尋問
三人目は例の鑑定士さん。
小駒さんの話では鑑定に違和感があるらしい。
偽物はすぐに見抜けても本物は隈なく見回さなければ分からない。
鑑定が異常に早いと指摘。
私も彼女の主張には一理あると思っている。
ただ誰にでも食って掛かる彼女の思い込みとも言えなくもないが。
トラブル気質の小駒さんではいまいち信用できない。
「お名前は? 」
「雑見と申します」
「ざつみですか? 変わった名字で」
「放って置いてください。それで何か? 」
年は来年で五十だと。震えも止らず表情も硬い。何か隠してるのは一目瞭然。
「二人との関係は? 」
「はあ…… 」
沈黙が続く。
どこまで続くのか試してみよう。
十分が経過。
「もう分かりましたよ。二人とは鑑定の仕事を通じて何度か。顔見知り程度です」
粘った甲斐があった。
「顔見知り? では犯行動機アリと? 」
「そんな待ってくださいよ…… 何でそうなるんだよ? 」
「さっきまで震えてましたね? 」
「うるせい! 俺が何を…… 私が何をしたと? 」
今でも足が震えている。それを隠そうと必死。
「あなた最重要容疑者となりますが」
脅してみる。さあどうするかな。
「いい加減にしろ! 仲間を殺す訳ないだろ」
余裕がなくなり己を繕えずに大声を上げる。
本当に分かりやすい人。まだ震えも収まっていない。
「仲間とは? 」
「まあ一、二度一緒にやったんで仲間ですよ。私はそんなに不義理じゃない」
どうも良く分からない。仲間なら殺さないとか。
どちらかと言えば無関係だから殺さないが正しいはず。
「でしたら誰か怪しい方は? 」
「それは決まってる。あのメガネの男。文句を言いに来たことがある。
奴なら二人を恨んでいてもおかしくない」
メガネの男とは誰のことを言ってるのだろう?
まさかあの二人組の気の弱そうな彼のこと?
震える足を懸命に手で押さえる男。
「ではなぜ恨んでるのかお教えください」
「それは…… 三年前…… いや知らん。知るものか! 」
三年前と言うキーワードが出た。
これはきっと三年前に何かあったのだろう。
「その震えも関係があるんですか? 」
「うるさい不愉快だ! もう戻らせてもらう」
話を聞くはずがただ怒らせてしまった。
その気はないのだがどうも勘違いされやすい。
やはり探偵から追及されるのは嫌なものなのだろう。
別に私も無理矢理捜査させられただけで本来なら依頼人の元へ戻りたいのだが。
「明日を迎えられるといいね」
まるで予言するかのように相棒が放つ。
「もうお前らに協力してやるものか! 」
相棒の一言で余計に頑なになってしまった。これはまずい。
「おい言い過ぎだぞ」
「ヘイヘイ」
四人目。
鑑定士からの推薦でメガネの男を呼ぶ。
彼も鑑定士動揺まだ震えている。
「名前を? 」
「龍牙です。よろしくお願いします」
「龍牙? 強そうな名前ですね? 本名ですか? 如く? 」
「ははは…… 良く言われます。もちろん本名です」
名前負けしたメガネの男性。震えは収まりそうにない。
彼には強行下山の時お世話になった。知らない仲じゃない。
「龍牙さんは亡くなった二人とお知り合いですよね」
「黙秘します」
ここに来て面倒臭いのに当たったか。
「いえこれは話を聞くのであって取り調べではありません。話せる範囲でどうぞ」
「黙秘します」
ダメだこれは。それに震え。
うわああ! 震えがこちらにまで伝わってくる。
貧乏ゆすりまで。これは困った。後回しにすべきか?
「そうだ。ドスグロ山の雷人について何か」
「いるんですよ。いやいるものか! あああ…… 」
頭を抱え後ろにのけ反る。もう少しで頭から落ちるところだった。
危ない危ない。何をやってるんだこの人は。
まあ二人も殺されては無理もないか。それに怪物もいると聞かされれば尚更。
「関係あるでいいですよね。ある人から聞いたんですが」
「まったく。我々…… いえ私には身に覚えのないことだ」
まともに答えてはくれない。面倒なのでこれで終了。
「上手い上手い。いい演技だったよ。次も君を使おう」
相棒の嫌味。
「あああ…… 探偵さん。私を信じて」
退場願う。
一旦休憩。残りは午後に回す。
昼を取ることにする。
よく考えればもう何もしなくていいのだ。
午後三時にはバスが迎えに来る。
こうして二泊三日の旅行は終わりを迎えるはずだった……
会員限定の無料バス旅行。
タダより怖いものはない。
ある者は被害者に。
ある者は加害者に。
それ以外は傍観者に。
ただそれも後三時間もすれば解放される。
地獄からの生還が許されるのは誰か?
昼を終え再び話を聞く。
続く




