トラブル
黒木は真犯人か? 被害者か?
このままだと小駒さんの唱えた黒木犯人説が有力に。別に奴が犯人でも構わない。
結果ただの仲間割れだったと。しかもこの後は誰も殺されることは無い訳だから。
そうであって欲しいと願ってるのは実は捜査をする側である。
単純な動機ともう事件は終わったと言う安心感がある。または解放感か?
ただそうやって油断すれば最後のターゲットである黒木が撲殺体で転がることに。
人間は動機にしろ密室にしろアリバイにしろ簡単な方に簡単な方に流れがち。
難しければ難しいほど拒否反応を示す弱い生物である。
とにかく一つでも多くその他の可能性を探るのが探偵としての使命。
「山田さんはどう思いますか? 」
先程から一言も発さない。皆が興奮し犯人探しに躍起になってる中で一人冷静。
輪の中に加わらず後ろから様子を窺っている。頼もしいと言うよりも怪しい。
「私には誰が犯人か見当もつきません。ここは警察に任せましょう」
投げやりな態度には覇気が感じられない。
皆と違って真犯人に興味がないのだろうか?
そんな人だっているのかもしれない。ただあまりに落ち着いていて不気味だ。
「山田さんはこの一連の事件は解決したとお思いですか? 」
彼の見解がどうしても聞いてみたい。犯人探しに無理矢理引きずり込む。
「どうでしょう。まだ黒木さんが残ってますからね。
終わったとも言えるしまだ続くかもしれません。真犯人のみぞ知るって奴ですね」
満足そうに笑う。場違いの笑顔に寒気がする。今は笑っていい時ではないはずだ。
「ではまだ続くかもしれないと? 」
「だから知りませんって。真犯人を探すのは探偵さんの役目でしょう。
黒木さんが部屋から出てこないようでは物理的に不可能なのでは? 」
そんな分かり切ったことを聞きたいのではない。真犯人が誰かを聞きたいのだ。
最後のターゲットと思われる黒木が籠城して姿を見せない。
これも犯人の手の内だとすれば黒木の命も風前の灯だろう。
本来鍵の掛る部屋で大人しくしてるのが賢明。
ただその一番安全な部屋が実は一番危険。すべて密室を通り抜けての犯行。
やはり全員が一か所に集まるのが一番だが。賛同を得られていない。
「あの…… 黒木さんはどうでした? 」
「それが警察が来るまで一歩も外に出ないと」
様子を見に行った料理人が答える。
「ははは…… 馬鹿だね。警察が来たら奴はお終いじゃないか。
どれだけ罪を犯したと思ってるんだい。お縄になるつもりかい? 」
興奮したお婆さんがつい口を滑らす。
「どれだけの罪? それはどう言う意味ですか? 」
逃しはしない。発言一つ一つに耳を傾け行動にも目を光らせる。
「いや…… ほら何だい…… 」
マジシャンも龍牙も奈良も慌ててお婆さんを宥めるが時遅し。
「だって奴は今回だって詐欺を働いたよ。今までのを含めれば懲役は免れないよ。
警察も甘くないからね。ははは! 」
お婆さんは勝ち誇ったように大声を上げて笑う。
それを制止することもせずただ見守る面々。
黒木犯人説がいつの間にか定着してしまった。
お婆さんが無理矢理嵌め込んだ形。
「分かりました。貴重な意見を聞かせてもらい大変参考になりました」
取り敢えず一旦打ち切る。
後はガイドさんからも話を聞く必要があるだろう。
その肝心のガイドさんがようやく戻って来た。
息を切らし何か喚いているが良く聞こえない。
「駄目です」
ただそう言うだけで何がどう駄目なのか?
「落ち着いてガイドさん。何があったんです? 」
早口でまくし立てるので肝心なところが聞き取れない。
「警察の方が来れないそうです」
「どういう意味? 」
「それがまた土砂崩れが発生し道を塞いでしまったようです。
取り除き次第向かうとのことで到着がいつになるか読めないと」
ここに来てまたトラブル。遅れに遅れた救出作戦はどうなってしまうのか?
時刻は朝八時。
「冗談じゃない! 」
震えた龍牙が騒ぎ始めると奈良も同調する。
混乱状態。どうにもならない。
「落ち着いて龍牙さん! ほら皆さんもどうか落ち着いてください。
いいじゃないですか。真犯人を暴くには丁度いい。プラス思考で行きましょう」
再び起きた殺人。誰であろうと探偵として真実を暴き真犯人を見つける使命が。
必ず犯人を捕まえるんだ。それが被害者の無念を晴らすことになる。
被害者がそれほどの人間かは別として。
私にとっても真犯人にとっても残すは今夜だけ。
決着の時が迫る。
続く




