第三十三話
「一人二役の精霊王さま」第三十三話です。
本作は毎週火曜日の更新を目標にしています。
ラスキン男爵夫人が怪しい香水を購入した、同日の午後。
ここは、セルヴィッジ侯爵家息女、アリッサの自室。アリッサの中にいるルーチェは現在お昼寝中だった。
精霊であるルーチェに睡眠は必要ないが、アリッサの成長には欠かせないため、ソルが魔法で強引に眠りにつかせている。お目付け役である彼自身も、自分の魔法の余波で眠たそうにあくびをしている。
産後の経過も良く出産前の体力を取り戻したクラリスは、友人であるアドキンズ侯爵夫人に誘われ、既婚夫人が集う読書会に出かけていた。
ウィスタリア貴族の常識では、赤ん坊の世話をするのは母親ではない。着替えや入浴といった日常の世話は乳母や専属のメイドが行い、遊び相手は年上の侍従が務める。高位貴族であるセルヴィッジ家ではしかし、クラリスの希望で乳母は設けなかった。代わりにクラリスの補佐役を家政婦長のバーサが担い、クラリス不在の今日は、彼女が子守りを請け負った。また侍従役は、バートとバーサの末の息子であるノアが選ばれた。アリッサの二歳年上でまだ三歳と幼いが、親の言うことをよく聞く賢い子と評判だ。
さらに一歳の誕生日を迎え、アリッサにも専属の護衛騎士がついた。二名ともセルヴィッジ家の封臣家門から選ばれた、この国ではめずらしい女性騎士である。
一人は、レストン子爵家息女、エイミー・レストン。栗色のカールした髪を、今はポニーテールにまとめている。榛色の大きな瞳が印象的な、可愛らしい顔立ちの娘だった。
もう一人は、シャンクリー子爵家息女、セシリア・シャンクリー。黒に近い深い青色の髪はまっすぐ長く、邪魔にならないよう後ろで三つ編みにしている。髪色と同じ深い青い瞳は理知的な光を灯し、闊達な印象のエイミーに対して、セシリアは淑女然とした雰囲気があった。
タイプは違えど、どちらもブレアム魔導学園を優秀な成績で卒業した魔法剣士であり、エイミーは火属性、セシリアは水属性だった。正反対の属性を持つ二人は学生時代から仲が良く、王宮に勤めることもできたが、二人ともあえてセルヴィッジ家に仕えることを選んだ。
赤子のアリッサの護衛騎士のため、彼女たちはほぼセルヴィッジ家から出ることはない。今日も子ども部屋の番をしており、バーサから少し休憩しなさいと言われ、応接セットでお茶とケーキをご馳走になっていた。
バーサも彼女たちの向かいに座り、同じお茶とケーキを食べていた。
「味はどーお? 今日のタルトはね、チェスナス地区のリディア村から届いたストロベリーで作ったのよ。大粒で、甘くておいしいでしょう?」
「はい」
「とっても美味しいです」
真面目な女性騎士二人は、それでも年頃の娘らしく、甘いケーキを口にして嬉しそうな笑顔を見せた。
「ところでバーサさん。いつチェスナス地区に農園ができたのですか? あそこは廃鉱山しかない、荒れ果てた土地と聞いていますが」
「私もそう聞きました。それにリディア村なんて村の名前、初めて聞きました」
バーサは自分もタルトを食べながら、「ああ」と何でもない顔でうなずいた。
「以前はそうだったんだけどね。旦那様が専門家や技術者を呼んで、廃村だった場所を新しく農業主体の村に変えたそうなの。以前王宮で働いていたハーリー男爵様に領主代理を頼んで、すでに数人の村民と畑や果樹園を運営しているらしいわ。それがかなりうまくいって、ほら、今うちに、見かけない他国の人間が大勢いるでしょう? いずれ彼らもその村に住まわせる予定なんですって。リディア村って言うのは、よく知らないけれど、ハーリー男爵が村の恩人からとった名前だそうよ」
「村の恩人ならば、セルヴィッジ侯爵がそうなのでは?」
