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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
二章
32/36

謁見の準備

長い間更新が滞って誠に申し訳ありません。

今思うと前話の最後に入れればよかった、ヨルムベルトの部屋を出たサーマイヤーフの様子と、部屋に残ったレオンハルトが作法の教授を受ける場面です。

「事前の予想とは違って忌々(いまいま)しい(じじい)だぜ!」

 ヨルムベルトの配下による案内を断って廊下に出たサーマイヤーフは、ラングルムとコンライレンにしか声が聞こえないのを確認すると、我慢に我慢を重ねていた罵声をあげた。付き従う2人も不愉快なのは同じで、主人を(いさ)めようとはしない。アイユーヴ王国ではエモル帝国以来の故事から、誰にも知られず気持ちを吐き出したり愚痴を言ったりする事を「按摩(あんま)の裏口」と呼ぶのだが、今のサーマイヤーフの振る舞いがまさにそれだった。しばらく罵詈雑言(ばりぞうごん)(ひね)りだすことに専念していた頭脳は、歩数と時間とともに建設的な方角へと(かじ)を切る。

「しかし俺を今更レイシン河方面から引き離すことに何の意味がある?(あらかじ)めどっちかの兄貴が後任人事を子飼いに定めていたんなら兎も角、まさか本気でレイシン河方面を混乱に陥れる理由が有るのか…?」

「案外、本気で閣下をシンドゥム戦線へと引き戻したいのかもしれません」

 コンライレンが比較的にヨルムベルトに好意的な、そして常識的な意見を述べる。サーマイヤーフの理性はその結論を()とするが、ヨルムベルトに相対(あいたい)した時に感じた薄気味悪い悪意がそれを否定する。

「いや、上手く隠してはいたが、あの(じじい)が俺を敵視していたのは間違いねぇ。あるいはレイシン河方面を迂回(うかい)する形で都市連合のどこかと、裏で手を結んでいたって事も有るかもな」

「ヴィセングルの総大将、ラインズマンはその手の(から)め手を嫌う男ですが、ルーチェ殿の指摘の通り、都市連合にこれまでの戦略思想を一変させる存在がいるとなればその思考停止も危険ですな」

「ああ。この件については今後あの狸爺(たぬきじじい)折衝(せっしょう)する中で情報を増やしていくしかないだろう。今は業腹(ごうはら)だが、奴の望み通り俺がレイシン河方面地域を追い出された場合の、アイク島の立場についてレオンハルトたちと相談しねぇとな」

 結論付けた3人は、シムレー号の乗組員たちが晴れ舞台の時を今か今かと待っている控室へと歩を進めた。


 控室に残ったレオンハルトたちはその頃、外務次官ロレンツォ・ギルバーグ直々に謁見での注意事項を教授されていた。その念の入れようたるや、行動のタイミングを説明するのにロレンツォ自ら謁見の場で流される音楽を口ずさむほど。サーマイヤーフの王族の中の立場や、自分たちがしばらくシルマンテにとどめ置かれたことから、王国のアイク島への冷遇を感じ取っていたレオンハルトは裏を感じてしまう。もし素直に従っていてはとんでもない結末が待っているかもしれないと思ったレオンハルトは、無礼を承知でロレンツォの真意を問い(ただ)すことにした。

「ギルバーグ殿、お話の途中申し訳ないのですが…」

「はい、なんでしょう?判りにくい箇所でもございましたかな?」

「いえ、根本的な所で…」

「ちょっと、レオンハルト…」

 どうやらルーチェも同じ疑問を感じつつも、素直に聴いていたらしい。レオンハルトが言いかけた内容を察してやめさせようとするが、既に尋ねかけてしまった為にロレンツォの方が話を進めてしまう。

「いえ、何かございましたら包み隠さず何卒(なにとぞ)

「では。あまりにも無礼な発言となることをご容赦(ようしゃ)ください。実は私どもは王国がアイク島との国交について正直意欲的でないと考えていたのですが。ギルバーグ殿の態度は真摯(しんし)そのもので、その食い違いがむしろ私にとっては警戒材料なのです。実のところアイク島についてどのように考えているのか、胸襟(きょうきん)を開いてお聞かせ願えませんか」

「なるほど。わかりますとも。実のところ王宮としては当初、あまりにも遠方に有り往来も容易ではないアイク島とは、それなりの付き合いをしておけばそれで良い、という考えでございました。またお疑いの理由として、言葉にはされませんでしたがサーマイヤーフ殿下のお立場の事がございますな?」

「ご明察痛み入ります」

「カシウス様のご懸念(けねん)は当然のこと。実は先の敗戦の責任の取りように関して、提案が有ったのでございます」

「単純な降格などの処置ではないという事ですか?」

 他国の人事になど本来口を挟むものでは無い。それ位は(わきま)えているレオンハルトだったが、ロレンツォの言い様が不吉なものを感じさせて、単純にサーマイヤーフを案じた質問が口をついて出る。

「元より殿下のお立場では降格人事という措置は難しかったのですが。殿下は本来シンドゥム戦線で活躍されていたことはご存じですか?」

「聞き及んでおります」

 レイシン河方面地域への異動については、王族同士の鞘当(さやあ)てという事で言及を控え、短く相槌(あいづち)を打つにとどめる。省略した内容への無言の返事か、あるいは政治的に正しい対応への評価か、満足気に(うなず)いたロレンツォは、ヨルムベルト考案のサーマイヤーフへの処遇について説明する。

