黒木
「ちょっといいか」
さっきまで震えていた一人が話に加わる。
「あなたは? 」
「俺は黒木。会社を経営している」
第二の被害者と親しくしていたとの情報が。何か知っているかもしれない。
「黒木さん。あなたは被害者とお知り合いですよね」
第二の被害者と関係があるなら第一容疑者と言っても過言ではない。
「ああ数年来の友人だ。仕事仲間って奴だな」
故人への態度からも分かること。
震えているのはあと二人。この中で一番若いであろう販売員と鑑定士のコンビ。
彼らはどうやらこの事件の裏側を知っているらしい。
二人にも後で事情を聞く必要がある。
それにしてももう少し演技してもいいのでは? こっちにとってはやり易いが。
脅迫するのはまずいが少しぐらい大げさに言い速攻で事件解決と行きたい。
取り敢えず黒木だ。
「どうします黒木さん。他の方の目もありますから。離れたところでじっくりと」
一応は気を遣う。これはどう見ても愛する者が亡くなった時に見せる動揺。
ビジネス仲間などと言ってるが深い関係なのは見て取れる。
要するに結婚していなければ恋人。奥さんがいれば不倫だ。
プライバシーに関する問題。
さすがに他人の目にさらすのはまずい。
「ふん。俺には妻も子供もいる。だから確かに彼女は愛人。
そこのところは弁解しない。俺が愛していたのは今も昔も彼女だけ」
今更いくら言っても虚しいだけだが堂々としてるのはいい。捜査がしやすい。
いちいち一個ずつ調べていたらキリがないもんな。
次の殺人が起きる前にどうにか食い止める必要がある。
「年齢をお伺いします」
「へへへ…… 今年で五十五になる。俺の年齢が関係あるのか? 」
愛人が亡くなったショックから自棄になっているのかよく喋る。
これは大変ありがたいが果たして私の求めるものを提供してくれるかは疑問。
「そうすると彼女は三十代…… 」
「二十も三十も離れても俺たちは愛し合っていたのさ。ミサ! 」
激しい後悔から絶叫する男。
第二の被害者の氏名は山田ミサ。被害者を特定できた。
ただ本名か偽名かはまだ。確認を取る必要がある。
本人が偽名を使っていれば捜査は余計な手間を取られることになる。
まあこれは捜査一課。要するに警察の仕事。私たち探偵の領域ではないが。
すみやかに捜査機関に引き渡すのがいいだろう。
「では彼女が恨まれるような動機は? 」
突っ込んだ話を聞く。
「へへへ…… ある訳ないじゃないか探偵さん。信じてくれよ。俺たち……
いや彼女は好意を寄せられることはあってもよ恨まれることは無かったと思うぜ」
歯切れが悪い。自覚をしてるのだろう。
しかし一体彼は何を知っているのだろう?
急がなければ自分が被害者になると言うのに困ったもの。
「そうだ。この男がリサに迫っていた」
黒木は山田なる人物を引っ張って来る。
「そんな…… バスでご一緒しただけでそれ以上でもそれ以下でもありません」
きっぱりと否定する山田さん。
見た目は確かに善良そうに見える。
「彼女が迫って来たんです。それでそう見えただけで」
あくまで自分は拒否したと言うスタンスらしい。
「嘘をつけ! 昨日も一昨日も楽しんだくせに」
黒木は卑猥な言動を繰り返す。
山田さんは顔を真っ赤にして手を振る。それでも無理ならと首を大げさに振る。
どうも事実らしい。昨晩被害者が山田さんと密会していたのは間違いない。
私も偶然目撃してるのだから。
「まあ男女トラブルの末の殺害の可能性が無い訳ではありません。
ただ突発的に起きたとするには無理がある」
「何でだい探偵さん」
お婆さんが合いの手を入れるので助かる。ただ出来れば睨まないで欲しいが。
「これが明らかに連続殺人だからですよ」
「ああそうかい。あの男とは関係ないもんね」
周到に計画された連続殺人が今のところ有力。
ただ繋がっていないただの突発的な殺人と言えなくもない。
鈍器が同じで共に密室。
確率的には連続殺人の可能性が高い。
「この後どうするんだい? 」
全員の目が向く。
うーん。何も考えが浮かばない。
「あんたが案を出さないなら私が仕切るよ」
お婆さんはやる気満々。
だがもちろん彼女も容疑者の一人。
大人しくしてもらう。
「分かりました。とりあえず一人ずつお話を伺います」
順番に私の部屋へ来てもらうことに。
さすがにこうすればもっと情報を得られるだろう。
さっそく一人目。
続く




