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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
二章
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第二王子派からの接触

謁見のシーンの前にサーマイヤーフとヨルムベルトの対決を描写します。

 アイユーヴ王国の首府アンソイルを練り歩いたレオンハルト以下のアイク島使節団は王宮に入ると、まずは休憩するようにと謁見の間にほど近い控室へ通された。サーマイヤーフとその副官2人も一緒で、王宮に入ればすぐ引き離されるかと覚悟していたレオンハルトにはやや拍子抜けだった。その事について部屋まで案内してきた儀仗兵は説明することなく、部屋で待機していた護衛、あるいは監視の役目を担う儀仗兵は詳しい事情を知らない様子だ。恐らくは王太子派では無い、つまり第2王子派の思惑に対する不安を棚上げして、サーマイヤーフ、ラングルムとコンライレンが交互に謁見の間に入ってからどう振舞うべきかをアイク島の面々に講義していると、部屋の扉がノックされる。扉を小さく開いて来訪者を確認した儀仗兵は驚いた様子で小さく(うめ)きをもらしたが、すぐに自分の役目を思い出したようでラングルムに耳打ちする。

「ラングルム、誰だ?」

「外務部次官ロレンツォ・ギルバーグ殿です」

「ほう、次官級が直々にお出迎えか。ギルバーグとやらは確か2番目の兄上様の子飼いだったな?」

「御意です」

「閣下、どういう…」

 訪ねてきたのはこちらが要求した謁見での儀礼をアドバイスするための使者だろう。それなのに含みを持たせた言い方をするサーマイヤーフに、何か有るのかと尋ねようとしたレオンハルトの質問は普段は乱暴に聞こえる口調の妾腹の王子に遮られた。

「レオンハルト…卿、王宮では私はあくまでも第3王子だ。殿下、と呼んで頂きたい」

「っ!失礼しました、サーマイヤーフ殿下」

 言われてレオンハルトも失敗に気付く。レイシン側方面地域でこそ一見傍若無人(ぼうじゃくぶじん)とも取れる言動で周囲を振り回すサーマイヤーフだが、王宮ではむしろ妾腹の第3王子という弱い立場にある。王族らしく在りたくはない等という我儘(わがまま)も当然通らない。

「それで殿下、そのロレンツォ卿とは確か外交の専門家だった筈ですが、此処にいらっしゃる事に何か疑問でも?」

「先ほども説明申し上げたが、王国の行政に携わっているのは平民です。卿という敬称は相応しくありません。姓に殿を付けるのが礼儀ですよ。部屋の前で待たせるわけにもいきません、残念ですが詳しい説明はまたの機会に」

 普段はべらんめぇ口調のサーマイヤーフの敬語にアイク島使節団全員が含み笑いを禁じ得ないでいるが、サーマイヤーフ自身は素知らぬ顔で儀仗兵にロレンツォの入室を許可するよう合図する。それなりに経験を積み重ねているらしい年齢と見える儀仗兵が扉を開けると、その地位に相応しい貫禄を備えた、綺麗に糊付けられた仕立ての良い衣服を着た初老の紳士が部屋に入り、滑らかな仕草で一礼した。

「失礼いたします。初めてお目にかかります、アイク島よりのお客様方。殿上(てんじょう)許可・書類閲覧(えつらん)許可局外務部次官、ロレンツォ・ギルバーグと申します」

「てんじょ…あ、ごめん、なさい…」

 耳慣れない名乗りに思わずルーチェが声をあげかけ、慌てて謝罪する。そういえば自分以外のメンバーは今日アイユーヴ王国の権力機構の概要を説明されただけで、そういった役職についてはレクチャーされていないな、と自分はロギュートフを通じてある程度学んでいたレオンハルトは思う。

「殿上許可・書類閲覧許可局とはこの国の行政機構の名前だよ、ルーチェ。平民の身分で王宮に入り、国家機密に関わる書類に触れることができる部署に所属している、という事だ」

「簡潔かつ適切な説明、痛み入ります。貴方様がアイク島からの外交使節団の代表、レオンハルト・カシウス様でいらっしゃいますか?」

「その通りです。ところで貴君は形式的にはともかく、実際はこの国の外交を差配(さはい)していらっしゃるのでしょう?()いてご自分を私の下に置かないでいただきたいのですが」

「いえ、それでは貴方様が平民と対等、という事になり、貴族の方々との交流ができなくなります。窮屈とは存じますが、平民と対等の位置に降りようとはなさいませんよう」

「なるほど…私どもアイク島人は長く他国との交流がなかったので外交儀礼には全く(うと)い。よろしくご教授願います。それと、シムレー号の乗組員のほとんどは外交へ関わる予定がございません。医師のジークのみは平民ではあるが教育を受けた技術者として、社交の場で私のパートナーを努めるこのルーチェは便宜上私と同じく貴族として扱っていただきますよう。他の者は平民として対していたければ大丈夫です」

「承知しました。早速謁見の場での立ち居振る舞いを指導させていただきたいのですが、その前に」

 ロレンツォの視線はサーマイヤーフに()えられる。この場で自分が話題に上がると考えていなかったサーマイヤーフはやや驚いたが、表面上は平静を装ってロレンツォが言葉を継ぐのを待つ。