「んー……。だけど旦那様も、村の名前はそれでいいって仰ったそうなの。リディアって女性の名前だから、もしかすると女神様に関連した名前なのかもしれないわ。聖教会のオルグレン司教様が、リディア村に教会の支部を作るって仰ってるそうだし」
「あんな山奥に教会の支部を作るのですか」
「それがね。リディア村には川と湖があるんだけど、そこが精霊様の加護を受けているんですって。聖教会としては、あそこを聖地として教会の保護区にしたいそうなの」
「セルヴィッジ侯爵様もその件をご存知なのですか」
「ええ。オルグレン司教様と旦那様は仲がよろしくてね。この件については、すでに話し合い済みらしいわ。保護区の中にリディア村がある形にして、村の売り上げの一部も教会に上納する形で決着したみたい」
「教会に毎年献金するってことですか?」
「そうすることで、村を教会が保護する形にできるからって」
「そんな村があるなんて初めて聞きました。王宮側は何と?」
「もちろん王宮にも、教会に献金した額を差し引いて通常の税を納めるわよ。領主代理のハーリー男爵様は、以前は法務省にお勤めで法律や税にお詳しいし、とても真面目な方だそうだから、王宮側も、男爵様なら申告漏れなどないと信頼しているみたいね」
「なるほど……。ですがずいぶんと珍しいケースですね。ただこのタルトは本当に美味しいです。こんな大粒で甘いストロベリーは初めて食べました」
セシリアの言葉に、隣でエイミーもうんうん、とうなずく。
「王都の高級菓子店でも、これほど見事なフルーツはなかなか置いていませんよ。そのリディア村? が精霊様の加護を受けているというのは、本当かもしれませんね」
「でしょう? あと野菜と他の果樹もね、どれもみんな大きくて新鮮で、本当に美味しいの。護衛騎士の皆さんには今日の夕飯に、リディア村の野菜とキノコを使った牛すね肉のシチューを作るから、そっちも期待していいわよ」
「わぁ、楽しみです」
「ここの食事はいつも美味しいので、このままだと食べすぎで太っちゃいそう」
「うんうん。その分、鍛錬を頑張らないといけないわね」
そう言って、エイミーとセシリアは顔を見合わせてウフフと笑った。武骨な騎士服に身を包んでいても、まだ十代の乙女たちである。毎日の美味しい食事とおやつは、何よりの楽しみでもあった。
そして。
和やかにお喋りする三人の隣で、姿を消した有沙もその場におり、しっかり話を聞いていた。
(あー、やっぱり村の名前、リディア村に決まったんだー……。マーカスたちから私の名前を使いたいって聞いた時に、恥ずかしいから別の名前にしてって言ったのになー。バイロンさんたちも同意しちゃったのかー……。まぁ、有沙村じゃないだけマシかなー……)
……それにしても。と有沙は、テーブル上の三人分切り分けられたホールタルトを、恨めしい目つきで見つめた。
「ああ……、私もケーキ食べたい……。今からでも、どこかのスイーツ店に行こうかな……」
手が出せないおやつを前にして、有沙がそうボヤいたタイミングで、闇の精霊が現れた。
「精霊王様」
「あっ、エドガー。良いところに!」
「え?」
目を瞬かせる精霊に向かい、有沙は笑顔で言った。
「王都で一番美味しいケーキ屋さんって、どこかな?」
***
一〇分後。
有沙は貴族令嬢の出で立ちで、王都の人気菓子店、『パティスリー・フェリシテ』の前にいた。隣には付き添いで、貴族令息姿のエドガー。期待値マックスな表情の精霊王に対し、こちらは「なぜこんなことに……」と困惑した顔つきだった。
「だってバーサさんが、す……っごく美味しそうなタルトを作ってて、エイミーやセシリアが食べているのを、私は横で見ていることしかできなかったんだもん! こうなったらもう、私は私で、どこかでケーキ食べるしかないでしょ!」
「……はぁ」
