甘ったるいコーヒー
三〇九号室。千田の部屋。
午後五時にガイドさんの大胆なモーニングサービスで目が覚める。
ラッキー! まるで夢のような時間。
もっとイチャイチャしたかったがそうもいかないらしい。
せっかくいい雰囲気だったのに。千田が騒ぐものだから。
どうやら恐怖と罪悪感から自分を失いつつある。
自業自得だがこれで事件解決に近づくかもしれない。
さあ今がチャンス。落ち着かせて慎重に話を聞く。
元々一人一人話を聞くつもりだったが被害者候補の口が堅く真相に迫れずにいた。
果たして核心に迫れるか?
「落ち着いてください千田さん。今コーヒーを淹れますんで」
インスタントコーヒーを二人分用意。
こんな時は猫舌が恨めしく思う。
息を吹きかけ熱を冷ます。どうにか一口。
そうするとコーヒーの香りが鼻をつく。
「どうです。少し落ち着きましたか? 」
「はい…… いい気分だ」
震えた声を隠せずに必死に強がる。
「うわああ…… 変な味がする。何だこれ? 」
「済みません。砂糖の量を間違えたみたいですね。ははは…… 」
ついいつもの癖で砂糖を入れ過ぎて甘ったるくなったコーヒーのようなもの。
このタイプは本来一個で充分甘いのに三つも入れてしまい甘ったるくて吐きそう。
だがさすがに飲まない訳にも行かないので我慢して飲み干すが後味は最悪。
「まさか毒が入ってる? うわああ…… 嫌だ。俺は悪くない! 悪くない! 」
酷い言われよう。ただの失敗作じゃないか。
それなのに泣き喚く被害者候補の千田。
明らかに異常。何かを隠している。それが何なのか分かれば苦労しないが。
辛抱強く話を聞く必要が。ただ慎重に言葉を選ばなければ口を閉ざすだろう。
これは一つの賭けでもある。強く訴えかけ優しく聞いてやり先を促す。
「どうしました千田さん。何か心当たりがあるのでは? 」
「ははは…… 何のことだか」
まだ熱いと言うのに流し込もうとして舌をやけどする千田。
「落ち着いて千田さん。何でもいいから話してください」
動機。なぜ恨まれているのかを聞きだすが一向に要領を得ない。
「えっと…… その…… 原因はたぶん…… 」
まだ心の準備が出来てないらしい。
「ほらゆっくりでいいですから。まずは深呼吸」
大人しく従う千田。
「もう大丈夫。だが俺さ本当に心当たり無いんだよな。黒木さんは知らないけど」
この状況でも言い逃れようとする。時間がないと言うのにもう面倒臭い。
だったら無理にでも吐いてもらうしかないか。
「犠牲者は今朝で三名に。あなた方は一体何をしたんですか?
恨まれるような何かをしてるはずだ! 思い出せませんか千田さん? 」
プレッシャーをかけ続ける。
「実はその…… うるさいほっといてくれ! 」
もう少しで自白するところだったのにまだ粘る。本当に現状を理解してるのか?
今告白しなければ秘密が明るみにならない代わりに命を落とすことになる。
それは四人目の犠牲者と言うことになる。本当にそれでいいのか?
再びの惨劇だけは何としても阻止しなくてはならない。探偵のプライドに賭けて。
ここはもっと強く迫るしかなさそうだ。
「千田さん。もう時間がない! あなた方がなぜ狙われるか正直に話してくれ。
そうでなければこっちも協力のしようがない」
「探偵さん…… 」
「千田さん! 千田さんお願いだ! 」
「分かったよ」
頑なに拒む千田の心を開く。
「ではなぜあなた方が狙われているのかお聞かせ願います」
「ああ。だが絶対秘密だからな。いいな? 」
「他言無用ですね。それは心得てます。探偵として当然ですよ」
何度か確認をして話し始める千田。
「俺たちは数年前に壺の販売していたんだ」
「壺ですか? ああ凶器の壺? だからあんなに皆さん震えていたんですね」
「うるせい! 俺だって詐欺をしたくてしたんじゃない! 」
言い訳を始める千田。だがそれは無理がある。
積極的に関わった以上は言い逃れも人のせいにもできない。
それに未だ更生もせずまだ詐欺まがいのジュエリーを売りつけている。
こんなことをまだ続けているなら世話ないさ。
続く




