優秀な助手
「では皆さんは大人しく自室で待機していてください」
「言われなくても分かってるよ! 」
お婆さんはご立腹。他の者はただ怯えてるよう。随分と顔色が悪そう。
第四の事件は起きた。
事件が起きたと言うことは真犯人が必ずいる。
警察が来るまでに真相に辿り着く必要がある。
ふう…… まったくどうなってるのだろうか?
いくら最善を尽くしてもその上を行く真犯人。
まるですべてを見透かされているような動きを見るとこっちも下手に動けない。
出来たら皆食堂で大人しくしていてもらいたい。
事件が起きるのは夜。とは言え昼間が百パーセント安全とは言えない。
だが強制はもちろんできない。お婆さんなど自分は大丈夫と言って好き勝手する。
他の者も部屋に戻ってしまった。
一応は一人で行動するなと注意した。最低限のことは各自でやって欲しい。
その上で探偵として的確なアドバイスをするのが本来の役割。
今食堂にはガイドさんが一人。要するに二人っきりだ。
嬉しいような嬉しくないような。
これがただのバス旅行なら願ってもない状況なのだが。
ガイドさんは天然なのか責任感が強過ぎるのか? あまりにも不運なだけなのか?
あれほど一人で行動するなと言っても必ず第一発見者になってしまう。
事件を嗅ぎつける特殊な能力の持ち主とも言えなくもないが。
うーん。とは言え容疑者の一人。しかもマジシャンの見立てではかなり疑わしい。
他の者に出来ずに彼女のみが出来ることが多すぎるのが誤解のもと。
料理人の田中さんにもそれは当てはまるがお客の世話はガイドである彼女の役目。
とは言え疑わしいのも頷ける。私は疑ってはいないが理解はできる。
もし何か重大な秘密があるなら素直に白状して欲しい。
うーんただのバスガイド? 最重要容疑者?
ブツブツ
ブツブツ
「どうしたんですか探偵さん? 」
彼女のことで悩んでいるとも知らずに逆に心配する可愛らしいガイドさん。
どうやら知らないうちに独り言を。これは気を付けなければ。
「協力してくれないか? 」
今まではお世話係として接してくれた。その彼女が疑われてる。
まあ四度も第一発見者になれば嫌でも疑われる。それは当然のこと。
何一つおかしいことではない。
「でも探偵さん…… 私…… 」
自分に振り掛った災難により自信を失っているガイドさん。
もう自分が信じられないのだろう。
私だって自分が信じられない時がある。
特に依頼人の指定したのと違う明後日の場所に辿り着いた時の絶望感ったらない。
あれはいつも自分に任せておけば大丈夫とよく分からない自信の相棒のせい。
奴の戯言を真に受けて行動してしまうから起こること。
間抜けにもほどがあるがその日その時は自信満々の相棒だから始末が悪い。
いつものこととは言え見抜けずについて行ってしまう。そして必ず後悔する。
いつだってそう。今回はまだいい方だ。隣の山なのだから。
結構近くで戻ることも挽回するチャンスもある。
おっと自分のことはどうでもいい。
今自信を喪失している彼女の力になってやりたい。
それが偽らざる私の気持ち。これはもはや愛と言ってもいいだろう。
彼女に対する愛が形成されていく。果たして彼女はどう考えてるのか?
大胆に迫ってきたりもしたが気持ちまでは捉えきれていない。
ただ事件が解決した暁には気持ちを伝えようと思っている。
もちろん真犯人ではないことが絶対条件。それは我々も。
それから被害者にならないことも大事。
それにしても助手はしっかりやってるかな?
今回の薄曇り山の相続争いが事件に発展しても分かりやすい比較的簡単な事件。
まだ解決していないとしても難航することはないだろう。
もうこの際だから助手にこっちに来てもらって解決してもらえると助かる。
我が助手ながらかなり優秀で私の手を煩わせずにスピード解決することが多い。
いくら助手でもここまで助けてもらえるのも珍しい。
持つべきは優秀な助手。
その彼を持ってしても相棒をコントロールするのは不可能。
何の前触れもなくトンチンカンな行動に出る。
決して馬鹿ではないはずだがどうしても足を引っ張ってしまう。
助手に言わせると私も似たようなものだと断言する。
だがすべて相棒に任せたのが原因。任せたばかりに迷宮入りしたこともある。
いや有り得ないか。相棒は極端な方向音痴。
左に行こうとすると右に曲がる癖がある。
おっとまたどうでもいいことを。
ガイドさんの気持ちを汲んであげるべきだ。
ここで私まで彼女を疑ってしまえば取り返しのつかないことに。
今は信じるしかない。
「私はあなたを信用しています。ですからあなたも信用してください」
ガイドさんが疑われるのは真犯人の筋書き通り。
私は彼女を信じることで対抗するつもり。
「それでは初めからゆっくり振り返ってみましょう」
続く




