第二十一話
「一人二役の精霊王さま」第二十一話です。
本作は毎週火曜日の更新を目標にしています。
ロイの村を出て、有沙はエドガーと合流し王都に戻った。
家々の明かりが消えた深夜。
ときおり風に揺らされた木々の音だけがかすかに響き、王都は静寂に満たされていた。
そんな静かな夜の道を、依頼人の男を乗せた馬車は北の門から王都に入り、下級貴族の邸宅が連なる東地区に向けて南下していった。やがて南地区に接する大通りの脇の、赤い屋根が特徴的な一軒の邸宅に入った。
「やっぱり黒幕は貴族なんだね……」
上空から馬車を追いながら、有沙は隣のエドガーに話しかけた。
「なんかショック……。セルヴィッジ家は侯爵も夫人も立派な人たちだし、人柄もいいし……。そんな侯爵家に、同じ貴族の中に敵がいるなんて……」
「立派すぎるのが理由かもしれませんよ」
馬車から転がるように下りた巨体が、裏口から屋敷の中へと入っていく姿を目で追いながら、エドガーが言った。
「そんな……」
有沙は何か反論しようとしたが、言葉が続かずうつむいた。
馬に乗っていた護衛二人は、馬車が門の中に入るとその前で馬を止めた。どうやら契約はまだ続いているらしい。
「とりあえず、あの男の後を追いましょう」
姿を消したまま、二人の精霊は屋敷の入り口に降り立った。
「この屋敷は、ハーリー男爵家の邸宅ですね。……セルヴィッジ家とは家格が違いますが、古い家柄であり多くの優秀な学者を輩出している家門です。当主のバイロン・ハーリーも細君も、人格者として評判の人物です」
「えっ……。そんな立派な人がどうして……」
「分かりません。僕も意外なことで驚いています」
まったく驚いていない顔と口調で、エドガーは言った。
「とにかく中に入ってみましょう」
「あっ、そうだね!」
二人はビヤ樽男の後を追った。幸い彼の歩みは遅く、すぐに追いつくことができた。男は二階のある部屋の前に立つと、表情を変えて扉をノックした。
「入りなさい」
老齢の男性の声が答え、男は中に入るなり一礼した。
「旦那様。ただいま戻りました。遅くなりまして申し訳ございません」
「おお……。ご苦労だった、ウェッバー」
(このデブな家来の名前、ウェッバーっていうんだ……)
屋敷の主であるバイロン・ハーリーと、部下であるウェッバーの姿を横から眺めつつ、有沙は下卑た笑いを浮かべるウェッバーを眉をひそめて見つめた。
白髭をたくわえ、優しげな面立ちの男爵に比べ、この部下はあまりに下品で性根が悪すぎる。だが例の指輪を男爵が欲しがったのなら、黒幕はやはり、この上品な老貴族なのだろう。
「御覧ください。良い出来ですよ」
ウェッバーが差し出した箱を受け取り、男爵は中を確認した。
「おお、これは素晴らしい……」
「この指輪ならきっと、奥様もお喜びになるでしょう」
「うむ、うむ……」
(ん、奥様……?)
