恐怖
約束の時刻を過ぎてもバスが迎えに来ることはなかった。
残念だがこの天気では仕方ない。
土砂崩れによる通行止めがいつ解除されることか。
そんな最悪の状況でガイドが問い詰められ白状してしまう。
「ふざけるな! 」
「落ち着いてください」
従業員の二人が外に出ようとする客を必死に抑える。
「落ち着いてられるか! 俺は帰るんだからな」
黒木が吠える。
「そうだ! そうだ! 」
若い販売員の男と鑑定士も続く。
「俺たちも! 」
そう言って奈良と龍牙も騒ぎ始めた。
帰りのバスも来ず警察も当てにならない今、自力で脱出しようと考える者も。
「外は雷雨で視界が悪く今出ては危険です」
必死に説得する従業員。
「分かってるさ。だがここにいればもっと危険だ」
暴動は収まりそうにない。
「いい加減にしないかあんたら! 」
お婆さんが一喝。
「そうですよ。ここは私のショーでも見て寛ぎください」
マジシャンはマイペースだ。
「あんたも何か言ったらどうだい木偶の坊! 」
「ううう…… 」
「無理なら探偵さんを連れてきな」
ドンドン
ドンドン
まるで強盗。
私を呼ぶ声がする。
「探偵さん来てください! お願いします! 」
外はもう真っ暗。
ふて寝したら夜になったらしい。
腹も減ったしそろそろ起きるかな。
「もううるさいな。勘弁してよ」
「探偵さんお願いします。皆さんを説得してください」
ガイドに手を掴まれる。
「ええ…… ちょっと…… 」
強引な展開。
興奮状態の客が騒ぎ出していた。
「どうしたんですか皆さん? 」
「バスが来ないんだ。ここでじっとなどしてられない」
案の定騒ぎを起こしてるのは黒木と販売員の男。それと眼鏡の男。
それに釣られて鑑定士も。
なぜか相棒が転がっている。
「ちょっと何をやってるんだいあんたら! 」
お婆さんが喚きだした。
もう何が何やら。
「探偵さん! 」
お婆さんが叫ぶと皆こちらに視線を送る。
注目されるのは悪くない。
「ええと皆さんお帰りですか? 」
「うるせい! 舐めてるのかてめえは? 」
黒木が凄む。本性を現したようだ。
「あの土砂崩れで道が塞がってるんです。ここにいた方が生き残る確率高いかと。
ああ、恨まれる心当たりのある方は逃げてください。確率は五分五分ですから」
犯人を炙り出すのは難しいが被害者候補は絞られる。
大体態度で分かる。
しかしなぜそこまで心当たりがあるのか不思議。
相当後ろ暗いことがあるのだろう。
殺されるほどの悪行。まあさほど興味はないが。
「くそ俺はもう籠る! 誰も信じない! 」
販売員の男が走り出す。
それを追いかけるように黒木が続く。
他の者も続こうとするので止める。
「待ってください皆さん! ここで一晩明かすのはいかがでしょう」
とりあえずインパクトのある提案で釘付けにする。
「ふざけないでくれ! 殺人鬼と過ごせと言うんですか? 」
龍牙が震えた声を出す。
臆病なのは理解するが他の者にまでうつる恐れがある。
それだけはご遠慮願いたい。出来るだけ平静を保って欲しい。
集団でパニックにでもなったら死人が出るぞ。
これはまだ感覚でしかないがそうなるのも近い。時間の問題だ。
それにこれ以上犠牲者を出せない。皆の心が壊れてしまう。
恐れていることが現実に?
「いいでしょう。しっかり鍵を掛けてください皆さん。
特に恨みを買った覚えのある方はぜひ。順番に狙われるのは間違いないですから」
「へへへ…… そうだよ。私は関係ないさ」
鑑定士は冷静さを装ってるが血の気がない。
ストレスと恐怖にさらされているのかすぐにでも治療が必要なレベル。
「ちょっと鑑定士さん大丈夫ですか? 体調が優れないようですが」
手を差し伸べるが振り払って行ってしまった。
生き残る最後のチャンスを自分で台無しにする。
愚かなことを。愚かすぎる。
洗いざらい吐けば生き残れたかもしれないのに。
もはやこの状況では誰も驚きはしないだろう。
彼らが過去においてどのような所業を行ったのか?
秘密は墓場まで持って行くつもりだろうがそれでもどうにか説得し協力を得ねば。
悪党の皆さん全力で逃げ切ってくださいね。
墓場がそう遠くないことを願うばかり。
続く




