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一人二役の精霊王さま  作者: I*ri.S
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第四話

「一人二役の精霊王さま」第四話です。

本作は毎週火曜日の更新を目標にしています。

「いやぁあああーっ!」

 有沙が絶叫した、その直後。大地が鳴動し、世界は闇に覆われた。

 厚い雲が太陽を隠し、雷鳴が轟く。強風が吹き荒れ、辺りの草木をなぎ倒す。

 近くにいた鳥や動物たちが騒いで逃げだし、あっという間に辺り一帯が、この世の終わりのような様相を呈する。

 ―― 精霊王さまー。

 ―― どうしたのー。

 ―― 怒ってるのー?

 ―― 悲しんでるのー?

 ―― だいじょうぶよー。

 ―― だいじょうぶなのよー。

 小さな精霊たちが慌ててなだめようとするが、ショック状態の有沙の耳には入らない。

 この大騒ぎのさなか、別の存在が現れた。

「これはいったい、どうしたこと?」

 耳の早い、風の精霊だった。淡く青く光る丈の短いドレスに、白いタイツと金色のブーツを身につけている。精巧に作られたビスクドールのような、色白の美しい肌と整った目鼻立ち、青味がかった銀色の髪を持つ。顔立ちは美しい女性だが性別は不明。ラビサーでは『エアリエル』と呼ばれていたキャラだ。

 美しい風の精霊は、泉のほとりで絶望に打ちひしがれている有沙を見つけると、すぐにその場で跪いた。

「これは、新しい精霊王様。お初にお目にかかります。わたくしはエアリエル、風の精霊でございます」

「エアリエル……?」

 はっきりとした音声で話しかけられ、有沙は地面に伏せていた顔を横に向けた。

 そこに見覚えのある姿を認め、彼女はまた「きゃああっ!」と叫んだが、今度のそれは悲鳴でなく歓声だった。

「え、エアリエルだぁーっ。リアル・エアリエル! どうしよう、メチャメチャ美人―っ。綺麗すぎぃ―――!」

 有沙の意識が風の精霊に向いたことで、嘆きの風雨が止み雲が晴れて、太陽が顔を出した。一瞬で嵐が治まり、小さな精霊たちは「フーッ」と安堵の息をついた。

「うわぁ、夢みたーい。本物のエアリエルに会えるなんて、すっごい、感激だよ―っ!」

 ぷよん、ぷよん、と地面を跳ねる人型スライム相手に、風の精霊は恭しく片膝を突き、片腕を胸の前に添える忠誠の姿勢を取った。

「恐れ多いお言葉です。わたくしこそ、誕生されて間もない精霊王様に邂逅叶いまして、恐悦至極に存じます」

「わぁ、挨拶がしっかりしてる~……」

 思わずスライムの姿のまま畏まり、有沙は「えーっと、とりあえず、初めまして。新しい精霊王です」と頭を下げた。

「えっと、あなたに名前はあるの? エアリエルって複数いるよね?」

「はい。ですが、人型をとり固有の名を持つ者は、各精霊界に一人しかおりません。わたくしは全風の精を束ねる者にございます。ゆえに先代の精霊王様から、ホリーという名を賜りました」

「ホリーかぁ、いい名前だね」

「はい。ですがそれは、先代の精霊王様にいただいた名でございます。ですからこの機会に、新しい精霊王様に新しい名をつけていただきたく存じます」

「あー……そういうルールなのね……」

 有沙は美人な風の精霊を見つめ、「えっと、ホリーさんは女性?」と訊ねた。

「精霊に性別はございません。が、先代の精霊王様は、わたくしを女性性として扱われました。見た目や言葉使いが女性らしいから、と」

「え、そんな適当でいいんだ?」

「わたくしどもはただ、精霊王様のお心に従うまで」

「なるほど、なるほど……。精霊王ってすごいんだねー」

 他人事のような感想を言って、有沙はスライムのまま「うーん」と腕組みをした。

「じゃあ、エマはどう? 私が好きだった、イギリス人女優の名前なんだけど……」

「なんと!」

 有沙の提案に、風の精霊はパッと表情を輝かせた。

「精霊王様のお気に入りの者の名をいただけるとは、これほどの栄誉はございません! それでは今ここから、わたくしのことはエマとお呼びください!」

「うん。じゃあエマさん……」

「敬称は必要ございません。どうぞ、エマ、とお呼びください」

 片膝を突き左腕を胸の前に添え、頭を垂れた姿勢のまま、エアリエルは言った。

「あー、はい。じゃあエマ。さっきは取り乱してごめんなさい。ちょっと、今の自分の姿に衝撃を受けちゃって……」

「と仰いますと……」

「だからその、この出来損ないのスライムみたいな……」

「精霊王様は、この世界に誕生されたばかりなのですから、姿が定まっていないのは当然でございます。ですが、ご安心ください。ご自身の意志で、見た目はいかようにも変化させられます」

