第四十一話
「一人二役の精霊王さま」第四十一話です。
本作は毎週火曜日の更新を目標にしています。
春の三の月。実家で充実した一週間を過ごし、ジュリアンは父親とともに再び本土へ渡った。
小さな背負い鞄の中には、わずかばかりの着替えと筆記用具、ロビン先生からもらった歴史の本が入っている。ほぼ身一つでの引っ越しと言えるだろう。
人と荷物を雑多に積んだ運搬船に乗って半日。王都郊外の港町に到着すると、そこにはすでに、セルヴィッジ家からの使者が二人を待っていた。
セルヴィッジ家には家令のバートを筆頭に、五人の執事が雇われている。その中で一番年若なケビンは、あらかじめバートから渡されていた人相書きと照らし合わせ、目当ての親子をめざとく発見すると、今日の宿を探そうとしていた彼らに「恐れ入ります」と丁寧に声をかけた。
いきなり、上等な服に身を包んだ青年に話しかけられて、ジュリアンと父親は驚いた顔でケビンを見た。
「間違っていたら申し訳ございません。もしかして、このたびアリッサ奨学会に入られたジュリアン様と、お父様でいらっしゃいますか?」
「えっ、は、はい。そうですが……」
無意識に息子と手をつなぎ、緊張した面持ちで父親が答える。
ケビンはそつのない笑みを浮かべ、「ああ、やはり」とわざと大仰に声を上げた。
「申し遅れました。わたくし、セルヴィッジ侯爵家の執事を務めております、ケビンと申します。こちらの者はセルヴィッジ家の護衛兵士、ニックスです。どうぞお見知りおきを」
「あっ、侯爵家の……。こりゃどうも……」
警戒を解いて父親が挨拶し、ジュリアンも慌てて「はじめまして、ジュリアンです」と頭を下げた。
「本日本土へお越しになると聞き、お迎えに上がりました」
「それは、わざわざどうも……。ご苦労様です……」
頭を下げる父親に、ケビンは「いえいえ、これも仕事ですから」とにこやかに答えた。
「こちらに馬車を停めておりますので、どうぞ」
ケビンがチラと視線を向けると、兵士のニックスが武骨な手つきで、ジュリアンのリュックと父親の手提げ鞄を有無を言わさず奪った。
「あっ……」
「あの……」
戸惑う親子に、ケビンがまた「お気になさらず。さ、こちらです」と声をかけながら強引に停車場まで連れて行く。
落ち着かない気分で馬車の前まで来た父と息子は、人待ち顔で並んだ馬車の中でも、特に立派で大きな侯爵家の馬車前に案内されて、再び体を硬直させた。
「さっ、どうぞ、どうぞ」
有沙や他の精霊たちから、「セルヴィッジ家の使用人の中で、一番笑顔が胡散臭い」と評されているケビンは、張りついた笑顔で親子を馬車に押し込むと、自分も二人の向かいに座り、待っていた御者に「準備ができたら出発してくれ」と声をかけた。
ニックスが慣れた手つきで二つの手荷物を荷台に乗せ、御者の隣にドッカと腰を下ろす。それが合図になった。
四頭の馬が引く車は、すぐに軽快な車輪の音を響かせ港を後にした。
「ではこれからの予定を申し上げます」
進行方向と逆向きに腰掛け、ケビンは向かいに座るジュリアンと父親に言った。
「ああ、そうだ。昼食はもう済まされましたか?」
「あ、はい」
「船の中で食べました」
母親の持たせてくれたサンドイッチで簡単な食事を済ませていた二人は、執事の質問に素直に答えた。
「それは良かった。ではまずこれから、王都の仕立屋へ向かいます。そこでジュリアン様の平服と礼服を何着か購入します」
「「えっ!」」
親子の声が重なったタイミングで、ケビンは「ご心配なく」と制するように手を上げた。