思いがけない言葉を聞いて、有沙はエドガーと顔を見合わせた。
「今、奥様って言った? もしかして今回の依頼の指輪って、男爵が自分の奥さんへのプレゼントで用意したってこと?」
有沙の問いかけに、エドガーも困惑顔で「そのようです……」と言った。
「えっ、じゃあこの男爵は、奥さんへのプレゼントを、わざわざロイに依頼したってこと? なんで? テネーブル宝石店とかで買うのじゃダメだったの?」
「……ウェッバー」
老男爵は部下の肉厚な手を握り、感謝の念に堪えない、という表情で言った。
「本当に、君には感謝しているよ。大きな宝石を格安で手に入れただけでなく、親戚に頼んで、こんな立派な細工の指輪にまで加工してくれて……。長年連れ添ってくれた妻に、五十年目の結婚記念日に何か贈り物をしたいと願っても、私のような貧乏貴族では、手に入る品などたかが知れていた。だが君を雇ったおかげで、このような立派な指輪を妻に贈ることができる。本当に、本当にありがとう……」
「いえ、いえ。たまたま友人に宝石商がおり、たまたま親戚に細工職人がいただけのこと。私は何もしておりません」
「だがこんな立派な指輪。王都の宝石店で買えば、金貨十枚でも足りないだろう。それが、たった銀貨十枚で手に入れられるなんて……」
「えっ、銀貨十枚!?」
ふたたび衝撃的な話を聞いて、有沙はエドガーの肩に手をかけた。
「ねえ、エドガー。やっぱりおかしいよ。あの石は本物のルビーだったし、それだけで金貨一枚はしたはずなのに。あとロイに払った銀貨一枚はともかく、護衛二人にも報酬を払ったはずだし、完全に赤字じゃない」
「……ええ」
何か考え事をしながら、エドガーは「精霊王様」と低い声で言った。
「どうやら今回のターゲットは、セルヴィッジ侯爵家ではなく、このハーリー男爵家だったようです」
「え……? あっ……」
彼が何をしたのかすぐに察し、有沙は言った。
「エドガー。あの従者の心を読んだの?」
「はい。ハーリー男爵に笑顔を向けながら、あのウェッバーという男は、まったく違うことを考えていました。彼は騙された男爵を嘲笑い、これで“例の本”が手に入る、と喜んでいました」
「例の本……」
「では男爵様。私はこれにて下がらせていただきます。この指輪は当日まで奥様に見つからないよう、私の部屋に隠しておきます。お渡しするタイミングは、記念日のディナーの最後でよろしいでしょうか」
「あ、ああ……。そうだな……。うん、それがいい。この部屋は妻も出入りするから、何かの拍子に見つかってしまうかもしれない」
人の良い男爵は部下の言葉を疑うことなく、「頼んだよ、ウェッバー。今日は本当にご苦労だった。ゆっくり休んでおくれ」と、労いの言葉までかけた。
男爵の部屋を後にしたウェッバーは、ふたたび屋敷の裏口に回ると、そこで待機していた二人の護衛に指輪の箱を渡した。そして「手筈通り、これを“あの場所”へ届けてくれ」と命じた。
男たちは無言でうなずくと、すぐに夜の闇に紛れ消えた。
「あの二人の後を追いましょう」
「うん」
有沙はエドガーと共に今度は、二頭の馬の追跡を始めた。
二人の護衛は南地区の裏通りに来ると、そのうちの一軒に入った。一階が酒場、二階から上が宿という、普段は漁師や旅人などが利用する安宿で、港町ではめずらしくない建物だ。
彼らは酒場の細い廊下を通り、地下へ繋がる階段を下りていった。
地下にはいくつか部屋があり、一人が一番奥の扉を叩いた。中から扉が開き、黒いフードをすっぽり被った、やけに顔色の悪い若い男が顔を出した。
「例の品だ」