生まれつき精霊のエドガーにとっては、食べ物に執着する有沙の気持ちは理解できない。しかし、この元人間な精霊王がけっこうな食いしん坊であることは、彼もすでに承知していた。
「とりあえずここが、今王都で評判の菓子店です。特にフルードゥリス国の伝統菓子である、マカロンとタルトが人気だそうです」
「えっ! ここってマカロンまであるの!?」
有沙は目を輝かせ、「早く入ろう! そしてタルトとマカロンを食べよう!」とエドガーの腕を引いた。貴族令嬢にあるまじき振る舞いだが、今の有沙はそんなことを気にしていられない。
二階席もある広い店内は、人気店という評判通りほぼ満席だったが、運良く二階のテラス席が空いていた。
王都のメイン通りに面したテラスからの眺めは良く、久々の外食ということもあって、有沙はウキウキしながら席に着いた。
―― 精霊は、食べすぎによる腹痛も消化不良も起こさない。
この都合の良い事実により、ここぞとばかりに目についた品を片っ端から注文する。
オスティアにも酪農文化はあり、地球のそれとは見た目が異なるものの、ミルクのとれる牛や卵を産む鶏がいた。砂糖の材料となる植物も多く、小麦栽培も盛んだ。必然的に、タルトやケーキ、クッキーやキャンディなど、甘党大歓喜なスイーツが数多く存在する。その話を聞いた時、有沙はオスティアの神に心から感謝した。
「わぁ~。こっちの世界のお菓子も、地球のと変わらず美味しそう~~~」
フルーツをふんだんに使ったタルトはもちろん、色とりどりのマカロンに、クリームたっぷりのカップケーキ、チョコレートケーキやムースにゼリーなども運ばれてきた。皿がテーブルに乗りきらず、給仕の店員はワゴンごと置いていった。
「やっぱり世界が違っても、お菓子が正義なのは地球もオスティアも同じだね~」
宝石のようにキラキラ輝くスイーツを前にして、有沙はご満悦の表情で言った。
「チキュウにも、これと似た食べ物が存在するのですね」
「うん、ほぼ一緒だよ。でも地球で売ってるのより、一回りくらい大きいね!」
手の平大のチョコレートケーキを見て、有沙は笑顔で答えた。
「私が日本で食べてたのは、これの半分くらいのサイズだったなぁ」
「そうですか。チキュウ人は胃が小さいのですね」
「そうかも? あっ、でも、アメリカやヨーロッパはケーキも大きいかもしれない。あくまで日本の話だし。日本は何でも小さいんだよ。ジュースもピザも、日本のラージサイズがアメリカの普通サイズらしいよ」
「ではオスティアは、アメリカと似ているのですね」
「そうかも。でもこのウィスタリアは、建物とか文化とか中世ヨーロッパ風だよね。ゲームの舞台だから、西洋風なのが当然だと思ってたけど。どうして共通点がこんなに多いのかなぁ?」
雑談をしながら、有沙はどんどん皿の上の菓子を平らげていった。胃を持たない精霊がどう食品を消化しているのか謎だが、とりあえず菓子の甘さやフルーツの酸味、チョコの苦味など味覚はしっかり働いている。そして今日の場合、それが一番大事なことだった。
「あー、久々のケーキ、めっちゃ美味しい~~~」
「リディア様にご満足いただけたなら、それが何よりでございます」
「うん、満足だよー。付き合ってくれてありがとう、エドガー」
自分は一杯の紅茶だけ注文した部下に、有沙は笑顔で礼を言った。
「いいえ。それよりもリディア様。お耳に入れておきたいことがあり、ご報告に参りました」
セルヴィッジ家から問答無用でここまで連れて来られたエドガーは、ようやく本題を切り出すことができた。
「アイトヴァラスに監視させていた、ラスキン男爵についてです」
有沙の結界に弾かれた時点で、すでに精霊たちは、イザベル・ラスキンを要注意人物として注察していた。エドガーは要点だけ絞って、今日男爵夫人が不穏な魔道具を購入し、さらにそれを、セルヴィッジ家に使うつもりらしいと報告した。