「これらの費用も、奨学生への援助に含まれております。これから王都で暮らすにあたり、衣類に日用品、学用品など、必要な物がたくさんありますからね。今日は侯爵家へ行く前に、それらの中で火急性の高いものだけ揃える予定です。あ、今晩はお父様にも侯爵家に泊まっていただきますので、仕立屋ではお父様の服も購入いたします。先週のアニバーサリーパーティーで仮の衣装をご用意しましたが、どちらもお二人にフィットしているとは言い難かったそうで。あれからサイズ調整を行ったものが、これから行く店ですでに用意してあります。試着して問題なければ、そちらをそのまま購入します。また成長期のジュリアン様は、さらに詳細な採寸を行います」
「え、え……」
「ええと、あのぅ……」
執事の早口の説明を、その半分も理解できずにいるジュリアンと父親を見て、ケビンはまた「ご心配なく」と張りついた笑顔で答えた。
「船旅でお疲れのところを申し訳ございませんが、お二人には金銭的にも肉体的にも負担のかかることではございませんので。どうぞお寛ぎいただいて、何も案ずることなく、我々の指示通りに動いていただけると大変助かります」
「あ、はい。あの……どうぞよろしくお願いします」
父親より先に状況を理解したジュリアンが、神妙な顔でケビンに向かって頭を下げる。それを見て、父親も慌てて「お、お願いします……」とお辞儀した。
「はい。お任せください」
善良そうな少年とその父親を見て、ケビンはにっこり笑った。その笑顔はいつもの職業スマイルではなく、彼の心が生んだ自然な笑みだった。
***
その後に起こったことを、ジュリアンはあまりよく覚えていない。
最初に、大きく立派な外観の店が建ち並ぶ王都の中心街で、特に豪壮な店構えの洋装店の前で馬車が停まると、すぐに店長と店員が大勢建物から飛び出してきて、三人を丁重に迎えた。
ジュリアンと父親は、店の特別客だけにあてがわれるゲストルームに案内されて、まずお茶とケーキを供された。
とてもいい匂いの琥珀色のお茶も、食べられる花が載った芸術品のようなケーキも、繊細な細工が施されたティーカップや皿も、ピカピカに磨かれたフォークやスプーンも、一週間前のパーティーで見た食事と変わらぬ豪華さで、座ったソファのフカフカな座り心地と相まって、親子はまったく落ち着かなかった。
ケビンが店長と購入する品について話している間、父親とジュリアンにはゆっくりお茶する時間が与えられたが、見るからに高そうな食器を割らないようにとそちらにばかりに集中し、二人とも、茶と菓子の味はろくに分からなかった。
「お待たせしました。まずお父様は試着をお願いします。ジュリアン様は採寸を先にして、それから用意してある平服の試着をお願いします」
ケビンの声掛けで、複数の店員がわっと二人に群がる。
「失礼します。まぁ、美しい御髪」
「ご実家は漁師と聞きましたが、ジュリアン様はあまり日焼けしてらっしゃらないのね。白い肌にバラ色の頬なんて、女の私から見ても羨ましいわ」
「採寸が終わったら、シャツとズボン、ジャケットを合わせましょうね」
「タイとスカーフも選ばなくては」
「ジュリアン様は何色がお好みかしら」
「この上品な深みのあるブルーのタイは、ジュリアン様の美しい銀髪にとても映えますわ」
「あら、こちらのグリーンのタイもいいわよ。ほら、銀糸の刺繍が髪色と同じで、ジュリアン様にぴったりだわ」
「この白のブラウスも、よくお似合いです。まるでおとぎ話に出てくる少年王子のようですわ」
針子のお姉さんたちに囲まれ、あっちこっちを測られ、沢山の布を当てられながら、ジュリアンはただ赤い顔をして黙っていた。彼女たちの迫力に圧倒されたのもあるが、なぜこの人たちはこんなに自分に親切なんだろう、という疑問もあった。
フィッティングルームの調度品も店員たちの態度も、ただの平民である自分たち親子を、まるで王族のように扱ってくれている。
