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ジキルとハイド

続いて謎の男。

ど派手なシルクハットにマントの西洋人風の見た目。

インパクトは絶大。ただ格好良いかと言うとそうでもない。

足は短く身長も標準。

素顔はメイクでまったく分からなくなっている。

一応は男としてるがメイクで隠れてるのだから女の可能性もある。

まあ体格は男のようだが。


「あなたは一体? 」

「俺はマジシャン。お金を払えばどんなマジックでもお見せしますよ。

イッツ・イリュージョン」

そう言うとカードを取り出す。

マジシャンの小道具の一つ。

取り敢えず拍手を送る。これが礼儀と言うものだろう。


挨拶代わりのマジックを始める。

カードマジック。

トランプをドクロのマークの方を上にして並べる。

マジシャンだけありさすがの手さばきだ。

「どうぞ」

一枚取るように言われたので真ん中辺りを抜く。

「それでいいですね? 」

ハートのエースを確認。それを見せないように中に戻す。

そして男は十回切って束から一枚のカードを選ぶ。

「イリュージョン」

めくると見事にハートのエースが。

初歩の初歩のトリックだそうだ。

心理トリックらしく見抜けるかでその人の能力が測れるとか。


「いや…… ちっとも分からない。どうやったんですか? 」

「ははは…… 早くも降参ですか? ではカードをめくって見てください」

相棒が雑にすべてをひっくり返す。

「何だこれ? 」

全部がスペードのエースだった。

やられた。

最初に確認しなかった。だから普通にあると思ってしまった。

これこそ心理トリック。


「ははは…… 面白いだろ? 」

「あのハトは? 旗なんかは出せますか? 」

つい嵌ってしまう。

「いやいや準備なしには出せない。そもそも持ってきてないよ」


マジシャンが一名。彼の目的は?

明らかに異質な存在。相棒レベルで異質だ。

「あの…… どこにいました? 」

見かけた記憶がない。まさか途中から参加した訳でもないし。

「ははは…… いつもは軽く変装してます。記憶にありませんか? 」

「うん…… たぶん…… 」

該当人物に心当たりがある。ただ恐ろしく存在感がなかったような。

「仕方ありませんよ。何しろ目立たないように存在感を消してましたからね」


「それで本名は? 」

「申し訳ない。教えられないのです」

職業上の秘密らしい。粘っても無駄のようだ。

「では素顔を」

「それも断る。マジシャンにとって素顔を晒すのはご法度」

相手のペースに。言い包められてしまう。

「では何も答えられないと」

「いや犯人なら教えてあげられるよ」

「まさか目撃したんですか? 」


期待が高まる。何と言っても私は明後日探偵。

きちんと解決できたのは実は一度きり。

もちろん難事件などではなく至って初歩的なトリックだった。

それも運よく犯人が自供しただけに過ぎない。

助手を雇うようになってからロクに推理も出来てない。

助手が優秀だと事件が早く解決する代わりに探偵としての能力が下がる一方。


「目撃はしてない。だが一人しかいないじゃないか」

マジシャンならではの目のつけどころ。

「ええっ? 誰? 誰ですか? 」

「犯人はお前だ! 」

「えええ? 私? この明後日探偵だと言うのですか? 」

驚愕の真実。記憶にない。

まるで政治家のような知能。

これではこの先探偵として本当にやっていけるのか不安になる。

「まさか寝てる間に? 」

「ははは…… 冗談冗談。ジキルとハイドでもあるまいし」

「ちょっとふざけないでくださいよ」

もうこれはお遊びではない。

マジックでもなければイリュージョンでもない。

現実の事件。被害者は二人にも。

しかも私たちは閉じ込められている。そんな呑気な場合じゃない。

この状況でよく冗談が言えるものだ。


「まあ今のは前置きだ。ここからが本番さ」

彼は何かを掴んでるらしい。

「今ここに部屋の鍵がある」

またマジックでもする気か?

「これで自分の部屋は開けられるね? 」

「当然でしょう。何を言ってるんですか? 」

「だったらこの鍵で隣の部屋が開けられると言ったらどうでしょう? 」

「出来る訳がない。それは不可能だ! 」

何も難しいことはない。種も仕掛けもなければ開けられるはずがないんだ。

「実験してみるかい? 協力するよ」

「はいはい。分かりました。ではお引き取り下さい」

これ以上戯言に付き合ってられない。

混乱するだけ。余計な情報は事件を複雑化するだけで解決には遠回り。


「本当なの? 」

相棒は関心を示すが嘘に決まってる。

「嘘は言わない。興味があったらいつでもどうぞ」

相棒とマジシャン。

似た者同士の困った存在。


                 続く

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