黒いフードの男は指輪の入った箱を受け取ると、「三日後にまた来い」と答えた。
やり取りはそれだけだった。護衛二人はすぐに宿から去った。
窓のない地下の部屋は狭く、暗かった。簡素なベッドと机、本棚には魔術に関する本や薬品が並び、冷えた空気に満たされて監獄のように見えた。
「前回はなぜか失敗した。だが、今度は絶対に失敗できない……」
壁にかかった細い蝋燭の明かりだけが灯る牢獄のような部屋で、フードの男が誰にともなく呟く。その声にはどこか、追い詰められた者特有の、ひっ迫した空気があった。
煉瓦製の床材には、赤黒い染料で魔法陣が描かれていた。複雑な文様が描かれた円形の中には、人のものと思われる茶色の毛髪が一束置かれ、フードの男はその毛髪の隣に、受け取ったばかりの指輪を置いた。そしてその場に跪き、呪文を唱えながら怪しげな儀式を始めた。
「……間違いありません。セルヴィッジ侯爵夫人に贈られたブローチも、この男が呪いをかけたのでしょう。同じ波長を感じます」
一人、儀式に没頭する魔導士を眺めながら、エドガーが言った。
「この男の頭の中を覗きましたが、今は指輪に術をかけることに集中し、ろくな情報が得られませんでした」
「そっかぁ……。じゃあちょっと、私のやり方で聞いてみるよ。えーと。対象者は、何だろう……黒いフードの男、でいいかな」
有沙はマインド・リーディングの画面を出し、さっそく入力フォームに質問を入れてみた。
「えーっと。あなたに呪いの依頼をしたのは誰ですか」
回答は早かった。
効果音を付けたパネルが「ピロン♪」と鳴り、質問の下に回答文が表示される。
だがその答えを見て、有沙は「えーっ」と不満の声を上げた。
「『知らぬ』って、何! 依頼者が誰かも知らずに、こんな危ない儀式をやってるの!?」
精霊王の叫びはそのまま質問フォームに表示され、それに対しても回答があった。
『依頼人が誰かなど、どうでも良い。そもそも、平凡な魔導士だった自分を攫い、暗黒魔法の術者にしたのが今回の依頼主だ。私は命令通りに術をかけるだけ。おそらく今度また失敗すれば、私は消される。それだけは避けたい』
「え……」
思いがけない男の言葉に、有沙は声を途切れさせた。
「ねえ、エドガー。今聞いたんだけど、この呪いをかけている人って、攫われてここにいるんだって」
有沙はさらにフードの男に訊ねた。
「あなたの名前は?」
『ダグラス』
「ここへ来るまではどこにいたの?」
『魔塔の古代魔法研究室で、研究員をしていた』
「攫われたのはいつ?」
『半年以上前だ。里帰りの途中に馬車ごと攫われて、一時期は別の場所に幽閉されていた。毎日怪しげな薬を飲まされた。おそらくひと月はそこにいた。ある日、また目隠しをされてここへ運ばれた。それからずっと、ここにいる』
「どうして逃げないの?」
『自分が逃げたら、故郷の家族を皆殺しにすると脅されている。……それに、私はもう以前の自分ではない。呪術が使える体になったということは、もう私は……人ではない。家族にも友人にも、もう会うことはできない』
(そんな……)
あまりに気の毒な魔導士の身の上に、有沙は胸が締めつけられるように痛んだ。
エドガーに事の次第を話すと、闇の精霊も同様に同情の眼差しで、フードに覆われた魔導士の横顔を見つめた。
「……なるほど。おそらく彼が幽閉されていた場所は、瘴気の溜まり場なのでしょう。しかし現在、そのような場所はウィスタリア近辺にありません。ですから偶発的に見つけたのではなく、人工的に作り出したのだと思われます。長時間瘴気に晒して魔族に近い体質の人間を無理やり造り出し、その者を脅して呪いをかけさせているのですね。……何たる非道な」
