アリバイ
『ドスグロ山の雷人伝説』
ガイドさんによって語られた恐ろしい伝説。
その化け物が姿を見せ殺害したと。
「いいですか皆さん。そんな迷信に惑わされてどうするんですか? 」
ギロリと睨む数名の者。それ以外は一様に震えている。
これは一体どう言うことだ?
「若い人は信じないからね。まあいいさ。好きにしな」
お婆さんが釘を刺す。
刺されても困るんですけど。私は探偵なんです。
化け物が人を殺したなら警察も探偵もいらない。
私は超常探偵ではない。それだけはご理解してもらいたいものだ。
「他にはありませんか? 何でも結構です」
「犯人は分かり切ってるじゃないですか」
とんでもないことを言い出した男。随分と若い。
ああ宝石販売員の男。
ルックスも悪くなく大人しくしていればモテそうな男。
ただ欲に忠実なものだから上手く行かずに道を踏み外すタイプ。
こう言う男は犯人と言うよりも恨みを買う被害者側だ。
「そこのガイドさんが一番怪しい! 」
彼もさっきまで震えていた。
いつの間に回復したのだろうか。
「私ですか? そんな酷い。私は皆さんのお世話をしていただけです」
無実を訴えるが確かに一番怪しいのは彼女だ。
そして私のタイプも彼女だ。
たぶん相棒も同様だろう。顔を赤らめていたからすぐに分かる。
「どうして部屋に入ったんですか? 」
昨日同様マスターキーを使い中へ入ったらしい。
昨日の失敗を繰り返す懲りない女性。
「実は頼まれていたんです」
朝起きるとメモが一枚残されていたとのこと。
そこには部屋番号と指定時刻に起こすように書かれていたそう。
「それで起こしに行ってみると案の定まだ寝てるみたいで仕方なく……
保管室にあるマスターキーを使って開けたんです。信じてください」
信じようにも動き過ぎ。慎重にならなくては疑われる。これは当然のこと。
いくらお世話係だとしても…… 真面目なんだろうな。私たちに頼ればいいのに。
せめて二人で中に入れば疑われずに済んだ。
これは改善点だ。次の機会には改善してもらわなければ困る。
まだ起こるの?
「そのメモは? 」
「さあどこにあるのか。捨ててしまいました」
紛失したようだ。あれば依頼されたことが分かり疑いは晴れたかもしれない。
まあモーニングコールみたいなものだし。メモは破って捨てるのがマナーか。
ああ残念だ。追及したくはない。これ以上の追及は彼女の心を壊す。
「分かりました。それで被害者を見つけたと」
「はいそこで悲鳴を上げたので何も触れていません」
素直な彼女。
「以上が第二の事件です。何か気付いた方は? 」
だが誰も反応しない。ただ震えてるだけ。
「あの…… この事件撲殺ですよね。そもそも彼女には無理ではありませんか」
仲間を庇う料理人。
「確かに二人とも撲殺。彼女には難しいでしょう。それは重々承知の上です」
出来ればシロだといいんだけど。
「だったら…… 」
料理人は庇うあまり状況判断が出来ていない。
お客様を疑う気か?
いくら仲間が疑われてるからと言ってそれでは従業員失格では?
「難しいですが不可能ではありません」
「ええっ? 何を言ってるんですか我々女性には難しいのでは? 」
確かに普通の女性には無理。だから二人に加えてお婆さんも無理だろう。
だがやはり不可能ではない。
眠っているところを撲殺することもできる。
睡眠薬が検出されれば裏付けられる。
難しいだけでは無意味だ。
難しく疑われにくいからこそやる価値もある。
それだけではない。何も一人と決まった訳でもない。
二人もあり得るしもっと複数犯の可能性もある。
アリバイと動機から調べて行くのが良いだろう。
これが定石だがどうもそれでは今回の犯人は浮かび上がってこなそう。
「それでは一人ずつ昨日のアリバイを教えてください」
アリバイはものの見事になかった。
招待客は誰一人アリバイがない。
まあ当然寝る時は一人だからな。
例のごとく二人の従業員にはアリバイがあった。
だとすれば料理人は限りなく白に近い。
まずは一人候補から消えたことになる。
ただこれも時間が経つと変わるもので絶対ではない。
絶体は明らかな証拠が揃った時に使うのが良い。
続く