「えっ、本当!?」

(あれ。でもそう言えばマリリンさんも、そんなことを言っていたような気が……)

 そこでようやく有沙は、美人なガイドの台詞を思い出した。

 ―― 他に希望はございますか? 精霊王ですので見た目はいかようにも変えられますが、引継ぎする時代は選べますよ。

「あーっ、そう言えば聞いたわー。マリリンさん、たしかにそう言ってたわー」

(それと、何か知りたいことがあれば精霊に聞け、とも言ってたよね?)

 有沙は目の前で姿勢を崩さない風の精霊を見つめ、「えーっと、エマ?」と話しかけた。

「はい」

「ひとまず立ってもらえる?」

「はい」

 エマはすぐに立ち上がった。青く発光する美しい肢体と神秘的な美貌に、有沙は「ほわぁ……」と小さく感嘆の息を洩らした。

(あー、本当に綺麗だー。ラビサーの絵師さんが描いたエアリエルも美人だったけど、本物は迫力が違うよぉー)

「えっと、望めば私も、エマみたいな美人さんになれるってこと?」

「まさか、わたくしなど、精霊王様の美しさの足元にも及びません。比べることすらおこがましいことです」

 立ったまま腰を折って、風の精霊は恭しく頭を下げた。

「あ、そー……なんだぁ……」

(はぁ……。なんか私、すごく偉い立場になったっぽいなぁ。精霊王だから当然なのかな?)

「じゃあ、とりあえず変身してみようかな……。どうすればいいの? こうなりたいって思う姿を、頭の中でイメージすればいいの?」

「左様です」

「うーん……できるかなぁ……」

(自慢じゃないけど、絵心ないし美的センスも皆無だし……)

 おまけに目を瞑ると、脳裏に浮かぶのは毎日のように見てきたゲームスチル……アリッサの姿ばかりで……。

(いやいや、さすがにアリッサそっくりは……。とりあえず目の色は変えよう……。日本人らしく黒い瞳にして……髪色は暗めの茶にして……。アリッサは色白だから、肌の色ももうちょっと健康的な感じで……。ん? でもそうすると、だんだん普通の日本人っぽくなるなぁ……。それは何だかつまんない……)

 精霊たちが見守る中、有沙は目を閉じ、自分が“なりたい姿”を、あれこれと想像した。

(って言うか。どうせなら、思いきり理想の見た目になれば良くない? せっかくの機会だし。スタイルはモデルみたいに足長でウエスト細くして、胸はまぁ、CかDくらいで……。髪はやっぱり、王道の金髪ロングかなー。だいたい西洋ファンタジー系ゲームって、金髪ロングヘアのキャラが一人は登場するよね。あー・でも、思いきってピンクとか青とか、変わった色にしてみるのもいいかなぁ……)

 有沙本人は気づいていなかったが、彼女があれこれ想像するたびに、その姿は蜃気楼のように揺らめいて、目まぐるしく変化した。

(あーっ。こういう時こそのネット検索なのにーっ。“妖精”、“美女”とかのワードで画像検索かけたら、きっと美麗イラストがいっぱいヒットして、イメージ作りに役立つのになぁ~……)

 そうは言っても現実問題、この世界にそんな便利なツールは存在せず、有沙は座って腕組みをしたまま、(精霊王……精霊……妖精……)と、類似キーワードを順に心の中で唱えた。

(妖精と言えば、ピーターパンのティンカーベルとかいるなぁ。あれも可愛いけど、サイズ的に精霊王っぽくないしなぁ……。あ、ピノキオにも妖精出たなぁ。金髪の正統派美女だった気がする……。でも私の性格的に、あんなお上品な美女の見た目は、ちょっと違う気がする……。ならむしろ、ティンカーベルみたいなキュート系を目指すべき?)

 ウンウン唸りつつ、手の平サイズの緑の妖精になったり、人間サイズの青いドレスを着た妖精になったりする有沙を、エアリエルと小さな精霊たちは、ひたすら無言で見守り続けた。

 そこでいきなり有沙は、「あ」と一声上げ、開眼した。

「そう言えば、日本で“雪の妖精”って呼ばれてる、可愛い子ちゃんがいたわ!」

 閃いた瞬間、有沙の姿は見る間に、その“可愛い子ちゃん”へと変貌を遂げた。



 第五話につづく

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回の更新をお待ちくださいませ。

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