賢いジュリアンはそんな彼らの対応を、そのまま侯爵家の権威の表れと考えた。その解釈も間違っていないが、これは主に、現在話題の、王都初の平民向け奨学金制度、アリッサ奨学会の名誉ある第一号ジュリアン少年への、店側の大いなる忖度の結果でもあった。
本人も父親も気づいていないが、今のジュリアンは王都民にとって時の人であり、人気芸能人並みの注目度の高さがある。さらに今の彼の傍には、常に小さな光の精霊が護衛として傍にいる。たとえ下位精霊でも魅了の効果は出ているため、皆のジュリアンへの好感度は自然に上がる。ジュリアン自身が見目麗しい美少年であるゆえに、その効果は絶大だ。
「はいはい、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、我々は次の店へ行かなければなりません。店長、とりあえず今日の服に合わせた小物も付けて、後日まとめて侯爵家へ送ってください。請求書はセルヴィッジ家家令のバート宛てでお願いします」
「かしこまりました」
およその採寸と試着が終わったタイミングで、ケビンが雛鳥を、鷹と鷲の群れから救出した。
「服はもう、このままでいいですね。お父様もジュリアン様も、よくお似合いですよ」
試着した服の中で直しの必要のない衣装を着た親子を見て、ケビンは満足げに頷いた。
次に三人が向かったのは、洋装店の向かいにある靴屋だった。そこでもケビンは、父親に二足、ジュリアンには五足靴を買った。
上等の革靴に履き替えた親子は、今度は理容店へ連れて行かれた。島には専門の理容店などない。そもそも平民は、家族に髪を切ってもらうのが普通だ。ゆえにジュリアンも父親も、プロの理容師に髪を切られるのは、生まれて初めての経験だった。
服屋で一時間、靴屋で一時間、理容店で一時間。およそ三時間かけて、ようやくジュリアンたち親子の支度が済んだ。
高級な衣装を身に着け散髪もされ、父親とジュリアンは、もうどこから見ても立派な貴族と貴族令息にしか見えなかった。
ケビンは懐中時計を見て、「予定より少し遅れましたが、想定内ですね。ではこれから、いよいよ侯爵家へ参りましょう」と言った。
***
侯爵家に着いてからも、ジュリアンの夢は終わらなかった。
応接間で侯爵夫妻と令嬢に挨拶し、家令のバートに家政婦長のバーサ、護衛兵士長のラッセルなどに紹介された。
夜はバートとバーサの夫婦、そして彼らの息子たちと一緒に、使用人用の食堂で夕食をとった。彼らは親の代から長く侯爵家に仕えており、平民ながら貴族のマナーも熟知している。まずは同じ平民であるバートとバーサに作法を習い、慣れたら侯爵夫妻と一緒に食事と、ということだった。
これはクラリスとバーサの、ジュリアンへの気遣いだった。
いきなり貴族と食事ではろくに料理も味わえないだろうし、緊張しすぎてマナーを覚えるどころの話ではないだろう、と。
父親も同席したが、彼にとっても食卓を囲むのが同じ平民であってホッとしたのだろう、上等のワインも振舞われて、彼はずっと上機嫌だった。そして口を開くたびに、息子がいかに賢いかという親馬鹿自慢と、そんな息子を援助してくれるセルヴィッジ家にどれだけ恩を感じているかという感謝の言葉、その二つを延々と語り続けた。
奨学生のための宿舎は侯爵家の敷地内に建つ予定だが、現在は設計を練っている段階で、まだ工事に取りかかっていない。完成は一年後で、それまでジュリアンは本邸で暮らすことになる。
広い侯爵邸には客人が宿泊できる部屋も多くあり、ジュリアンにもその一室が割り当てられた。家族七人で住んでいた実家が、丸ごと入りそうな広さの部屋だった。また世話係として専属のメイドと護衛が一人ずつ付き、外出の際は侯爵家の馬車を使わせてもらえるらしい。
