第六話
「一人二役の精霊王さま」第六話です。
本作は毎週火曜日の更新を目標にしています。
泉から現れた水の精霊は、有沙を見てにっこりと笑い、その場で腰を屈める優雅な挨拶をした。
「初めて御目文字いたします、新しい精霊王様。わたくし、水の精霊ナーイアスでございます」
「あ、どうもー。初めましてー」
二人目とあって、有沙も慣れた口調で挨拶を返した。
「水の精霊さん、お名前は何ていうの?」
「はい。前の精霊王様には、スイレンという名を授けていただきました」
(スイレンかぁ。やっぱり日本人がつける名前だなぁ……)
いよいよ、「先代の精霊王=日本人」説が強まったことを感じながら、有沙は心の中で呟いた。
「スイレン。あなたにも今から、私が新しい名前をあげてもいい?」
「もちろんでございます。光栄にございます」
「じゃあ今日からあなたは、えーと……葵。アオイね!」
「はい、かしこまりました。素敵な名前をつけてくださり、ありがとうございます、精霊王様」
アオイは長い袖口で口元を隠し、はにかんだように微笑んだ。そのたおやかな美しい笑みに、有沙は「はぁあ……」と恍惚のため息をついた。
(ああもう、ここって美形天国だわ……。エマもアオイも美人さんすぎる……。ってか、スイレンって名づけた前精霊王さん、グッジョブ!)
その後、ナーイアスの登場を皮切りに、続々と精霊たちが姿を現した。
ライオンの鬣のような髪と豊かな髭を持ち、筋骨隆々でイケオジな見た目の、火の精霊サラマンドラ。
ショートヘアの銀髪と赤銅色の肌が美しい、キュート系美人な土の精霊、ノーミーデス。
黒いマントを羽織り、黒髪美青年な闇の精霊、レイヴン。
どこからどう見ても女神様、な金髪金眼の光の精霊、ルミナス。
緑色の髪を持ち花のドレスを着た、華やか美人な森の精霊、ドライアド。
筋骨隆々で白金の髪を持つ、マッチョイケメンな雷の精霊、トール。
エマによると、この八人が精霊界の高位にある者たちで、いわば精霊王の側近らしかった。
(ラビサーには登場していない、森の精霊と雷の精霊まで美人とイケメンて……。さすが異世界ファンタジー……)
精霊たちが身に着けているファッションも、そのイメージを壊さない、神秘的で高貴な印象のドレスやギリシャ風の服だった。
ある意味徹底されているオスティアの世界観に感心しつつ、有沙は現れた精霊たちに順に名前をつけていった。
火の精霊はマーカス。土の精霊がフレイヤ。闇の精霊はエドガー。光の精霊がエレノア。森の精霊はオリビア、雷の精霊はローガン。どの名前も地球人時代にメディアで見聞きした、有名人や二次元キャラが元ネタである。
「ありがとうございます、精霊王様。素晴らしい名をつけていただき、感謝の念に堪えません!」
慣れないことをした有沙はぐったりしたが、新しい名を得た精霊たちは大喜びだった。
また忘れっぽい有沙としては、名を授けたはいいが、しばらく会わずにいたら、「この人の名前何だったっけ?」となりそうで、いささか不安だった。のちに、精霊王は記憶力もずば抜けて良いと知るが、この時の有沙はまだ、精霊王という存在の能力についてあまりに無知だった。
「うーん……」
久々に集まって楽しげな精霊たちを眺め、有沙は考えた。
(これがゲームなら、キャラをタップすればステータス画面が現れて、名前以外にもいろいろと情報が見れて、すごく便利なんだけどなー……って、ちょっと待って)
有沙はエマに近づいて、試しに「ステータス、オープン」と唱えてみた。
するとエマの顔のすぐ横に、縦横五〇センチほどの、半透明のパネルが出現した。
「わぁっ、出た!」
それはたしかに、前世でさんざん見たラビサーのステータス画面だった。パネル上には、名前、年齢、種族名、出身地、体力、魔力、使える魔法、スキルに各レベルまでが表示されていた。
ちなみにエマの場合は、『名前:エマ、年齢:不明、種族名:エアリエル(風の精霊)、出身地:オスティア』ときちんと個人データが記されていた。さらに『体力:999999/999999、魔力:999999/999999』と、人類のMAX値より二桁多い数字がカンスト状態で並び、使える魔法とスキルも風属性をフルコンプしており、魔法レベルは当然のように全てMAX値を示していた。
「うっわー……。精霊のステータス画面って今まで見られなかったけど、こんなだったんだー。数字えっぐぅ……」
しかし、この画面が見られるのは精霊王だけの特殊能力で、何もない空間を見つめながら有沙が一人でブツブツぼやくのを、他の精霊たちはポカンとした顔で眺めていた。
「あの、精霊王様……。先ほどからいったい、何をご覧になっていらっしゃるのですか?」
皆を代表して、エマが訊ねる。
「あれっ、この画面、もしかしてみんなには見えてないの?」
「この画面、と申しますと……」
「ほら、ここに、枠が金色で下地が青い半透明のパネルが……」
有沙が宙を指差した先を見ても、精霊たちはただ首を捻るばかりで、それでようやく有沙も、これが自分にしか見えていない物だと気づいた。
試しに他の精霊たちのステータスも出現させてみたが、やはり全員、自分のデータも他者のデータも見えないようだった。
「そっかー。これは私だけのスキルなんだー。って言うか、私自身のスキルは見られないのかな?」
そこで有沙は、両手を水を掬うように重ね、「ステータス、オープン」と唱えてみた。
すると手の平の上に、皆より小さめの、三〇センチ四方の画面が現れた。
「おおーっ、出たーっ!」
歓声を上げた有沙は、しかしその表示されたデータを見て、ガックリと肩を落とした。
何しろ、『名前:???、年齢:1日、種族名:精霊王、出身地:オスティア大陸、体力:?????、魔力:?????、魔法:未取得、スキル:ステータス鑑定』と、そのほとんどが、クエスチョンマークで埋まっていたからだ。
(うーん……。これ、そのうち、ちゃんとした数字が出るのかなぁ……)
他の精霊たちの充実したステータス画面を眺めながら、有沙は甚だ不安だった。
第七話につづく
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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