魔導師長の現場検証と宰相の判断
皇室が居城とするカイザー城の周囲を貴族街が取り囲んでおり、その先には平民街が広がっていた。
今の皇帝の治世により、貧民街は廃止され、全ての平民が等しく仕事に就いて暮らせている。
そんな平民街の路地裏に、数人の魔導師達が来ていた。
「此処が最初の事件現場だね?」
長い緑色の髪を一つに結わえ、灰色のローブを着ており、青い片マントを翻した端正な顔立ちの青年は目を丸くした。
アガサ・トワイライト。
帝国皇帝直属の魔導師師団を率いる魔導師長で、皇帝の幼馴染み。
「早速残存魔法が無いか、解析魔法を発動します」
アガサの弟子達は、杖に魔力を纏わせると周囲に解析魔法を発動させる。
解析魔法は四方の結界のように発動し、血の跡と共に僅かに残存魔法を映し出した。
「……この魔法は……チートスキルだね。ふんふん……」
アガサは顎に手を当てると、解析魔法に更に手を加え、詳しく魔法を分析していく。
「透明化スキルか。固有魔法でも聞いたこと無いねぇ。国民名簿にも所持する魔法は記載されるのが義務な筈なんだけど……どうやら、記載されてないようだね」
同時にアガサは、国民名簿を召喚してページを捲りながら照らし合わせ、難しい顔をした。
「記載違反と言うことは、平民とは考えられませんね?」
「貴族は貴族でも力のある貴族……」
「権力で隠したと?」
弟子三人は顔を見合わせた。
「司法省を黙らせる貴族はそう多くない。高位貴族と判断して間違いないね。ここからは宰相の出番かな?」
苦笑してアガサは肩を竦めると、転移魔法で弟子三人と共に姿を消す。
皇室が住む居城とは別に、執務や他の部署の仕事は全て後宮で行われていた。
何代か前の皇帝の全盛期には、夥しい贅が使われ美しい側室達が住む後宮として機能していたようだ。
やがて、側室や皇后の権力闘争で後宮は荒廃しいつしか棄てられた。
他の皇子や皇女との権力争いの末、即位した今の皇帝は後宮を再利用し今に至る。
アガサは後宮に戻ると、足早に宰相の執務室を訪れ報告した。
他の殺害現場からも同じ魔法の痕跡があり、同様の可能性が確実になったからだ。
「高位貴族か……。それは盲点だった」
銀髪の髪をオールバックにし、執務がしやすいラフな灰色のスーツを着た青年は眉間の皺を揉み混む。
ラルフ・マッテンヤー。
皇帝の右腕である宰相。皇帝の幼馴染み。
「司法省が絡んでるなら、僕達とは畑違うし、君から言って貰うよ」
アガサは目を細めてラルフに言った。
「仕方無かろう。司法省の長官を直ちに召還して問い質す」
ラルフは席から立ち上がると、青い片マントを右肩に付けて羽織る。
「任せたからね」
笑ってアガサは姿を消した。
「……ったく……」
ラルフは溜め息をつくと、表情を引き締め執務室から出ていく。