「かっ…殿下をシンドゥム方面へ異動させる…それではやはり王国はアイク島との国交に消極的と」

「ちょっと、レオンハルト…様…失礼です、よ」

「カシウス様がそうお考えになるのも無理はございません。これまで友好的だった責任者を突然異動させるとなれば、外交方針が変わったと判断されるのが当然。しかし誓って申し上げますが、アイユーブ王国はアイク島使節団の皆さまとの間に緊張状態が生まれるのを望んではおりません。ただでさえ、東にはシンドゥム王国、西にはロッテントロット都市連合と、広大な国土を挟んでいるために連携を取られる事こそ有りませんが、忌避(きひ)すべき二正面状態を()いられるような地勢なのです。この上、常識外れの巨艦がこちらからは手の出せない遠距離から、海を越えて進撃してくるなど考えたくもございません」

 レオンハルトがサーマイヤーフがレイシン河方面から移転するという案から、想定せずにはいられない今後の二国間の関係に関する危惧(きぐ)を口にすると、ロレンツォは熱心に否定する。その態度には世間知らずの若者を口先だけであしらおうなどという雰囲気は微塵(みじん)も無い。どうやらアイク島はレテンド大陸に信頼できる友人を得られそうだ、とロシュエイミーの忠実な臣としてのレオンハルトは安堵(あんど)するが、アイク島の代表者としての責務がひと段落付いたという思考は、続いてサーマイヤーフという年嵩(としかさ)の馬の合う友との別れに移ってしまう。そんな複雑な気持ちを感じたレオンハルトがアイユーヴ王国の作法に従って、少しずつ伸ばしていた赤毛を(いじ)りながら、隣の金髪の少女を見ると、おそらくルーチェもライナとの別れを想像したのだろう、落胆の溜息を漏らしている。2人のアイク島人の気持ちを知ってか知らずか、ロレンツォはアイユーヴ王国の国情についての説明を続ける。

「そもそもカシウス様は先入観からやや勘違いをしておられるようですが、この国を動かしているのは間違いなく現在玉座に座っておられるショームード3世陛下であらせられる。王子間の派閥争いが有ることは事実ですし、我らもその辺りを考慮しながら政に(たずさ)わってはおりますが、陛下がその辺りの臣下の事情を飲み込んだうえで、この国を導いていらっしゃる事を忘れずにいただきたいものです」

 その言葉は確かにレオンハルトにとって大きな衝撃を与えた。アイク島人にとっては不道徳極まりない、妾に子を産ませるという行為から国王の存在をやや軽んじていた。しかし王国の主が王子たちではなく国王であることを忘れるなど、とんでもない不敬行為だったと言わざるを得ない。

「全くもって仰る通りです。なればこそこれからの謁見を栄光ある物としなければいけませんね」

「ご理解いただけて嬉しく思います。では我々の考えをご理解していただけたところで、再び謁見の段取りについての話に戻るべきなのですが…」

「何か気になることでも?」

「カシウス様の髪の毛なのですが、やはり王国人の感覚で見ると短いことに加えて、色が金色の方が高貴だと見做(みな)されているという事情もございまして。式典までもうあと(わず)かですが、(かつら)を手配するだけなら間に合うかと存じますが」

「ああ、なるほど。しかし今後しばらくは王宮に滞在させていただいて、外交上の実務を詰めていくのです。その間ずっと(かつら)で過ごすというのも難しいように思います。異国人であるという事で忘れていただければ」

「左様ですか。余計なことを申し上げました。では先程の話を続けさせていただきます。陛下が入室された後玉座へとお運びいただいてから、皆様に顔を上げるように促すのですが…」

「何かその時の手順などが複雑なのですか?」

「実際に顔を上げていただく前に、ゆっくり3つ程数えてから(おもむろ)に、と決まっているので、焦らないようお願いしたいというのも有りますが…お気を悪くされるかもしれませんが、公式の場で国王が直接言葉を交わすのは、賓客(ひんきゃく)といえども同格の王族のみ、という風習がございまして。陛下は(かたわ)らに控えた式部官に耳打ちし、その方が陛下に代わって使節団の皆さまにお声がけするという事になります」

 アイク島には無い習慣で、ルーチェは何を迂遠(うえん)な、という顔をしているが、レオンハルトはその理由も含めて了解する。

「アイク島の宮廷儀礼には有りませんが、一部の傲慢(ごうまん)な騎士階級の者が平民と直接言葉を交わすと(けが)れる、などと言う事が有ります。実際に陛下が我々を軽んじているという事ではなく、式典の作法として受け継がれているという事でしょう」

「ご理解いただき恐懼(きょうく)の極みです。(おっしゃ)る通りの理由でございます。ただ付け加えさせていただくと、そういう儀礼だからと通例では陛下御自身が特に事前にお言葉を考えず、実際には式部官の方がお話しになる場合もございますが、今回は直々に原稿を起草なさっておいでです。間に1人挟む形にはなりますが、間違いなく陛下御自身のお言葉ですので」

 理由を知ったルーチェは更に不思議に思ったようだったが、レオンハルトにはそれほど意外な事でもなかった。再度ロレンツォに気にはしていないことを伝え、その先の段取りについての説明に入ってもらった。

読んでくださってありがとうございました。

ご意見ご感想、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

次の話で実際に国王との対面が叶う予定です。

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