黙々とスイーツを口に運んでいた有沙は、闇の精霊からの報告を聞き終えて、「ふぅん……」と神妙な顔つきで呟いた。
「他人を操れる香水かぁ……。変わった魔道具があるもんだねぇ……」
「はい。その香水を使って、男爵夫人はセルヴィッジ家に何かを仕掛けるつもりのようです」
「何をするつもりだろう?」
「簡単なマインド・リーディングを行いましたが、男爵夫人は、アリッサ様のファースト・アニバーサリー・パーティーに出席したくないようです」
「うん、それで?」
「しかし欠席する理由がなく、会そのものを中止にしたいようです」
「つまり?」
「つまり……主役であるアリッサ様に何らかの不幸が起これば、パーティーが中止になって自分も出席しなくて済む、と考えたようです」
「は? 自分がパーティーに行きたくないから、パーティーそのものを中止にしたいってこと? そしてそのために、アリッサを殺そうとしているってこと?」
「……そのようです」
思わず目を伏せたエドガーに、有沙は「信じられない!」と声に怒気を含ませた。ただし本気で怒っているわけではない。その証拠に、空は快晴のままだった。
「どんだけ自己中なのよ、ラスキン男爵夫人はっ!」
「……仰る通りです」
有沙は怒りながらもスイーツを食べる手は休めず、「まぁでも……」と言葉を続けた。
「彼女が何をしたって、アリッサを傷つけることなんて不可能なんだけどね」
「はい。しかし、未遂だとしても罪は罪です。罰を与えるべきではないでしょうか」
「罰ねー……。でもあのラスキン男爵夫人って、クライヴのママなんだよねー……」
「クライヴ・ラスキン。……ラビサーの攻略対象の一人ですね」
「うん、そう」
有沙は遠い目をして、ゲームの中で出会ったクライヴの顔を思い浮かべた。……顔つきに勝気な性格が滲み出た、赤髪紅眼の美青年。最初はヒロインのエミリアにも横柄な態度だったが、イベントをこなす内に少しずつ隠れた素顔を見せてくれるようになった。甘い物好きで、小動物……特に猫が大好きという意外な側面を持ち、そのギャップがラビサー女子の間で高評価を受け、人気投票では断トツ一位のキースに次ぐ二位だった。
「主要キャラの身内だから、下手に罰とか与えちゃうと、いろいろと今後への影響が大きそうだよねー……」
「しかし、アリッサ様殺害未遂は、許されざる大罪です」
「そうは言っても、私がアリッサだから、爆弾落とされても死にそうにないし……。まあその巻き添えで、身近な人たちが傷ついたら嫌だけど……。それも、精霊たちが守ってくれてるから、大事にはならないだろうし……」
「リディア様。では今回のラスキン男爵夫人の罪は、前回のランズベリー男爵同様、不問に付すということですか?」
「まぁ、監視は続けるけどねー」
あまり興味が湧かない顔で、有沙は答えた。
「それよりその、香水を持ち込んだ商人……シモンって男? そっちのが要警戒な気がするなぁ……」
「もちろん、シモンにも見張りをつけました。デックアールヴという精霊虫で、対象者のポケットや鞄に潜り込んで監視します」
「せいれいちゅう……。ちょっと不気味だけど、絶対見つからないだろうね」
「はい。ラスキン男爵夫人の屋敷にもすでに、百匹ほどが潜伏中です」
「百匹も!?」
有沙はそこで、目の前の皿に乗ったロールケーキを見つめた。ストロベリー果肉たっぷりのクリームは、ピンクのホイップに赤い粒が点在している。
「食事中にはちょっと、想像したくないかもね……」
さりげなくケーキ皿を遠ざけ、有沙はそこで、ラスキン男爵夫人の息子、クライヴ・ラスキンという攻略キャラについて考えた。ゲームプレイ当時、有沙は王太子のジェイデン推しだったため、彼と不仲なクライヴには興味がなかった。アリッサへの愛ゆえに全キャラを攻略したが、クライヴルートはほぼ義務感のみでこなした。