「サーマイヤーフ殿下には、先のロッテントロット都市連合との戦争についての報告を、首府艦隊司令ヨルムベルト・ラキサリス殿へとお願いしたく存じます」

「承知した。ラキサリス殿の執務室への案内を頼めるだろうか」

「勿論でございます。これ、殿下をラキサリス殿の部屋へご案内申し上げろ。くれぐれも失礼のないようにな」

「はっ」

 ロレンツォが自分の後ろに控えていた、おそらく外務部に所属する部下に声をかけ、彼らが背筋をまっすぐに伸ばして答えるのを見ると、サーマイヤーフ、ラングルム、コンライレンの3人は彼らに先導されて部屋を出ていった。


 部屋を出たサーマイヤーフは紅に染め上げられた絹布に金の飾り紐がぶら下がった豪奢(ごうしゃ)なカーテンで飾られた、ガラスの大窓が等間隔に並ぶ美しい廊下を歩きながら、自分とレオンハルトの立場を少しでも有利なものにするための話術を練っていた。まずはこの官僚たちがあくまでも使い走りなのか、あるいはロレンツォと同じく第2王子派に与するものかについて探りを入れることにする。

「ところで目的地まではどれほどの距離が有るのかな?」

「30分ほどは歩いていただく事になります」

「そうか。では少しは雑談でもするかな。実はアイク島での結婚観を聞いた時は随分驚いたんだ。かの島ではたとえどんな顕職(けんしょく)に有っても、正式な結婚相手以外と関係を持つことはご法度なんだそうだ」

「男女の間柄が清いことは褒め称えられるべきかと存じますが」

「ふむ、それはそうだが。ところで私は妾腹の王子だということは知っていたかな?」

「それは…ご気分を害されたのでしたら謝罪申し上げます」

 案内人は常識的な対応をしたつもりで思いもかけぬ返しをされたと鼻白んだ様子だ。会話の主導権は握っていたいが、そのまま沈黙を続けられても困るサーマイヤーフは微妙に話題の方向性をずらす。

「しかし血を繋ぐ必要のある王だけは別でね。自分で相手を選ぶことはできないが4人の妻を持ち、どの母親から生まれた王子も王太子以外は対等に扱われるのだそうな」

「その王太子になる基準などは定められているのでしょうか?」

 単に長兄が王太子に相応しいと考えないということは王太子派では無いだろう。先ほど自分が妾腹だと明かした時の反応も真剣な謝罪のようだと感じた。ロレンツォに従っていたのだから第2王子派と考えるのが自然だが、サーマイヤーフの母の身分を意識していなかったという事は派閥争いとは無関係な立場の人間かもしれない。

「ところでギルバーグ殿ほどの高官が直々に接遇するという事は、王宮の上層部はアイク島との交流に積極的だと考えて良いのかな?もしそうなら、彼らと最初に接触した私としても鼻が高いのだが」

「残念ながらわかりかねます。ただ当初の予定ではギルバーグ殿が直接伺うのでは無かったと聞いております。部長のローランド殿もですが、外務部でも高い役職に就く方はあまりアイク島との外交には積極的でない雰囲気が昨日まで有ったので、今日ギルバーグ殿が殿下の要請に応えて腰を上げられたのには私も驚いています」

 あまりにも明け透けに自分の部署の内情を第3王子に話してしまう所から、この官僚はどこの派閥にも属さない下っ端のようだとサーマイヤーフは結論付ける。第2王子派は王太子派に追従してアイク島を無視する姿勢、あるいは隙を狙っての積極攻勢どちらも取り得るが、今日になっていきなり態度を変えるというのは尋常ではない。その辺りに自分が選ぶべき道の道標が無いかと、サーマイヤーフはあまり政治的な配慮をする必要のなくなった相手と積極的に話すことを決める。

「ギルバーグ殿は今日になって誰かと会談したという事はあったかね?」

「確かにございました。とは言っても、殿下からの要請を伝達する軍の高官の方が突然訪ねてきたというだけでしたが」

 それは確かに、こちらのアプローチに対するリアクションで第2王子派の意向とは無関係かもしれない。

「ああ、それは突然のお願いをしたこちらの不手際で迷惑をかけたという事かもしれないな。訪ねてきたのは我々を運んでくれたゾイゾットの艦長だったのかな?」

「いえ、首府艦隊司令のラキサリス殿です」

 ヨルムベルト・ラキサリスは一応は第2王子派だが、サーマイヤーフとの関係で言えば彼がレイシン側方面地域へと(ほう)じられた時に、当時のレイシン側方面艦隊司令だったヨルムベルトが首府艦隊司令へと栄転したという事情がある。おそらくサーマイヤーフに対しては好意的であると期待できるはずだ。また、当時ギスギスした関係だった各小隊指揮官との乏しい会話からも、野心はあるものの政治的な言動の一切無い硬骨の武人だったことは察せられた。思ったより自分の立場は安定したものかもしれない、と若干期待しつつサーマイヤーフはヨルムベルトの執務室へと、王侯貴族が闊歩(かっぽ)するエリアから、実務者たちの居るやや質素な階層へと移動していった。

予定では直接対決する筈でしたが、サーマイヤーフの警戒の独白で一話費やしてしまいました。

無謀を承知で陰謀劇に挑戦しているので、ぐちぐちと登場人物が悩む割に、ストーリーが進まない、という事が今後もあるかもしれません。

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