「ねえ。どうにかして、この人を助けてあげられないかな」
「そうですね……。ですが、精霊王様。この者を助けることも必要ですが、黒幕を捕まえないことには、第二、第三のダグラスを生むことになります」
「それはそうだけど……」
「ですから今は、ダグラスはこのままにして、ハーリー男爵家に戻りましょう」
「どうして?」
「あのウェッバーという男に、読心術をかけましょう。おそらくあの者は、黒幕の正体を知っているはずです」
「あ、なるほど……。分かった、じゃあすぐに行こう!」
二人は瞬時に場所を変え、ふたたび男爵家に戻った。
***
使用人としてはかなり上等な部屋を与えられているウェッバーは、一仕事終えて安心したのか、寝酒を飲み、だらしない姿で眠りこけていた。
はたして、眠っている人間にもリーディングが可能なのか不安な有沙だったが、精霊王の魔法は有能だった。
パネルが「ピロン♪」と鳴り、セルウィッジ侯爵家、ならびにハーリー男爵家に悪事を働こうとしている黒幕の名が、そこで初めて明らかになった。
「ブライアン・ランズベリー伯爵……。それが黒幕の名前……」
有沙の呟きに、エドガーが「なるほど」とうなずいた。
「ランズベリー伯爵ですか……。現在、貴族院の副議長を務める人物ですね。王国への経済的寄与の功績を認められ、地方の男爵位から伯爵位にまで地位を上げた、やり手の商人です。表向きは慈善活動に熱心な人格者を装っていますが、商売敵に対して汚い手段も厭わない、黒い噂の絶えない男です」
ウェッバーの真の主人はランズベリー伯であり、彼は伯爵の密命を受け、一時的にハーリー男爵家の執事となった。彼の役目は呪いの指輪の力で男爵夫人を病気にすることで、その治療薬と引き換えに男爵が所有する希少本を手に入れる、という計画らしい。
“例の本”が何かも判明した。古の大賢者モーリス・ブレアムが記したとされる、『賢者の書』と呼ばれる彼の自叙伝だ。
「モーリス・ブレアムって、ウィスタリア出身の大魔法使いで、魔神を封じた英雄の一人だよね?」
有沙の問いに、エドガーが「はい」と答える。
「原本は王宮の宝物庫で厳重に管理されていると聞きます。ハーリー男爵が所有しているのは写本ですが、それも世界に数冊しかない非常に貴重なものですね。男爵が自分しか知らない場所に保管しているようです」
「どうして伯爵はその本が欲しいんだろう。単に貴重な物だから?」
「分かりません」
「だよねぇ……。じゃあ今度は、そのランズベリー伯爵のところに行こうか……」
「そうですね。彼に読心術を施せば、すべての謎が明らかになるでしょう」
「うん。それにしても、ランズベリー伯爵かぁ……。なんかラズベリーっぽくて美味しそうな名前……」
そこまで呟いた有沙は、いきなりその名前に聞き覚えがあることに気づき、声を途切れさせた。ふいに脳裏に、ラビサーのあるシーンが雷光のように煌めく。
―― セルウィッジ侯爵家の屋敷で、義母を前に仁王立ちするアリッサ。侯爵令嬢は高慢さを滲ませ、継母に言い放った。
―― あなたの義兄であるランズベリー伯爵も、もとは地方の男爵家。大した後ろ盾もない田舎貴族の娘が、歴史ある我がセルヴィッジ侯爵家に後妻として入り込むだなんて、あまりに身の程を知らぬ不遜な行いではなくて!?
「っっっ、あーーーーーっ!!!」
蘇った記憶の衝撃の大きさに、有沙は思いきり叫んだ。
精霊王の驚きは天空を貫き、大きな雷電を生んだ。
ドーーーーーン!
