな感じにはどうしても見えない。もちろん見た目から判断はできないが。
第二に最初の事件は黒木には不可能だったのではないかと。
山田さんが部屋を開け待つよう言い包められたとしても防犯上閉めるのが一般的。
ミサさんが来た時にノックでもすればいいのだから。
皆に気付かれないように警戒すればそれで済む話。
スリルを求めてまで部屋を開けっぱなしにするものだろうか?
山田さんにとっても黒木にとってもリスクが伴う賭け。
これでは計画的犯行と言うよりも限りなく偶然の運に頼ったものに。
となればもちろん一番怪しいのは……
「最後に一つ。会長に会ったことは? 」
「一回だけ。でもマスクしていたから。男だったのは間違いありません」
仮に会長が犯人だとすれば黒木を除く男四人に絞られる。
これでは真犯人にはまだ遠い。
真相に辿り着けるか不安になって来る。
続けてマジシャンを呼ぶ。
「どうしました探偵さん? マジックでしたらお見せできませんよ」
「あなたも犯罪被害者の会のメンバーとは驚きです」
一番騙されそうにないタイプでどちらかと言えば騙す方。
「別に隠すつもりはなかったんです。ただ事件が起きてはそうもいかない。
だからこそなるべく探偵さんに協力しようと私の知り得た情報を渡したのです」
彼が言ってるのは客室の鍵の隠された真実。
まさか我々の鍵でガイドさんたちの部屋が開くなんて夢にも思わなかった。
確かに大発見だがこれならその内自分の力でも辿り着いただろう。
前置きはこれくらいでいい。
「手を見せてくれませんか? 」
「申し訳ない。マジシャンたるもの手のひらを見せてはならないのです」
そう言われたら無理強いは出来ない。
捜査とは言え警察ではないのだから。
警察だとしても任意では難しいだろう。
彼はいつもこんな言い訳ばかりしている。
手が見せられないのでは疑惑が一層深まることになる。
「犯人ですか? そうですね。以外にも探偵さんあなただったりして」
これは真面目に答えてないな。
まさか真犯人の正体に気付いてその上で庇っているのか。
「分かりました。最後にここのオーナーについてご存じありませんか? 」
「さあねえ。会ったこともないからさ。ごめんね」
これはどっちだ?
マジシャンはやはり一筋縄では行かない。ロクに情報を寄越さない。
今のところ全員怪しい。
ガイドさんは最近包丁で手を切ったと言うがタイミングが良すぎる。
田中さんもアカギレは心配だが状態が酷かった。
こんなになるまで放っておくだろうか?
龍牙はサッカーで痛めたと。嘘にしても野球やゴルフを理由にする方が自然。
奈良は深爪でごまかしてる?
マジシャンは問題外。
いや待てよ…… 肝心の小駒さんを調べてなかった。
小駒さん自身がダイイングメッセージを残した可能性も。
とにかく今のところ誰一人怪しくない者はいない。
続く