全てにおいて至れり尽くせりの好待遇で、ジュリアンは喜ぶより先にますます不安になった。酔っぱらってさっさと寝てしまった父親とともに、大きなベッドで横になってみたものの、目が冴えてまったく眠気はやってこない。
そっとベッドを抜け出し、窓際に置かれた、広い書き物机の表面に触れる。今夜は大きな月が夜空を照らし、部屋の中にもその灯りは差し込んできた。
すでに持参した歴史書は机の上に並べ、ペンとノートは引き出しに仕舞った。ケビンの話では、これから王都の専門店で、学用品もいろいろ揃えてもらえるらしい。
机の隣には大きな本棚も設えてあった。ロビンの計らいでそこにはすでに、ジュリアンが好む歴史関連の書物がぎっしり詰まっていた。これらの本も自分の物として自由に使えるそうだ。
この部屋へ案内してくれたケビンには、この部屋の鍵と引き出しの鍵、それと今後の日課について書いた紙を渡された。七時起床。朝食の後に訓練場で、ラッセルから運動と護身術を習う。入浴後、昼食までバートからマナーの講義。昼食後に休憩を挟んで自習。それから夕食まで自由時間。勉強を続けてもいいし、お付きのメイドに頼めば、庭を散歩したり図書室で読書することもできる。
「……夢みたいだ」
まさか平民の自分が、こんな生活を送れるようになるなんて、ついこの前までは想像すらしていなかった。思いきり歴史を学びたい、とは願っていたが、貴族の子と変わらない待遇を受けられるなど、夢に見ることすらおこがましいと思っていた。
ただ、喜びと同じくらい不安も大きい。平民なのに特別待遇を受けるということは、その扱いに見合った“結果”も求められるということだ。
「僕……ちゃんとやれるのかな……」
背丈よりちょっと大きめの椅子に座り、ジュリアンは小さな声で呟いた。
その時。
「こりゃっ」
いきなり耳元で声がして、ジュリアンは「ひゃあっ」と悲鳴を上げた。
そして声のした方を見て、さらに仰天する。
書き物机の上に、小人がいた。可愛い尖がり帽子を被って白い髭をたくわえた、お爺さんの小人だ。背丈は一〇センチほどで、鼠よりも小さかったが、小人は威張った顔つきで、「子どもは早く寝んか!」といきなりジュリアンを叱った。
「えっ、えっ……」
「今、何時じゃと思うとる。子どもは九時には寝んといかん!」
「ご、ごめんなさい……」
素直なジュリアンはひとまず謝った。それから小人をまじまじと見て、「ところで、あなたは誰ですか」と訊ねた。
小人はフンと腕組みし、「わしか? わしはザントマンじゃ」と名乗った。
「ザントマン……。もしかして、精霊なの?」
「そうじゃ。土の精霊じゃ」
ザントマンはそう答え、ふさふさの白い眉の下で、大きな眼をぐりんと動かした。
「お主は土属性の適性が高かろう。だからわしが呼ばれたのじゃ」
「呼ばれたって、誰に?」
「それはヒミツなのじゃ。じゃがわしの主であるノーミーデス様より、さらに偉いお方じゃ。そのお方が、わしに主の友だちになってやれと命じられたのじゃ」
「えっ、友だち?」
急に胸がドキドキと高鳴り、ジュリアンは手の平サイズしかない小人と目線を合わせた。
「そうじゃ。お主は今日、生まれ故郷を離れ、家族とも別れ、一人で見知らぬ土地にやってきたのじゃろう。ここにはろくに知り合いもおらず、もちろん友だちもおらんのじゃろう。それはさぞかし寂しかろうと、さる御方が、わしをお主の話し相手にと遣わされたのじゃ」
「そうなの? じゃあ、ザントマンさんは、今日から僕の友だちなの?」
「ザントマンさん、は堅苦しいの。もうちっと呼びやすい名前を付けてくれ」
「僕が名前を考えるの?」
「お主以外に誰がおる」
「えっ……。えーと、えーと……じゃあ、ヴィットはどう?」