地が裂けるような地響きと共に稲妻が屋敷を直撃し、その衝撃にベッドで寝ていたウェッバーは、丸い体をしたたか天井にぶつけた後、すごい勢いで床に転がり落ちた。
「ぎゃあっ!」
屠殺場に連れ込まれた家畜のように悲鳴をあげ、ウェッバーは床の上でゴロゴロと転がった。
屋敷の屋根には大きな穴が開き、雷が落ちた床板は無残に砕け、焦げた箇所から黒い煤煙が立ち昇る。
「何事だっ!」
「ウェッバーさん、どうしたんですか!」
屋敷中の人間が起きてきて、使用人部屋の惨状を見て茫然と立ち尽くす。青天の霹靂に直撃されたウェッバー自身も、わけが分からず、痛みにヒィヒィ喚くばかりだった。
「……精霊王様」
「……ごめん」
闇の精霊と精霊王は、すでにちゃっかり屋敷の外にいた。赤い屋根に空いた大穴を見下ろして、エドガーが呆れた顔で有沙を見る。
やらかした精霊王はと言うと、しかし一応詫びを入れたものの、さきほど気づいた真実に興奮が収まらず、「でもね、聞いて、聞いて!」と早口で捲し立てた。
「あのね、今、思い出したの! ランズベリー伯爵家って、ラビサーのヒロインだったエミリアの、お母さんの親戚だよ!」
「えっ?」
「エミリアのママで、アリッサの継母のケイラって女性だよ! えーっと、ケイラのお姉さんの旦那さんが、ランズベリー伯爵なの!」
「……つまり、セルヴィッジ侯爵の後妻の実家が、ランズベリー伯爵家、ということですか?」
「いや、実家じゃないけど、でも親戚なの! ケイラのお姉さんの旦那さんが、ランズベリー伯爵なの! つまり義理の兄ってこと!」
「……ふむ」
興奮しきりの有沙に対し、エドガーは冷静だった。
「しかしそれならば、伯爵がクラリス夫人を狙った理由も説明がつきますね。夫人とお腹の子を失い、傷心の侯爵に取り入って、自分の義理の妹を彼の後妻にあてがう……。貴族としての地位を盤石なものにするため、名家であるセルヴィッジ侯爵家に狙いを定めたのでしょう」
「は!?」
エドガーのこの発言に、有沙はまた衝撃を受けた。危うく二発目の雷を撃つところをすんでで止め、有沙は「そんな……」と声を震わせた。
「伯爵はそんなことのために、侯爵夫人に呪いをかけて殺したって言うの……?」
「そうとしか考えられません。精霊王様が知るゲームとこの世界が同時性を持つのならば、伯爵が夫人に呪いをかけた理由は、義妹のケイラを侯爵家に嫁がせることだったのでしょう」
「…………」
有沙は無言だった。何か言葉を口にすれば感情が暴走し、辺り一帯を大災害によって破壊してしまいそうだった。
「……精霊王様」
じっと黙り込んだ有沙に、エドガーが静かに声をかける。
「いかがなさいますか」
しばらく無言だった有沙だが、根気強く自分の隣で控える闇の精霊を見て、ようやく口を開いた。
「呪いの指輪ができるのが、三日後だよね。その日まで、ちょっと考える。とりあえずセルヴィッジ家に帰る。悪いけどエドガー。このハーリー家とランズベリー家に見張りをお願い。何か動きがあれば、その時だけ教えて」
「かしこまりました」
あえて余計な言葉は挟まず、エドガーは主君に向かって恭しく頭を下げた。
そこで立ち去りかけた有沙だったが、「あ、そうだ」と何かを思い出し、空いた大穴から部屋を見下ろした。
他の使用人に介抱されているウェッバーを見つめ、有沙は指先から魔法を放った。その途端、ウェッバーがまた新たな痛みに「うぐぉうっ!」と呻く。
「精霊王様。彼に何を?」
「ん? ……ああ。とりあえず事態が収束するまで、彼には抱えている持病全部、重篤な状態になる魔法をかけたの。あのウェッバーって男、糖尿病に高血圧、痛風に狭心症、腎臓病に脂肪肝まで患ってたみたいね。それが全部重い症状に変わったんだから、すごく辛いんじゃないかしら。真面目に治療せず放っておいたんだから、自業自得だけど」
「な、るほど……」
思いがけず厳しい罰を下した精霊王を見て、エドガーは一抹の不安を覚えた。
寛大で慈悲深いばかりが精霊王ではない。時には魔族よりも恐ろしく容赦がない、それが神に最も近い、精霊王という存在だ。
そういう意味では目の前の新しい精霊王も、歴代の精霊王に近づいたと言えるだろう。
だがなぜか、エドガーは今の有沙の有り様を、喜ぶことができなかった。
ロイの村からの帰り道。
自然に溶け込むような朗らかな笑顔で、この世界のすべての命を慈しみたい、そう言った彼女のままでいて欲しい……。
烏滸がましい思いと知りながら、彼はそう願わずにいられなかった。
第二十二話につづく
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