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恨み

食堂はかつてないほどの熱気に包まれている。

黒木が詐欺グループの首謀者だと告白したにも関わらず撤回する暴挙。

招待客のほとんどが犯罪被害者の会のメンバーで彼を目の敵にしている。

恨みを持った複数の被害者相手に黒木は一人で戦わなければならない。

自業自得とは言え大変不利で危険な状況。

これ以上黒木を追及すれば暴発しかねない。

そもそも連続殺人が起きてる現場。皆冷静でなどいられない。

仲間を失った今の黒木に立ち向かえるだけの力が残されているだろうか?

探偵である我々はただじっと様子を見守るしかない。

今回のことで黒木が袋叩きに遭おうがどうなろうが口を出さないつもりだ。

もちろんつもりなだけ。本気じゃない。


「あんたはどうだい? 」

小駒さんは黒木の隣にいる山田さんに話しかける。

「申し訳ありません。ただの観光客ですからどうもその辺のことは詳しくなくて」

恐縮するばかりではっきりしない。

山田さんは唯一の部外者と言うことになってるがそれも本人の証言のみ。

殺されたのが詐欺グループなら会の関係者と不用意に名乗れば疑われるだけ。

私が山田さんの立場なら敢えて告白しないだろう。


「もう他人の振りするのは止めた。副会長はこの人知ってるの? 」

龍牙に振る。小駒さんは取り繕うのは面倒とばかりに龍牙と話しだす。

「いえたぶん会にはいなかったかと思います」

「確かかい? 」

「はい…… あれどうだったかな…… 」

龍牙によれば山田さんはメンバーではないとのこと。

「そんなことはどっちでもいいよ。怪しいのはこいつだ! 」

黒木犯人説を支持する。


「婆さんだと思って優しくしてやったら調子に乗りやがって! 」

沸々と燃え上がる炎。ついに限界を超えた手負いの黒木。

彼が暴れては誰も止めることは出来ない。

「うるさいよ! お前がやったんだ! 」

もう後には引けなくなったのか小駒さんは喧嘩腰。

火に油を注ぐスタイル。私には決して真似できない。

冷静にと山田さんとガイドさんが呼びかけるが意味をなさない。

私は最後まで見守ることに。

もちろん最悪の展開になる前にどうにか止めるつもりだが。

あーあせっかくの話し合いの場がまったく…… 

小駒さんに後を任せたのに自分から黒木を挑発するんだから。


「ではそろそろ立場を鮮明にしてもらいましょうか」

相棒が笑顔で迫る。

「はあ何を言ってるんだこのでくの坊は? 」

「お婆さんそれ以上の侮辱は許しませんよ」

いつものほほんとしてる相棒が真剣な表情で小駒さんに注意を与える。

やはり相棒はいつもと違う。まるで探偵のようだ。

この絶望的な雰囲気が人々を狂気に駆り立てて相棒さえも狂わせているのだろう。


「立場ってのは何だい兄ちゃん? 」

黒木が薄ら笑いを浮かべる。

「その…… 僕はこれ以上無理」

勝手にバトンを渡される。

「そうするとお前は何か知ってるな? 」

相棒に迫る。

「ごめん。日記の最初だけだよ」

言い訳をするが私に言っても仕方がない。

「ちょっとあんたまさか人の部屋に入って漁ったね? 」

勘のいい小駒さんの追及に相棒も防戦一方。

「だから最初だけだって。とっても言えないけどね」

相棒はどうにか踏みとどまった。

もし小駒さんが犯人或いは共犯者でなかった場合はただの盗み読み。

プライバシーの侵害になる。それどころか窃盗罪にまでなる。


「いいよ別に。財産の半分を取られた恨みを書き連ねただけだからね。

私は何も悪いことしちゃいない。やったのはこいつさ! 」

再び黒木を指さす。

もうその目はただの恨みなどではなく怨念が宿っている。


「お前らに騙され奪われた者の恨みを晴らしてやる! 」

そう言うと黒木を目がけて光るものを投げつける。

「うわああ! 何だこの婆さん? 」

大慌ての黒木は相棒の後に回り込み頭を抱え震えてる。

まさかそんな情けない奴なのか?

光るものを取り上げるとそれは何とナイフではなくスプーンだった。

キッチンから拝借したのだろう。


「いいかい。こんなものじゃないよ。私たちの恨みはでっかいんだからね! 」

「まあまあ」

興奮状態の小駒さんを宥める。

「うるさい若造が! こいつを捕まえな! 」

無茶ばかり言う。


相棒がかき回したせいで最悪な雰囲気に。

さあこれからどうしようかな?


                  続く

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