秘密厳守
お昼はサンドイッチ。
出来たら温かいものを食べたかったが料理人も忙しい。文句は言えない。
それに二人も殺害されたショックで食欲もないと来れば仕方がないか。
「大丈夫ですよ。もう三時間もすれば迎えのバスがやって来ます。
皆で体を寄せ合えば怖くありません」
震える者に手を差し伸べる。
私としては出来ればガイドさんと抱き合っていたいが。まさかね……
おっと危ない危ない。妄想と現実の区別がつかなくなる前に捜査に戻る。
トップバッターはメガネの相方。
「お名前をどうぞ」
「関東から参りました奈良です」
まあ多少の矛盾は放置しよう。ふざけてる訳でもないので。
「奈良さんはあの龍牙さんと仲良しだとか」
「そんなんじゃありませんよ。ただ放っておけなくて。
あの人ぼうっとしてるって言うかトイレから出て来てもなぜか笑ってるんですよ。
もう危なっかしいったらありません。化け物見た自慢したかと思えば震えてるし」
龍牙の異常ぶりを詳細に語る。どうも奈良は世話好きらしい。
「ご兄弟は? 」
「二つ違いの兄が一人」
どうやら龍牙をその兄と重ね合わせてるのだろう。
「二人は前からの知り合いですか? 」
「うん…… このバス旅で」
若干の間があった。何か隠しごとでもある?
「それで奈良さんはここに何しに来たんですか? 」
「もちろん目的地にたどり着くためさ。俺たちはゴールを目指してる」
急に哲学的な話をし始めた。難関過ぎて理解できない。
まさか私の追及を逃れるための作戦? ただ怪しまれるだけだと思うが。
「被害者二人との関係は? 」
「さあ我々はただバス旅をしてるだけ」
我々とは龍牙さんのこと? まったく話がかみ合わない。
「何か気になった点は? 」
「そうだな。絵かな。狼が睨みつけるみたいで怖い」
「狼の絵が飾られていると」
「ああ、あのおっさんも言ってたよ。ケルベロスだって魔犬だって騒いでた」
龍牙さんは犬の絵に恐怖を感じあんなに震えていたのか。
「ではそれから疑わしい人物を見たとか気になったとかありますか? 」
「よくあの姉ちゃんの部屋に黒木って奴が出入りしてたっけ。それくらいかな。
ああそれと鑑定士も販売員も部屋に入っていくとこを見たな」
どうやら人の出入りが気になるらしい。
ストーカー気質? これは要注意人物だ。
「それで嫉妬して? 」
「冗談でしょう。俺はただ気になっただけだ」
まあいいか。貴重な目撃談。メモをしておこう。
「誰が犯人だと思う? 」
相棒が直球の質問。
「それは…… あの黒木じゃないのか。知らないけど」
最後の質問にもきっちり答えてくれた。
続いて若い販売員の男。
「名前は? 」
「千田です」
この中で一番若い男。
「被害者たちとはどのような関係でしょうか? 」
「知らないね。見たことも聞いたこともない」
「お仲間だと聞きましたが」
「それがどうした? 俺は関係ないね。いい加減商売の邪魔は止めてくれ」
彼は間違いなくこのおかしなバスツアーの内情を知っている。
そうでなければ売りつけるなど出来はしない。
少なくても鑑定士とグルで悪さをしているに違いない。
ここで白状してもらいたいがまだ言い逃れするつもりらしい。
「あなたはこのツアーを計画しましたね? 」
「知るかよ。俺はただの商売人だ」
シラを切り通そうとする。
いつまで言い逃れできるのか?
その震えた口から早く真実を語らなければ次はあなただ。
「千田さん」
「うるさい! 仲間だって証拠がどこにある? 」
頑なに拒否。まだ尋ねてないのに先回りする周到さ。
ただの間抜けにも見えるが。
「秘密があるんでしょう? 話してください」
説得にかかる。
「ああ行きのバスで吐いちまった。秘密にしようと思ったのによ」
素直にどうでもいい秘密を打ち明ける。
明らかにわざとやっている。
「この際追及しません。だから話してください」
一応は探偵。秘密厳守は当然。
ただ依頼人の秘密のみ厳守。
だから洗いざらい警察にぶちまけるつもり。
犯罪者には厳しい。
「仲間割れも考えられるな。それから…… 」
相棒が揺さぶりをかける。
続く