「ヴィット?」
「うん、そう」
ジュリアンは茶色い瞳をキラキラと輝かせて言った。
「大陸の一番北にね、ヴィット山っていう尖った高い山があるんだけど、ヴィットはその土地の言葉で“白い”って意味なんだ。一年中山の上に雪が積もっていて白いから、そういう名前なんだって。ザントマンは、山を逆さにしたみたいな白い立派な髭を持ってるから、ヴィット山と似てるなって思って……。どうかな……?」
その返事にザントマンは「ムムム……」と唸り、かっと目を見開くと、「気に入った!」と一声叫んだ。
「なんと、わしにぴったりな名か! ジュリアンよ、お主なかなかやるな!」
「えへへ……」
「うむ、良いぞ、今日からわしのことは、ヴィットと呼ぶが良い」
「うん。それで、ヴィット。僕の友だちになってくれるってことだけど、それってどういうこと? 毎晩こうして、話し相手になってくれるの?」
「うむ。就寝が遅くなるのはいかんからな、あまり長い時間は話せぬが、お主が眠るまで枕元に付き添ってやろう。さらにわしは、良い夢を見せる特技を持っておる。お主が眠る時は、毎晩良い夢が見られる魔法をかけてやろう」
「わぁ、すごい……」
「それだけではないぞ」
ヴィットは得意気に腕を組み、小さな胸をぐっと張った。
「わしは土の精じゃからな。土地の歴史にも詳しいのじゃ。お主は歴史の勉強がしたいのじゃろう。お主が勉強する時は、わしが手伝ってやることもできるぞ」
「ええっ、すごい! ヴィット、本当にすごいよ!」
「ただし」
小人は小さな小さな人差し指を立て、それを少年の鼻先に向けた。
「わしは人前に姿は見せられん。わしが姿を現すのは、お主が一人でおる時だけじゃ。わしはソルフェレスのような擬態はできんからの」
「ソルフェレスって、もしかして侯爵家で飼われている猫のこと?」
「うむ。あやつは光の精霊獣なのじゃ。しかし見た目は完全に猫じゃからな。空を飛んだり魔法を使ったりせん限り、普通の猫と変わらん」
「えっ、待って」
今日侯爵夫妻に挨拶した際、その隣で居眠りしていた毛の長い猫の姿を思い出し、ジュリアンは驚いて言った。
「あの猫も精霊なの!? 侯爵家では精霊を飼っているの!?」
そこでベッドの父親が「うう~ん……」と唸り、ジュリアンは慌てて自分の口を手で覆った。
「……もしかしてソルフェレスも、ノーミーデス様より偉い“ある御方”が遣わしたの?」
「……お主、記憶力が良い上に、察しも良いのぅ」
喋りすぎたと自覚したヴィットは、ごまかすようにゴホンと咳払いした。
「ソルの奴は光の精霊じゃからな。ノーミーデス様は関係ない。が、いらん詮索は無用じゃ。とにかく、わしのことも、ソルのことも、他所で話すことは禁止じゃ」
「お父さんにも言っちゃだめなの」
「お主の父親は、秘密を守れる性格か?」
ジュリアンは一瞬黙り、無言で首を横に振った。
「……もし僕がヴィットやソルの正体をばらしちゃったら、君たちはいなくなっちゃうの」
「そうなるかの」
「……それは、嫌だ」
「そうじゃろう。だから秘密は守ってくれ。わしもソルも、お主と侯爵家の皆が好きなんじゃ。できればそばにいさせてほしい」
「うん」
ジュリアンは神妙な顔で頷いた。
「僕も、侯爵家の人たちは好きだよ。今日会ったばかりだけど、みんな本当にいい人たちだ。できればずっとここにいたいし、ヴィットともずっと一緒にいたいよ」
「なら、秘密を守れるな?」
「うん」
何の迷いもなく、ジュリアンは首を縦に振った。
そんな少年を見て、ヴィットは「うむ。良い子じゃ」と好々爺の笑みを浮かべた。
第四十二話につづく
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