「クライヴねー……。一見とっつきにくそうだけど、一度親しくなると、後は放っておいても好感度が上がるタイプだったなぁ。むしろ人気三位のジェイデンの方が、なかなか打ち解けてくれなくて、攻略も難しかったんだよねー……」
過去の思い出に浸りながら、有沙はそこで「あれ……?」と声を上げた。カップをソーサーに戻し、真剣な顔つきで記憶を辿る。
あれは……そう。ファンディスクで見た、クライヴの特典映像だ。
舞台は幼年学校の卒業式。卒業生代表として大勢の生徒に囲まれているジェイデンを、在校生のクライヴは遠巻きに見ている。卒業式とあって、式典には父兄も参加している。ジェイデンの両親である国王と王妃も貴賓席に着いて、階下の息子に笑顔で手を振っていた。
そんな彼らを見て、クライヴはチッと軽く舌打ちした。そしてそのまま踵を返し、式典会場から離れていく。
誰もいない学園裏の花壇の影で、クライヴは膝を抱えてうずくまった。そして一人、呟く。
「来年ある俺の卒業式には、両親どちらも不在だっていうのに……。正妃の息子ってだけで、あいつだけいつも特別扱いだ……。……チクショウ。いつもあいつばっかり……。同じ父親を持つ息子なのに……、どうして俺はいつも……」
膝に顔を埋め、幼いクライヴ少年は悔し涙を流す。
「どうして死んでしまったんだよ、母上……。母上が生きていたら、俺だってもっと……」
兄ジェイデンと妾の子である自分との置かれた境遇や立場の差を感じ、人知れず悲しむクライヴの、ゲームでは見られなかった切ない幼少期の思い出だ。
あのファンディスクでクライヴの章を見てから、有沙はこのクライヴ・ラスキンという青年を、すこしだけ好きになった。彼が感じた孤独を、自身もたくさん経験していたからだ。
が、今の問題はそこではない。
「ちょっと待って!」
いきなり大声を上げた有沙を、エドガーが驚いて見つめる。
「どうされましたか、リディア様」
「いや、どうって……言うか……」
混乱しそうな頭を押さえ、有沙はゲーム本編のあるシーンも思い出した。
学園の廊下で、アリッサとクライヴがぶつかったシーン。謝りもしないクライヴに、アリッサが「いったいどういう教育を受けてこられたのかしら?」と嫌味を言うのだが、それに対しクライヴが、「俺も誰かさんと同じで、早くに母親を亡くしたもんでね。躾がなってないのはお互いさまだろう?」と言い返すのだ。当然アリッサは激怒するが、それをエミリアと他の生徒が慌てて仲裁する、というクライヴルートの些細なイベントだった。
(……そう、ゲームの中のクライヴは、幼少期に母親を亡くしている設定だった。原因までは分からないけれど、ジェイデンがクライヴについて語ったシーンで、「あいつは不幸な形で母親を亡くしているから……」と言っていた。不幸な形ってことはつまり、普通の死に方じゃなかったってことよね……。でも、いったいいつ、何が原因で、クライヴのママは亡くなったの?)
とりあえず今現在、ラスキン男爵夫人は存命だ。だがそう遠くない未来、クライヴは母親を失う。ラビサーのシナリオ通りならば、それは確約された死なのだ。
「……大変だ」
顔色を変え、有沙は目の前でポカンとする闇の精霊を見つめた。
「もしかすると今回の件、命を落とすのはアリッサじゃなくて、ラスキン男爵夫人の方かも……!」
「え?」
「とりあえずエドガー。夫人の監視を強化して。そして彼女の身に危険が及んだら、絶対に阻止して!」
いきなりそう命じられた闇の精霊はしかし、真剣な表情で即座に「かしこまりました」と答えた。
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